#DX コロナ禍で何が変革したのか:2. コミュニケーションとファシリテーション:前編

かなり間が空いてしまいましたが、前回の続きとして、コロナ禍での変化におけるアウトプットの質を高めるための一つの能力である、コミュニケーションとファシリテーションに関して、論じたいと思います。

とはいえ、私もコミュニケーションの絶対の自信があるかというと、そうではありません。むしろ内省すべき点が多々ありますし、日々精進が必要だと感じています。

コミュニケーション能力とは何か

コミュニケーション能力とは、「相手に伝わる技術」と言い換えることが出来、さらには、「相手に伝わったことで、相手がその影響から何かしらの行動変化を起こす」ことが求められるかと思います。

これはかなり至難の業で、どれだけコミュニケーション能力を鍛えようが、相手によってその伝わり方が変わってしまうケースが往々にしてありますし、突き詰めれば、古より脈々と続く、人とは何かという問いを求める哲学や、「人間はそれほど合理的な意思決定をしない」という、経済学に対するある種のアンチテーゼと言える、心理学や行動経済学などの研究分野にまで言及される内容にもなります。

同時に、AIを用いた言語認識においても、かなり長い期間研究が続けられている分野で、コーパスのような大量の言語・文章データを活用しての翻訳精度向上や、最近ではチャットボット等の活用によるコールセンターの業務改善の成果がかなり目立ってきましたが、現段階(執筆時)では、まだまだコンテキストを理解するなど、その言葉や文章自体の意味付けに対してのハードルはかなり高い状況です。
(※チャットボットが必ずしもAIを使っている訳ではないですのでご注意ください)

余談ですが、近代言語学の嚆矢ともいえる、哲学者フェルディナン・ド・ソシュールが言及した「シニフィアン」と「シニフィエ」に代表されるように、言語の違い(文化の違いと言うべきか)よって、言葉の概念や意味が変わることも鑑みると、かなり難しいテーマであることは間違いないかと思われます。

話が逸れましたが(逸れがち。。。)、リモートワークの急速な浸透によるコミュニケーションの変化にもう少しスコープを絞りたいと思います。

コミュニケーションの課題を発生させ得る日本独自の文化・時代背景

前回の記事で、日本とドイツに代表される欧米とのリモートワーク事情の対比によって、日本の出遅れ感を示唆しましたが、とはいえ、リモート環境化におけるコミュニケーションの難しさは、世界共通で感じているのが実態です。

実際に、リモートワークでどうコミュニケーションを円滑にすべきか?というテーマの英文記事もいくつもありますし、アメリカを代表するテック系の企業がリモートワークの継続判断をしたこと自体も記事になるくらいです。

とはいえ、その中でも日本は特にコミュニケーションにおいて課題を抱えているケースがが多いのではないかと考えます。

まず前提として、これまでの日本独自の文化や時代背景が影響していると考えます。

  1. 空気を読む

  2. 村落共同体的コミュニティの形成

  3. 言語自体の難しさ

1. 空気を読む、とは具体的にどういうことでしょうか?

相手の意図を汲むことや、エンゲージメントの高まりなどの勢いや流れのようなものも、その一つだと考えられますが、日本独自の特徴に焦点を当てるならば、「忖度」が挙げられます。

忖度はネガティブなイメージで使われることが多いですが、本来の言葉の意味合いとしては「相手の気持ちを考慮する」というポジティブなものです。ではなぜ、ネガティブなイメージが強くなるのか?といえば、年功序列と倫理が関係しているとかんがられます。

ここで言う年功序列とは制度そのものを指します。

自分よりも多くの経験を通じて学びの深い方々を敬うというのは非常に素晴らしい考え方で、それが経験や学びの多さ ≒ 年上であること、と比喩的に転じた結果の年功序列が本来の意味だと考えます。

