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HCIの伝説論文集 Part.1

どうもー。東京大学の中條と青木です。HCIアドベントカレンダー12日目ということで、今回はHuman Computer Interactionという分野の伝説的な神論文を紹介していきたいと思います。(二学生の独断と偏見です。)
たくさん紹介したいので、早速どんどん行きます。

Self-healing UI

この研究では勝手に治る電子機器を提案しています。正直信じられませんが、完全に切断してしまっても近くに置いて長い時間放っておけば元通りになるみたいです。仕組みは自己修復能力を持つPBSと導電性を上げるためのMWCNTsを上手く混ぜ合わせることで実現しています。刃物で刺すという動作の検知ができることもすごいです。正に”未来”って感じです。

Scratch

「HCI」という研究分野は知らないけど「Scratch」なら知っているよ、という人も多いのではないでしょうか。すでに全世界で8000万人以上が登録をしているプログラミング言語は、MIT Media Lab Lifelong Kindergarten Group の研究から生まれました。プログラミングは難しくて子供に教えられないという課題に対して、レゴブロックを用いた教育を長年研究していたLifelong Kindergarten Groupは、レゴブロックの持つ二つの要素「ブロック」と「コネクター」をプログラミング言語に導入することで、簡単に始めることができて楽しいプログラミング言語「Scratch」を開発しました。
プログラミングとレゴブロックという意外な組み合わせから、こんな研究が生まれるんですね。

TrussFormer

この研究は本当に動画がすごいですよね。研究の動画のクオリティを遥かに超えていると思います。この研究はトラス構造をベースに、ユーザの意図した動きをする物体をデザインし、実際に動画みたいに作れるというものです。どの部分をペットボトルにし、どの部分を機械的に伸び縮みするアクチュエーターにするかをコンピュータ側が勝手に計算してくれて、人は形と動きを指定するだけです。最初見た時は「本当にこのアカウントHPI(ドイツの研究機関)だよな」と疑ってしまいました。

Tangible Bits

人間はコンピューターの誕生以来、物理空間とサイバー空間という二つの空間にまたがって活動しているにも関わらず、これらの空間は平面的なディスプレイとマウスやタッチパネルのような限定的なデバイスによってのみ接続されています。実際この記事も、パソコンやスマートフォンというディスプレイを通じてしか見ることができません。
それに対して、直接手に触れられる物体によってサイバー空間を操作する。あるいはサイバー空間の情報を直接手に触れられる物体で表現することによって、物理空間とサイバー空間を新しい関係性で繋ぐ可能性を提唱した研究です。この研究を元にしたTUI(Tangible Use Interface)の研究は今でも数多く行われています。

SmartSkin

今やマウスと並んで重要なインタフェースとなった、iPhoneやiPadなどに採用されている「マルチタッチ」方式のタッチパネルの元となった研究です。テーブル上に格子状に敷設した電極と人間との静電容量の変化を計測することで、外部にカメラ等を設置することなく、高い精度で複数の点を同時に認識できることを示しました。ピンチインやピンチアウトなど、今では当たり前となった操作方法の提案も併せてなされており、まるで現代を予言しているかのような20年前の論文でした。

Teddy

この研究はスケッチで三次元モデリングをするというもので、スケッチで書いたものが簡単に3Dモデルになります。ちなみにこれは1999年の研究です。僕が生まれたくらいの時期に発表された研究なので、言葉が出てこないくらいすごいです。二次元的なスケッチに中心線のようなものを引いて、その線から輪郭線までの距離を使って、上手く中心線の高さを上げる(膨らませる)ことで実現しています。膨らませる他にも曲面から新たに腕のようなものを生やしたり、等高線を引いたりと色々な機能が実装されてます。
ちなみに動画で紹介されてる他の研究も滅茶苦茶面白いです。

TeslaTouch

この研究はタッチパネル上で触覚フィードバックを行うという研究です。タッチパネルの上で指を走らせた時に指が抵抗を感じたり、感じなかったりするということです。原理はタッチパネルの上に+-を制御できる板を用意し、その+-によって画面に垂直な方向に引っ張ったり、押し返したりすることで摩擦力を制御するというものです。iPhoneとかiPadとかに付けてほしいですね。早く体験してみたいですが、これが10年前の研究かと思うとすごいですね。

Optical Camouflage

この研究は、再帰性反射材と呼ばれる特殊な反射材(一般的な鏡とは異なり、光を入ってきた方向に反射する)に対して、ハーフミラー(マジックミラー)を通じてプロジェクターで物体の背景になる映像を投影することで、再帰性反射材でコーティングされている物体が光学迷彩のように透けて見えるというものです。服を再帰性反射材で覆うことで「透明マント」にもなります。手術の際の機器を透明にしたり。車の内装を全部透明にしたり、まさにSFの世界です。

