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エッセイ集 へいたのはなし

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エッセイ集です。ここに書いていることだけは本当の話です。おそらく、多分、だいたいは。
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#読書

エッセイ 歩くことは信じること(「みちのく潮風トレイル記 潮風ふわり」ほか感想)

エッセイ 歩くことは信じること(「みちのく潮風トレイル記 潮風ふわり」ほか感想)

 昨年の12月に文学フリマ東京にお邪魔した際、少し早くに東京駅まで行って開場までの時間で東京ステーションギャラリーで開催中だった「みちのくいとしい仏たち」展をみてきました。東北地方に残る民間仏の美術展です。

 観光で行くような由緒正しいお寺にある立派な仏師が作った立派な仏ではなく、地方の村で大工さんが作ったりした仏像の展覧会で、タイトルがいいなあと思って気になっていました。(下は展覧会のリンクで

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エッセイ 晒し一巻きほどの人生(「まぼろしを織る」ほか感想)

エッセイ 晒し一巻きほどの人生(「まぼろしを織る」ほか感想)

 私の母は浅草の靴職人の家に産まれた。高校生の頃、祖父が競馬の借金で首が回らなくなった上に酒浸りになったため、祖母に連れられて叔父と一緒に名古屋まで逃げてきた。祖父から逃げてきたはいいが、名古屋の方に親類がいるわけでもなかったらしく、しかも転居してほどなく連れてきた祖母が亡くなってしまったため、母は叔父を食わせるため10代で就職して働いた。

 ほしおさなえ著「まぼろしを織る」を読んだ。絹織物の仕

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エッセイ 踏みしめるのは自分の足で(『未踏』ほか 感想)

エッセイ 踏みしめるのは自分の足で(『未踏』ほか 感想)

 漫画「大白小蟹短編集 うみべのストーブ」を読んだ。大学卒業後、小説を書かなく(書けなく)なった女性を描いた「海の底から」に感じるところがあった。

 忘年会の集まりで、大学の友人たち二人がフリーライターやフリーターをしながら、歌集を出したり、文学賞の最終候補に残ったりしている近況を聞きながら、『仕事を一生懸命やっている』という評価の主人公(桃)は二人にこう言われる。

 自分についてになってしま

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エッセイ 「正直」な人【山本伸子「fumbling」ほか感想】

エッセイ 「正直」な人【山本伸子「fumbling」ほか感想】

 私は日中、どちらかというとサービス業に従事していて、顧客や関係業社と話をする機会が多い。勤め出して20年近くになる。けれどいまだに対人対応が不得手である。
 接客が苦手、というよりそもそも人との対話が苦手なのだと思う。「裏表」とよく言ったりするけど、私はこれを認識するのが昔から著しく下手だ。
「今度、食事に行きましょう」から「よろしく言っといて」まで全部忘れないように手帳に書いてしまう。他人に話

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エッセイ 邪魔しないで、今おはなしをよんでいるの(7月の読書記録など)

エッセイ 邪魔しないで、今おはなしをよんでいるの(7月の読書記録など)

 以前、スパイダーマンに関するショートショートを書いたところ、アベンジャーズははまるよ! という趣旨のコメントをnoterのヒスイさんにいただき、地味地味と「アイアンマン」から観ています。今日「アントマン」を観て、第2フェーズが終了です。甘野充さん(この方もnoteにいらっしゃいます)がおっしゃっていた『アイアンマンは永遠のヒーローです』の意味もわかるようになりました。キュートでめんどくさくてかっ

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エッセイ 苛烈な人(読書日記 中村きい子「女と刀」ほか)

エッセイ 苛烈な人(読書日記 中村きい子「女と刀」ほか)

 「違国日記」という漫画をシリーズで読んでいます。最新刊が出たので、やっぱり読む。事故で両親をなくした高校生の主人公と、主人公を引き取った叔母の物語です。叔母は小説家で、主人公の母親の妹で、独身です。共感するところが多く、つい何度もみてしまいます。例えば冒頭に挙げた文。彼女が学校の人間関係に悩む主人公に言ったセリフです。高校生に言うべきじゃないかもしれないけれど、人間関係で悩んでいる年下の女の子が

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