しかし、それが制度として確立される、つまりシステム化されることで、尊いというラベルを付与する判断基準が「より高年齢であること」となり、それが評価の基準となることで、本来の意味を歪曲してしまい、それが悪い意味での権力の防波堤となって、「忖度することで自分の評価に傷を与えないようにする」という状況になっていることが問題だと考えます。

倫理においては、今回の主旨から外れてしまいますので深く言及しませんが、倫理観と忖度が悪い方向へ重なり合うことで、粉飾決済などの重大な問題が発生していることも事実であると感じます。

2. 村落共同体的コミュニティの形成

感覚的に理解頂けるでしょうが、少しだけブレイクダウンするならば、「終身雇用制」や先程の「年功序列」といったものが、大きな変革期を迎えているとはいえ、根強く残って影響を及ぼしているものと考えられます。

3. 言語自体の難しさ

そもそも日本語は、平仮名・カタカナ・漢字、と3種類もの言語表記が混在する時点で複雑ですし、さらに和製英語が存在したり、「侘び寂び」に代表される情緒を表すような、厳格な定義が難しい言葉が存在しますので、それは複雑なはずです。

また他にも、特に話し言葉では「主語」や「目的語」を明言せずとも、展開されるケースが多々あることを鑑みると、日本語を習得されている海外の方々は、それは途方もない努力をされているのだろうと尊敬をせずにはいられません。

「リモート環境におけるコミュニケーションの質を高めるという話なのに、何を当たり前なことを言っているのか」と、感じた方もいるしれませんが、私は改めて本当の意味で物事の理解を深めるためには、こういった前提や文脈、背景や心理などを理解することが、本質的な理解において重要なことだと考えています。

前提・文脈・背景・心理を理解することの大切さ

何故なら、「同じ言語を使う」という点においては、対面かWeb会議か、口頭かテキストか、という違いは無いはずですが、実際にはそこに大きな隔たりが発生するのが事実であり、それ故に人はコミュニケーションに悩むからです。

例えば、
「普段対面で話している時はとても優しい雰囲気の人なのに、メールやチャットでのテキストコミュニケーションになると、急に冷たく感じる。」ということや、「普段対面では、言葉が少ないのに、テキストだと急に活発になる」、場合によっては「まさかあんなに温厚で口数の少ない人なのに、SNSでは想像も付かないくらい、他人を中傷することを平気で言っていた」なんてこともあるかもしれません。

最後の点については、ここまで極端ではなくとも、SNSや匿名性だと、つい中傷的なことを発言してしまう、という方もいるのではないでしょうか?

この辺りの考察は、心理学などを代表として、かなり膨大な研究や理論がありますので、ここでの言及は控えますが、リモート環境を前提としたコミュニケーションの質向上をはかるための初期的なポイントとしては、以下の3つが挙げられると考えます。

  1. 事前に可能な限りの情報を共有し、その方法をルール化する

  2. 言葉の定義や意味、文脈などの前提を明文化する

  3. いつでも連絡できるからこそ、即レスを求めない

リモート環境を前提としたコミュニケーションの質向上をはかるための初期的なポイント

1. 事前に可能な限りの情報共有をし、その方法をルール化する

例えば、ブレインストーミングは、Web会議なのどリモート環境で実施するのはオススメできません。理由はWeb会議だと、環境的に、個々が自由に発言できる可能性が制限され易く、同じ事柄に集中することが難しいからです。

ブレインストーミングでは、参加するメンバーが自由闊達に意見を発散することが重要ですが、Web会議だと、オフラインに比べて一人の発言に対しての注目度が高まることで、次々に発言することが物理的に難しくテンポが崩れてしまったり、同時に、人によっては発言することに対する心理的抵抗を感じやすく、逆に、発言しなくても大丈夫だろうという参加意識の低下を招きやすい。

また、PCやスマホなどのデバイスを使う必要があるので、メールやチャットなどの突発的に発生する「他ごと」への意識が強く働きますし、そもそも他ごとをしていてもバレにくいので、どうしても集中力が低下してしまう。

