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【挿話】東京と熊本をつなぐ新聞

 12月に猪肉を注文したところ、段ボールの中でガサガサ動いたり冷凍が溶けてしまったりしないよう新聞紙で丁寧に梱包されて届きました。
 熊本県からはるばる我が家へやってきた猪肉たち。急いで新聞紙を開き、冷凍庫にしまいました。
 もう不要になった新聞紙を片付けようとしたとき、その見出しが私の目に飛び込んできたのです。

「熊本弁まっだし」

 そこには、日本語なのに私には意味をつかみかねる文章が載っていました。どうやらこれは読者の投稿欄であり、熊本弁で書くのがお約束のようです。
 また、後で調べて「まっだし」とは「丸出し」という意味なのだと知りました。そしてこの新聞は「熊本日日新聞」であることが分かりました。

 私の元に届いた新聞は11/12(土)分で、85歳の熊本市に住む方が投稿した「今こけえ居る 大事さ気付く」という記事が載っていました。
 題名からもう分かりません。インターネットで調べても「今こけえ居る」の意味が分からなかったのですが、おそらく「こけ=ここに」という意味で、文章の前後から「今ここに生きている」という意味かなと勝手に解釈しました。

”長(なご)う親しゅうして、元気てち思うとった人が、
 亡(の)うなったり、寝込んだりで、無常感ば覚えます。
 (中略)
一日の暮らしにゃ「朝起きて、食事、諸用事、夜寝る」と節目ばつけるばってん、命の営みそのものは、いつ終わるか分からんし、「今こけえ居る」とがほんなこつありがたかです。
 生きる大事ば気付かせちもろうとります。”

「熊本日日新聞11/12(土)」より

 東京で生まれ育った私は、「方言の懐かしさ」「方言の温かみ」といった話を聞いてもピンときません。しかし、この「熊本弁まっだし」は、読んで温かい気持ちになりました(悲しいことに全ての言葉の意味が分かったわけではありませんでしたが…)。

 また、この投稿の後ろには「係かる」という小見出しがあり、新聞社の方がお返事?コメント?を熊本弁で書いていました。

”係かる
 老いは誰にでん訪れます。
 それば受け入れて上手に付き合うていけるかどうかが、楽しく生きるひけつじゃなかかて思うとります。 ”

「熊本日日新聞11/12(土)」より

 この方言のやり取りが何よりも素敵だなと感じました。

 あまりにも素敵だったので、ネット配信の「熊本日日新聞」に無料登録しました。読者の投稿欄は配信されていないようですし、無料登録だと読める記事が限定されています。
 それでも、なんだか熊本県と--いや、熊本弁と、つながりが保たれているようで嬉しい気持ちになりました。

 また、普段の生活ではなかなか聞くことのできない方言に出会い、故郷でも何でもないのに温かい気持ちになり、改めて新聞の良さに触れたような気がしました。

 世の中が少し落ち着いたら、熊本県に旅行に行きたいなと思っています。

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