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エッセイ 邪魔しないで、今おはなしをよんでいるの(7月の読書記録など)

 以前、スパイダーマンに関するショートショートを書いたところ、アベンジャーズははまるよ! という趣旨のコメントをnoterのヒスイさんにいただき、地味地味と「アイアンマン」から観ています。今日「アントマン」を観て、第2フェーズが終了です。甘野充さん(この方もnoteにいらっしゃいます)がおっしゃっていた『アイアンマンは永遠のヒーローです』の意味もわかるようになりました。キュートでめんどくさくてかっこいいおじさんです。作風的にも、甘野さんがアイアンマンお好きなの、なんとなくわかります。

 マーベルシリーズを初めて観たのは「スパイダーマン・ホームカミング」で、前後に大量にわからないものの気配を感じるのにあっという間に終わった、ということに驚きました。ひたすらにアクション、そしてアクション。気がついたら終わり。以前「グランドブダペストホテル」を観た時に感じた衝撃を思い出しました。こちらは、もう少し重い内容も内包していますが、登場人物たちがひたすら動く、と言う点では同じです。独白や長考にではなく、ただ登場するものたちの動きで表現される物語を見てみたいし、書いてみたいと思っていました。

 noteで他におすすめいただいたものとして、読み聞かせのための童話や児童詩のアンソロジーである「ね、おはなしよんで」があります。挿絵は岩崎ちひろ、子供が書いた詩から、「おしゃべりなたまごやき」や「ないたあかおに」まで載っているというすごい本です。びっくりしました。

 子どものためのお話を書きたい、という希望がずっとあり、けれど「童話」というものに対して「短い」「表現がやさしい」「子どものためのもの」「大人もよむ?」など、自分では定義ができなかったものが、種々のおはなしを読むことによって、少し光がさしたように思います。ご紹介くださったりみっとさんに心よりお礼申し上げます。

 この本は初版が1962年と大変古い本で、それでも「おしゃべりなたまごやき」や岩崎ちひろを私が知っている、ということにも驚かされます。それに比べて、児童詩は(マザーグースをのぞき)ほとんど知りません。

 山村暮鳥という方の詩が一編あり、調べてみたらかなり活躍された詩人であるということ。青空文庫にも載っているので、そちらを少し引用してみます。

春の海のうた 山村暮鳥

さしたり
ひいたり
はるのしほ

はるの
ひながの
あをいうみ

ひよつこり
いそが
しづんだら

ぴよつこり
おふねが
うきだした

ぴよつこり
おふねが
ういたらば

ひよつこり
いそが
しいづんだ

いそと
おふねの
かくれんぼ(後略)

春の海のうた 山村暮鳥

 そう。
 これ、「独白や長考にではなく、ただ登場するものたちの動きで表現される物語」です。うおおおう。まじか。うそだろ。過剰な比喩や華美な装飾のない、ただ、モノを見る視点だけで表現されるもの。児童文学がいう「やさしい言葉で」が、単純に「簡単な言葉を使う」という意味ではないということが、つかみとれそうな気さえします。国語的な言い換えの技能ではなく、物語を作る表現技法そのものをさすのだろうと思う。ぐううう。手が届くんだろうか。

 こういった物語に固執するのは、多分自分が「共感できる」タイプの物語が苦手なせいだと思います。正確には、何か物語を読んで、『共感した』という感想を持つことがほぼないんです。そもそも、そういう読み方をしていないんだと思う。共感しなかった、というのは面白くなかった、という意味ではないんです。ただ、他者は他者で、それはどこまでも自分とは違うものだと思っていて、普段からあまり『共感』もしない。自分と同じものを相手に見つけても、それはそれというか、うまく言えませんね。

 こうやって、動きから物語を構築したり、他者を他者として見る、という習慣は、もともと(主に人形劇の)台本を書くことを長いことしてきたからだと思います。舞台上でも物語は展開しますが、一般にそれは「他者」の物語です。物語の主題や登場人物たちの心情は、観客があくまで他者として捉えるものであって、思考に共感を直接流し込んできたりはしません。私はそういうのが、好きなのだと思います。

 7月は、幻灯劇場という劇団の「鬱憤」というお芝居を見ました。現代の日常生活をきちんとふまえながら、それでいて、美しく、透明で、優しい物語でした。本当にいいお芝居で、またここの劇団を見に行きたいです。

 このお芝居の作者の藤井颯太郎さんという方を、わたしは「泊まれる演劇」というもので初めて知りました。「泊まれる演劇」は、ホテルに泊まると、そのホテルで観客自体が物語に巻き込まれるという形式をとる演劇です。役者さんについてホテルの部屋を移動したり、話しかけたりできます。観客の行動如何で物語が変わったりもします。イマーシブシアターというそうです。制作に藤井さんが関わっておられ、それもやはり優しく美しいお話で、この方の作る演劇を一度見てみたいと思っていたのでした。そして、観に行って本当に良かった。