ここで、「状況いかんではなく、そもそも集中しない奴が悪い」と思った根性論タイプの方は要注意です。

オフラインでのブレストは非常に有効ですが、それは「他ごと」に気を取られる状況をシャットアウトするからこそ集中力が高まるのであって、精神論ではありません。

また、
業務の進捗状況を確認・報告、また相談したい場合、出社の際は、思い立った時に直接声を掛けてみる・出先から帰社した際に聞いてみる、といったことが可能なので、相手の状況が確認しやすく安心できますが、リモートだとそれができません。

少し意地が悪いですが、上記の文章を見て「確かに」と思った方も要注意です。

出社しているからと言って、相手への確認なしに思いつきで声をかけるのは相手への配慮がないですし、出社していても常に相手を監視している訳ではないでしょうから(もししてたら、ただの職務怠慢です)、「なんとなく顔を見ることで安心感を得ていたが、顔が見えないと急に不安になる」という空気に支配された勘違いです。

ですので、解決策としては、事前に可能な限りの情報共有をし、その方法をルール化してしまうことです。

ブレストでいけば、会議参加前にスプレッドシートやアンケートなどを展開して、事前にブレストしてもらい、既に意見が発散された意見を、何故そう考えたのかを聞きながら、収束させていくことを会議の目的にすることで、生産性が高まります。

また、業務の進捗もフォーマット化して記述方法をルール化すれば、情報共有はされた状態で、より深い質問や意見交換ができます。記述する内容だけでなくタイミングも決めておけば、顔が見えないからと不安になることもないでしょう。

簡単なことですが、意外とちゃんと実践されてないように感じます。

これは本来、オフライン・オンラインという状況には依存しないことですが、対面時のいわゆるその場の空気のようなに飲み込まれることなく、リモートワークの浸透によって会議を客観的に捉える状況が生み出されたことや、先ほど述べたように発言への注目度が高まった =(イコール) 内容の質への注目度が高まったことが起因すると感じます。

また、リモートワークになり、移動時間や資料を印刷するなどの準備時間などが削減されたことによって、完全オフライン時よりもスケジュールが過密になったため、時間の貴重さに対する意識の高まり、なども要因になっているかもしれません。

昨今ではAR・VRやメタバースのように、サイバー空間でいかにオフライン時のような没入感を再現する技術やビジネスへの注目が高まっていることからも、オンラインでのコミュニケーションがもたらす客観性によって発生する「質」への注目度の高まりは明らかでしょうから、「事前に読めばわかる」というような情報共有ではなく、ディスカッションや理解を深めることを目的することでコミュニケーションの質を高めていく必要性があると考えます。

2. 言葉の定義や意味、文脈などの前提を明文化する

コミュニケーションミスの発生原因は、その殆どが言葉の定義や意味・文脈の前提に対する認識のズレであると言っても過言ではないと考えます。

考え方や価値観の違いは、違うことを理解できれば、あとはそれをどう受け入れるのか受容?という問いであって、コミュニケーションミスではありません。

もう少し広義な言い方をするのであれば、情報の非対称性が原因となる、ということになります。

これは先ほどの事前の情報共有も解決策の一手となりますが、事前の知識や情報によっても発生しうる問題です。

とはいえ、例え同等の情報やリテラシーを保有していたとしても、どのような意味や意図・文脈でその言葉を使ったのかを、説明なしに常に相互に理解することは、非常に困難です。

対面でのコミュニケーションでは、相手の表情や声色、その他の感覚から得る、いわゆる空気によって、その理解が促進される事が無いとは言いにくいですが(個人的には、それもかなりの至難の業だと思ってます)、特にテキストだけのコミュニケーションにおいては、例え相手が長年親しんだ相手であっても、ミスが発生しやすい状況です。

