#DX コロナ禍で何が変化したのか:2. コミュニケーションとファシリテーション:後編

前回の続きとして今回はファシリテーションに関して述べたいと思います。

特にリモートワーク環境下においては、ファシリテーション能力の重要性が際立ったのではと、個人的には感じています。

その原因としては特に、オフラインと比べると参加意識が低下しやすく、議論を今まで以上に俯瞰的に捉えてしまうために、無駄を感じやすくなったことなどが、原因として挙げられると考えます。

冒頭に「重要性が際立った」と記載しましたが、元々重要だったものが再認識されたという事象だと、個人的には考えています。

オフラインで顔を突き合わせた議論では、説明の難しい”勢い”や”一体感”のようなものを感じやすいですが、Web会議だと、参加者全員の表情も俯瞰して見えてしまうことや、画面を挟むことがその効果を低減させているのかもしれません。
人間というものは、その場の雰囲気に飲まれやすい、という証左でしょうか。

ファシリテーションとは、人が集まる場所や会議や対話などで発揮する能力で、司会進行だと意訳されることが多いですが、ここでは「会議や対話の終着点として、何かしらのネクストアクションを得ることを目的とした手段としての技術」と定義します。

例えば、
会議では、その目的が、ディスカッションや合意形成・承認などの何れであっても、”結論を出して次に何をするのか?”を決める必要がありますね。仮に、議論の決着がつかなくとも、残論点を明確にして、それについて次はどう話し合いを進めるのか?を明らかにする必要があります。
逆に、何の結論もネクストアクションも無ければ、”無駄な会議”となるでしょう。

セミナーや講演会、研修などでは、話すのは登壇者ですが、視聴者や受講者に、ネクストアクションを示唆することが、ゴールになるはずです。
私自身、ウェビナーのファシリテーションを務めているため、特にこの点は、非常に熟慮し、そうならないよう尽力している部分です。(”へーそうなんだ〜”で終わってしまったら、視聴者様のお時間を無駄にしてしまいますので)

普段の会話でもファシリテーションは役に立つはずです。

特に、まだあまり親交が深くない人達の集まりであれば、自分自身も含めて、何かしらの次の行動への機会を得る方が良いのではないでしょうか?

このネクストアクションは、非常に広義なので、ここでは会議におけるファシリテーションにフォーカスします。

会議におけるファシリテーション

まず、良いファシリテーションを実施するために必要な要素を、3つの時間軸と、5つのポイントで整理します。

■3つの時間軸

⑴会議前  :事前準備とアジェンダの設計
⑵会議実施 :ファシリテーションの発揮
⑶会議実施後:論点整理とネクストアクションの再確認

■5つのポイント

①アウトカム
②前提と問い
③インプットとアウトプット
④意見の種類分け
⑤優先順位の決定

上記の組み合わせは以下になります

⑴会議前  :事前準備とアジェンダの設計      →①②③⑤
⑵会議実施 :ファシリテーションの発揮       →①②③④⑤
⑶会議実施後:論点整理とネクストアクションの再確認 →①⑤

以下、時間軸に沿って説明していきます。

⑴会議前:事前準備とアジェンダの設計

[必要なポイント]
①アウトカム ②前提と問い ③インプットとアウトプット ⑤優先順位の決定

会議のファシリテーションにおいて最も重要なのが事前準備です。

これはよくプレゼンテーションのノウハウなどでも言われることですが、まさに準備が8割だと考えていただいて良く、事前準備でファシリテーションの質が決まると言っても過言ではありません。

まず、必要なポイントに沿って準備します。

①アウトカム

アウトカムとは、「アウトプットを解釈して実行することで得られる成果」のことです。議論というアウトプットを通じて得る、ネクストアクションに繋がる結論や仮説が、会議における成果だと考えます。

「会議をしていないのに、どうしてアウトカムが準備できるのか?」と疑問に思われた方もいらっしゃるかもしれませんが、ここで準備するアウトカムとは、アウトカムとしての仮説をいくつか準備することです。

もちろん、会議の成果が、会議実施前から既に決定してるのであれば、議論は不要です。
ただし、だからといって、会議の成果としての仮説を何も持った状態で臨めば、会議はただ発散するばかりで、何の結論も出ずに終わる、という状況に陥るリスクを大きくします。

ただし、単一ではなく、アウトカムとしての仮説が複数あることが重要です。単一のアウトカムだと、その成果を得たいという欲求に飲まれ、これも議論の意味をなさなくなります。

アウトカムを用意することで、議論自体の旗印となるため、ファシリテーションを実施する上での道筋になるため、最終的に議論を収束させやすくなります。さらには、複数の選択肢があることで、議論の幅を広げ、結論に到達するための多様なストーリーを構築していくことが出来るようになります。