Pseudo-Haptics 

日本語に訳すと「擬似触覚」。視覚的な刺激によってユーザに重さや硬さなどの触覚情報を提示することができることを示した研究です。ある種の「錯覚」。人間の感覚がいかに騙されやすいことか。
動画は渡邊恵太先生が開発したPseudo-Haptics の一例で「VisualHaptics」という研究です。画面上でカーソルが触れている物体に合わせて、カーソルの動きや形状を操作することで、実際にユーザがその物体を触っているかのような感覚が再現されています。

PinchType

https://www.youtube.com/watch?v=EPPAGApfAzc
(動画はリンク先から見てください)

この研究はVRやAR上での文字入力手法を提案していて、キーボードのようなものをVR上で実装しています。親指以外の両手で計8本の指に対してキーボードの文字をそれぞれマッピングし、親指と触れた指の対応する文字群を取得し、最終的な文字群の組み合わせから、最も確率の高い単語を入力された単語とするシステムです。動画も見やすいですし、使いやすそうですよね。

Affective Computing 

この研究は、近年の人工知能や感情認識にもつながる研究分野「感情コンピューティング」を提唱した研究です。人間にとって「感情」は非常に大きな役割を持っている以上、人間と関わるコンピューターにも少なくとも感情を認識して表現する能力が必要であることを説明した上で、芸術や娯楽,健康などの様々な場面に感情を認識・表現できるコンピューターがどのような影響を及ぼす可能性があるかが述べられています。数多くのSFが引用されていることも印象的なこの論文ですが、ある意味でこの論文自体が現代を予言するSFになっているような気も、、?

おわりに

いやー、どの論文も人間の域を超えていますね。これらの研究だけで30年は時間を進めている気がします。何回も同じ動画を見たはずなのに飽きないです。
楽しんでいただけたでしょうか。第二弾も乞うご期待!

2021年12月12日 @rintaro_chujo@hci_cg_student

Reference

  1. Narumi, K., Qin, F., Liu, S., Cheng, H. Y., Gu, J., Kawahara, Y., ... & Yao, L. (2019, October). Self-healing UI: Mechanically and Electrically Self-healing Materials for Sensing and Actuation Interfaces. In Proceedings of the 32nd Annual ACM Symposium on User Interface Software and Technology (pp. 293-306).

  2. Resnick, M., Maloney, J., Monroy-Hernández, A., Rusk, N., Eastmond, E., Brennan, K., ... & Kafai, Y. (2009). Scratch: programming for all. Communications of the ACM, 52(11), 60-67.

  3. Kovacs, R., Ion, A., Lopes, P., Oesterreich, T., Filter, J., Otto, P., ... & Baudisch, P. (2018, October). TrussFormer: 3D printing large kinetic structures. In Proceedings of the 31st Annual ACM Symposium on User Interface Software and Technology (pp. 113-125).

  4. Ishii, H. (2008, February). Tangible bits: beyond pixels. In Proceedings of the 2nd international conference on Tangible and embedded interaction

  5. Rekimoto, J. (2002, April). SmartSkin: an infrastructure for freehand manipulation on interactive surfaces. In Proceedings of the SIGCHI conference on Human factors in computing systems(pp. 113-120).

  6. Igarashi, T., Matsuoka, S., & Tanaka, H. (1999). Teddy: a sketching interface for 3D freeform design. In Proceedings of the 26th annual conference on Computer graphics and interactive techniques (SIGGRAPH '99).

  7. Bau, O., Poupyrev, I., Israr, A., & Harrison, C. (2010, October). TeslaTouch: electrovibration for touch surfaces. In Proceedings of the 23nd annual ACM symposium on User interface software and technology (pp. 283-292).

  8. Inami, M., Kawakami, N., & Tachi, S. (2003, October). Optical camouflage using retro-reflective projection technology. In The Second IEEE and ACM International Symposium on Mixed and Augmented Reality, 2003. Proceedings. (pp. 348-349). IEEE.

  9. Lécuyer, A., Coquillart, S., Kheddar, A., Richard, P., & Coiffet, P. (2000, March). Pseudo-haptic feedback: can isometric input devices simulate force feedback?. In Proceedings IEEE Virtual Reality 2000 (Cat. No. 00CB37048) (pp. 83-90). IEEE.

  10. Watanabe, K., & Yasumura, M. (2008, December). VisualHaptics: Generating haptic sensation using only visual cues. In Proceedings of the 2008 International Conference on Advances in Computer Entertainment Technology (pp. 405-405).

  11. Fashimpaur, J., Kin, K., & Longest, M. (2020, April). PinchType: Text Entry for Virtual and Augmented Reality Using Comfortable Thumb to Fingertip Pinches. In Extended Abstracts of the 2020 CHI Conference on Human Factors in Computing Systems (pp. 1-7).

  12. Picard, R. W. (1995). Affective Computing. M.I.T Media Laboratory Perceptual Computing Section Technical Report No. 321.

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