そのため、言葉の定義や意図・文脈という前提への理解を相手に促すことからスタートすることが重要になります。

「わざわざそんな面倒なことをするのはストレスだ」と感じる方もいらっしゃるかもしれませんが、コミュニケーションとは「伝わる(かつ相手の行動を変える)」ことが目的ですから、相手との相互理解度を高めることを放棄してしまっては、コミュニケーション自体を諦める行為になり得ます。

また同時に、語彙力を身につけることも重要です。

個人的には、言葉を正しく理解することの重要性を、改めてとても強く感じています。

例えば、何かが時間経過とともに減っていくことを表す言葉として、「減少」の他にも「低減」や「逓減」など、その減り方や対象によってニュアンスが変わりますよね。その減り方が、直線的なのかカーブを描くのか、イメージにすると全く異なります。

他にも収束と収斂など、類似する意味を持つが意味の異なる言葉がありますが、表現力も理解力も、語彙力の多さに比例すると感じます。

3. いつでも連絡できるからこそ、即レスを求めない

ビジネスにおいてはスピードは重要ですし、時間はコストです。時代の変化に伴い、この重要性はさらに高まっています。そこに、主従関係が生み出してきた圧力が加わると、「即レス」はあたかも正しいことの様に感じてしまうことが多々あります。

仕事の成果を最大化するうえで、スピードや時間コストは以前に増して意識すべきKPIだということは、私としては異論どころか、むしろそう強く主張したいほどです。

しかしながら、例えば、あなたの質問に対して4時間程度返信がなかった場合に、現実的に発生しうるリスクや損害はなんでしょうか?

もちろん、この時間という尺度は、その仕事内容や状況によって大きく変わりますが、全ての質問に対して常に迅速な回答が必要であることは稀ではないでしょうか。

例えば、デイトレーダーさんの様に一瞬の売買判断が、その日の損益を決定するような投機をされている方や、重大なセキュリティインシデントが発生した際の対応などは、短時間でのリスクが大きい状況だと思います。

しかし、例え迅速な対応が必要な状況では、その共通認識があれば良いのであって、そうでない時にまで即レスである必要はないはずです。

また、特にデジタルツール上でのコミュニケーションは、一方的に発言量をコントロール出来ますし、人間心理として無視されることへの抵抗感は高まってしまいやすいですね。既読無視という言葉が広く認識されている昨今では、特に疑念を持ってしまうケースは多いはずです。

ではどうすれば良いかといえば、即レスを求める必要がない様にコントロールすれば良いわけです。

突発的なインシデントは、その緊急性が高い状況であるという前提を共通認識させれば良く、どの時点までに回答がないと、支障をきたす可能性があるのかを理解したうえで、緊急性が高まる前に余裕を持って対処していけば良いだけです。

もっと言えば、
即レスが重要なのではなく、回答によって次にどのような意思決定をするのか?という目的が達成されることが重要で、即レスというのは手段でしかありません。

時間コストが高くなったというのは、時代や環境の変化要因によるものが大きいので、個別の問題ではなく、相対的なトレンドと捉える方が適切ですので、自分だけでなく相手にとっても同じことです。

今でも、メールやチャットでの連絡なしに、突然ご自身の都合で電話をかけて来られる方がいらっしゃいます。

こちらの都合で対応できず、後にその方に折り返しても、当然その方にも都合があるので対応が難しく、お互いに何度もタイミングを外すことが多々ありますが、正直ムダだと思います。

どうしても電話が必要なら、何時に電話するのかを先にメールなどで確認しておけば、その様なことにならないですし、たまに会社に行かないとメールが確認出来ず電話でないと難しいという営業さんがいますが、そのような環境は顧客視点が欠けてますし、生産性の側面からもコストが高いです。

まとめ

今回は、リモートワーク環境を前提としたコミュニケーションの質の向上として、もっとも早く簡単に取り組むことが可能な3つを挙げましたが、冒頭に述べた通り、今でも様々な分野での研究が実施されている内容ですので、この内容に留まらず、常に改善を目指すのが良いかと考えます。

次回はファシリテーションについて記載したいと思います。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?