ここで、“選択肢”という表現をしているのは、議論の幅を広げるだけでなく、当初は気付けていなかった、より良い結論を、議論を通じて得る可能性に対しての余白です。

また、ゴールや目的ではなく、アウトカムとしていることにも意味があります。
ゴールや目的としてしまうことで、例えば「合意形成を取得する」「承認を得る」など、どうしても議論が会議そのものに閉じてしまいやすく、会議自体が終わることを目的としてしまいがちです。

会議での合意形成や承認が間違っている訳ではありませんが、会議自体を目的にしないということです。

事業・プロジェクト・タスクなどを、より良い方向性へ進めるための一つの手段として、会議や議論の実施があるはずですので、会議自体のゴールや目的でなく、その先のネクストアクションに焦点を当てるためにも、アウトカムが大切になります。

②前提と問い

コミュニケーションに関する記事で述べたことと同様ですが、議論の混乱やズレを招く一番の要因は言葉の定義をはじめとする前提のズレから発生します。

何のことについて言及しているのか、どのような議題なのか、そこで使っている言葉は、そのコンテキストを含めて、何を指しているのか、などを会議参加者と事前に共有認識を持っておくことが大切です。

組織には暗黙知があり、共通言語によって形式知化しているものもありますが、何となくのニュアンスで理解していて、実際にはコンテキストが違っていた、ということは発生しがちな問題ですので、アジェンダを設計する際などに、同様のドキュメントに前提を丁寧に記述することで、ズレをできる限り修正することが可能です。

その上で、「問い」を設定します。

会議の場で考えて、すぐに質の高いアウトプットを出せる方は良いですが、スキル面だけではなく、議題に対する知識量にも依存しますので、事前に、アウトカムを導くために必要な”問い”を共有し、参加者にも事前準備を促すことが、議論の質を上げるポイントになります。

どのような問いを投げるかは、非常に難しい問題です。

まず、「はい、いいえ」で答えるようなクローズな質問は当然避けた方が良いですが、抽象度が高すぎても議論が発散しやすくなる可能性が高いです。
そのため、先の「前提を揃える」ことで、問いの抽象度を補完することができます。

③インプットとアウトプット

ある程度、前提知識を揃えておかないと、議論に全くついてこれない人が出てしまう可能性が高いので、議題や問いに関して、何かの文献や知識を参照している場合は、参加者に対しての事前のインプットも当然大切です。

ただし、押し付けは厳禁です。

あえて事前インプットをしないことで、バイアスを避けた新たな切り口を見出せる場合もありますので、インプットの判断は参加者に任せ、あくまで参考として共有するのが良いかと思います。

必要なポイントの①〜⑤のなかで、最も重要なのが「アウトプット」です。

具体的に何に対して議論を交わすのか?を表現するものをアウトプットと呼んでいます。
このアウトプットがあることで、はじめて建設的な意見ができると言っても過言ではありません。
アウトプットなき議論は空中分解しやすいです。

例えば、
新製品や新サービスのアイデアに関して、議論を実施したい場合、簡単なモックやデモ画面などのアウトプットがあれば、それに対して良いのか悪いのか、改善点は何か、といった議論が展開されますが、アウトプットがなく、その場で「こんな形で、こんな機能があって〜」とか「こんなことが出来て、こんな課題が解決できて〜」という話をしたところで、まず全員が同じイメージを持てるでしょうか?

余談ですが、
ピッチコンテストなどは、端的にサービスの良さをプレゼンするコンペですが、「確かにそれができたらビジネスチャンスがありそう!」という理解はできたとしても、具体的にどう解決されるのかはイメージが難しいはずです。
特にエレベーターピッチなどは、それがビジネスとして面白そうか?という興味を持ってもらうことが目的ですので、議論ではありません。

アウトプットがなく、イメージが持てない、または全員のイメージがバラバラの状態では、議論は発散するばかりで、その議論の終着点は、「良さそうだから、一度作ってみて」で終わるでしょう。

また他の例で言えば、
新たな取組の実施や仕組みを取り入れたい場合でも、その場で口頭で伝えても、なかなか人はイメージできません。

同様にデモ画面や簡単なスライド・スプレッドシートでのイメージをアウトプットとして議論を進めた方が、視覚情報によってイメージが具体化され、より建設的な議論ができるはずです。

「あ〜、何となくやりたいことは分かったけど、具体的にどうやるの?」→「じゃあ一度作ってみます」という話であれば、わざわざ会議の時間を取らなくとも、事前に確認できるレベルですね。