 上演台本を買ってきました。物語の作り方を勉強したい、と思ったからです。世界の切り取り方を見習いたい。構造の分析です。こういうの、「逆バコ起こし」といったりするそう。

 これは、すすめられて読んだ本ではありませんが「スクリプトドクターの脚本教室・初級編」という本を読みました。シナリオ技術について書かれた本です。かなりドライに技術的なことが書かれていて、好感がもてます。続編も読むと思います。「逆バコ起こし」についても具体的に書かれています。
 本文の中で、こういうことをおっしゃっています。

 ちまたに流通している物語の構造はほとんどが使い古しです。

「スクリプトドクターの脚本教室・初級編」三宅隆太

 マネだからいけない、とかそういう意味ではありません。まったく新しい物語なんてそうないよ、という意味です。この世にもう、たいていの基本的な物語構造はでつくしている、くらいの意味。

 わたしもその通りだと思います。そして、(過去に一度台本を書いていて、その方面を諦めて)noteを始めて思ったことがもうひとつあります。

 私がものを書き始めていた当初、おそらくは自分自身が『新しい』と思っていたアイディアや考えはもうとっくに古くなっている、ということです。

 「こういうのがあったらいいな」は、もう、とっくの昔に、誰かが、ひょい、と飛び越えて書いてしまっているんです。

 創作系のSNSであるnoveleeで小説を書いておられるだんごむしさんにすすめられて「パーフェクトワールド」というコミックスを読みました。事故で下半身が動かなくなった青年と少女のラブストーリーです。青年は車椅子の建築家になります。車椅子生活者への取材もきちんと行われ、それでいて、ラブストーリーとしても成立しているいいお話だと思います。甘い空想だけで終わらない後半の方が好きですね。恋愛ものだと、普通の作品でもそこが書かれないことがありますものね。こうした、社会的にあまり拾われなかったお話を、文学作品として成立させながら書くものは、賛否両論あっても、どんどん良くなってきてるんじゃないかと思います。感覚が、追いつけていない世界を見せていただきました。どうもありがとうございます。

 先ほどの、山村暮鳥にしてもそうで、アベンジャーズの新しさ、だと思っていたものは、実は大正時代くらいに、とうに書かれている。

 自分が見つける「新しいもの」は当然ながら既に知っている方がいて、ああこうしたい、と思ったものも、先に飛び越えていっている。

 そうした、当たり前のことを、私は忘れがちです。

 自分の価値観を、いつまで見直し、壊し、再構築し続けていけるだろう。

 そういうことを思った7月でした。

エッセイ  No.011

登場した本など

映画「アベンジャーズ」(および関連作品)MARVEL

おなじみマーベル作品。名前はかなり前から知っていましたが、何度説明されても内容のわからない作品群でした。みた感想は、内容が全てわかる必要はないんだってこと。褒め言葉です!

「ね、おはなしよんで 新装版」
与田凖一、川崎大治、乾孝 編著/岩崎ちひろ 装画 童心社

子どものためのお話集ですが、「読み聞かせのため」という編集方針が貫かれており、現在では言葉の難しくなっている明治大正期のものは避けて組まれています。しかし、このラインナップの豪華さよ。児童文学版アベンジャーズですね(無理矢理つなげた)

幻灯劇場(劇団)

劇作家や映像作家、俳優、ダンサー、写真家など多様な作家が集まり演劇をつくる集団。旗揚げ公演『ミルユメコリオ』でせんだい短編戯曲賞を最年少受賞。
という紹介がHPにあります。まだ一作しか拝見していないので、あんまり詳しくは。でも、美しく、優しい演劇に、久しぶりに心が動きました。

「泊まれる演劇」

ホテルで物語を体験する演劇。脱出ゲームなどの体験型イベントとは、またちょっと違います。誰かの物語を「目撃する」という点でかなり演劇的な体験だと思います。サムネイルの写真の「Please Don't Disturb」のプレートは、このイベントが行われた実在するけど、架空のホテルのノベリティです。


「スクリプトドクターの脚本教室・初級編」三宅 隆太(著/文)新書館

日本で数人しかいない「脚本のお医者さん」である三宅隆太のシナリオ指南書です。表現方法や物語の構想について、かなりドライな目線で解説してくださっています。とても勉強になります。

「パーフェクトワールド」(全12巻)有賀 リエ(著/文)講談社

車椅子の建築家と幼馴染の女性のラブストーリー。大人向けの「お仕事もの(登場人物に特別な設定がある)」は、なんとなくイメージが固まってしまっていて苦手意識が強いです。こちらは、事故でおってしまった不自由さが最大の恋の障害となるラブストーリー。取材がちゃんとされており、登場人物たちも自分の生き方と向き合っていて好感がもてます。思っていたのと違う、というか、こういうタイプの話はどんどん進化しているなと、と感じます。私たちの、というか、私の考えも、ちゃんと、こうしたことと向き合えるようになっていけたらいいと、そう思います。