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Kindle本『塀の中の教室』のあとがき公開。

『塀の中の教室〜元法務教官が語る更生の現場』

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あとがきを公開いたします。

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あとがき(おわりに)

 法務教官は謙虚な人が多いです。試行錯誤を繰り返して、それでもなお上手くいかないことが多いからだろうと思います。

 そもそも教育は絶対に一人では完結しません。健やかな人格は多様な人々との関わりの中で育まれます。仮に世界一の教育者がいたとしても、その人が一人で教育するくらいなら、複数の素人がゆるやかに関わりながら一緒に生活していくことの方が大切です。それが分かっているからか、現場で活躍している法務教官の多くは、同僚に対しても、自分の実践をあまり人には語りません。

 私は2018年から匿名の現役法務教官としてTwitterで発信を始めました。少年院の教育機関としての認知度の低さを憂いたからです。個人情報や機密情報に触れないようにするため、発信の主な内容は法的な仕組みと個人的な実践の切り抜きでした。

 でも、私自身、自分の実践が常に絶対正しいと思ったことはありません。また、私の指導も「他の先生方との連携」や「子どもたちとの関係性」という文脈の中で生み出されたもので、個人で完結するものではありません。

 今回この本を書いたのは、少年院の教育活動と非行少年の現実について、改めて、一般の皆様が語り合う入口を作りたいと思ったからです。

 僕のこの本は、きっと多くの法務教官から批判されることだろうと思います。

 「お前が知ってるのはほんの一部だろ」
 「勝手に代表者みたいなツラで語るな」
 「辞めた人間が何をしてるんだ」

 書きながら、そんな声が何度も脳裏をよぎりました。でも…それでも書いて、出す必要があると信じて書き続けました。全国で働く法務教官よりも、遥かに多くの一般の皆様に知っていただくために。

 「後出しじゃんけん」という遊びがありますが、あれは先に出す者がいなければ成立しません。先に出せば勝敗は相手に委ねられるわけですから、先に出すには勇気や覚悟が必要ですが、それでも後出しじゃんけんが成立するには、先に出す人が必要なのです。この本が多くの方に読まれ、そして法務教官に読まれて、私より優れた実践を持つ人が、今度は正式な形で、少年院は教育機関であると世に訴える本を書いてくれることを望みます。

 Twitterを始めて3年が過ぎ、4000もの人にフォローしていただくことができました。その間「へいなか」として講演させていただいたことも多く、数え切れないほどの教育者や保護者とつながり、語り合ってきた。

 ネットの世界には、様々な教育の実践が報告されています。互いに批判しあっていたり、時に炎上していることもあるけれど、必要であれば指導案すら検索できる時代になりました。

 それなのに…

 少年院や少年鑑別所の教育活動に関する情報はほとんど出てきません。出てくるのは現場を離れた堅い話と、わかりにくい法律用語で書かれたものばかりです。正確に伝えようとするあまり、見えない世界を余計難解に表現したそれらの情報は、実物以上に高い塀を市民との間に築いているように私には感じられます。

 この本によって、少年矯正の現場がほんの少しだけイメージしやすくなり、

 少年院は教育機関
 法務教官は教育者

 というメッセージが、現実味をおびて伝わっていたら嬉しいです。

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巻末付録
「安部的矯正教育7ヶ条」
「担任としての思い出」

を含め合計で約2万字。

Kindleの電子書籍ですからスマホかタブレットでお読みいただくしかないのですが…少年院の全体像から少年非行の背景と更生のきっかけなど,30分程度で概観できる内容になっています。

ぜひお読みください。


放デイのスタッフをしながら、わが子の非行に悩む保護者からの相談に応じたり、教員等への研修などを行っています。記事をご覧いただき、誠にありがとうございます。