⑤優先順位の決定

1つの結論を出すにも、いくつかの議論をする必要がある場合がありますが、やはり時間は有限なので優先順位を決定しておくことは重要です。

必ず議論をしなければならない論点は何か、最悪議論できなくとも物事を進めることはできる論点は何か、を整理して、アジェンダを設計することが大切なのは当然ですね。

⑵会議実施 :ファシリテーションの発揮

[必要なポイント]
①アウトカム ②前提と問い ③インプットとアウトプット ④意見の種類分け ⑤優先順位の決定

事前準備をしっかりと実施していれば、①②③⑤はあまり注力する必要はありません。
ここで記載した理由は、会議の冒頭に改めてこの4点を抑えることが大切だからです。

時間の関係上、全てを事細かに説明することは現実的ではありませんが、特に、①アウトカム ②前提と問い ③アウトプット、に関しては、参加者の目線合わせやフォーカスを合わせるためにも、丁寧に実施した方が良いと考えます。

これは会議の目的にもよりますが、
例えば、提案に対しての承認を得たい場合や、メンバーのベクトルを合わせることが目的である場合は、得たいアウトカムが定まっているケースが多いと思いますので、その場合には、①アウトカム②前提と問い③アウトプット、に関して冒頭での(ある程度強烈な)マインドセットが重要になります。

一方で、より多様なアイデアを求めたい場合であれば、マインドセットがむしろバイアスを生む危険性を孕んでいますので、②前提と問いを強調して、他はさらっと話すくらいで良いと思います。

ファシリテーションスキルは、ここで記載したポイント以外にも様々ありますが、特に

④意見の種類分け

が重要だと個人的に考えますので、このポイントにフォーカスします。
理由はやはり、議論は、発散させるよりも収束させる方が難しい、つまりアウトカムがブレやすいから、です。

自分で述べながら、私自身もいつも苦慮するポイントです。

意見の種類分け方は、まず「ネクストアクションにつながる / 繋がらない」で判断します。

そのためのポイントは以下の整理で考えます。
・実現可能性
・新たな切り口
・否定
・所感

上記のポイントは、あくまで議論の方向性を収束させるための頭の中での整理として活用します。

議論の整理として、まず最も注視すべきは「実現可能性」です。

特にビジネスにおいては、そもそも実現できないものは議論してもネクストアクションに繋がりにくいので、あまり意味を見出さない可能性が高いです。

アイデアとしては面白いが実現可能性が低いものは、現時点で注視する意見ではない可能性が高いですし、すごく高尚な意見を言っていても、知識をひけらかしたいだけになってしまっている場合もあるでしょう(そうする人の否定ではありません)。

また、「そもそも」という言葉が出た時も要注意で、すぐには変えることの難しい制度や仕組み・環境のことを言及してしまう場合が多いです。

ただし、人は、各々が様々なコンテキストやバイアスを持ったうえで意見を述べます。前提を揃えたとしても、その理解は促せますが、全員の置かれている状況や背景までを統一することは不可能だということを、理解した上でファシリテーションを実施する必要があります。

実現可能性が低そうな意見が出た時には、「それは今は無理」と突き放して否定してしまうと、その方だけでなく、周囲も物怖じして意見自体が出にくくなってしまいます。

「それは良いアイデアだね!それを実現させるには、どうすれば良いだろう?」と問いかけてみると良いかと思います。

否定や所感も同様に、突き放すのではなく、意見は意見として受け入れつつ、頭の中では、意見を収束させる際に論点から外していくもの、という整理をすれば、議論のブレが少なくなりやすいです。

実は重要かつ最も判断が難しいのが「新たな切り口」からの意見です。

一見実現が難しそうに感じるものや、批判に聞こえるものは特に難易度が上がります。

ここでも重要なのが、突飛な意見に聞こえたとしても、どう実現するのか?ネクストアクションにつながるのか?という整理で考えます。
実行可能なのであれば、それは新たな道筋となる可能性がありますので、枠の外に出すことは、むしろリスクが高まってしまいます。

このようにして、ネクストアクションに繋がるのかどうか、を整理しながら意見を収束させてアウトカムにフォーカスした議論展開を心がけます。

⑶会議実施後:論点整理とネクストアクションの再確認

[必要なポイント]
①アウトカム ⑤優先順位の決定

会議で議論された結論やネクストアクションは認識されているはずですが、会議は現在進行形なので、人によっては分かっていても整理されていない、という状況は往々にして発生しがちです。
また、8割は忘れるのが人間です。

改めて、アウトカムやネクストアクションを明文化することで整理することで、参加者の理解を深め、共通認識を生み出し、データとしても残すことが出来ます。

手間に感じますが、ネクストアクションに確実に繋げるためにも丁寧に実施することが重要です。


以上、参考にしていただければ幸いです。

「もっとこうした方が良い」「それは間違っている」というご意見ございましたら、ぜひご連絡いただけると幸いです。


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