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大丈夫じゃないよ(B Dash CampとIVS Launchpadでピッチをした話)


大丈夫じゃないよ


「大丈夫ですか・・・?」
舞台裏から出てきたLaunchpad審査員の方がすごく心配そうな顔で声をかけてくれたのです。確かに僕は変なポーズをとっていて、終電前の新橋でよれたスーツを着た酔っ払いが膝から崩れ落ちたような姿勢だったのです(登壇前に股関節回りをのばすヨガのストレッチをしていたのです)。おそらくこれから控えたピッチへの緊張のあまり、転んで歩けなくなった哀れなおっさんに見えたのでしょう、階段付近だったことも相まってあらぬ誤解を生んでしまったのです。震える声で「あ、あの、あ、ヨ、ヨガのストレッチしていて・・・」とケガ人モドキよろしく細くて消えそうな声で答えた僕を見つめる心配して損したという冷え切った視線の奥底に、ふつふつと札幌での出来事が浮かび上がってくるのです。

「大丈夫ですか・・・?」道を行ったり来たりしながら小声でトーク・スクリプトの練習をしていると、B Dash Campのスタッフの方から妙に心配され、「緊張しますよね、リラックス!リラックス!」とねぎらってもらったのですが、実際はトイレが空いていなくて、仕方なく気を紛らわすために歩きながらピッチの練習をしていただけで、単に漏れそうだっただけなのです。本番前に緊張して急に右往左往しはじめた哀れなおっさんに見えたのでしょう(もれそうなおっさんという意味では本当に哀れではあるのですが・・・)。正直緊張するほどのフレッシュな感性はホッピーの飲みすぎで記憶とともにとうに消えてしまったのですが、なんだか最近は登壇前に人様に心配をかける始末。

"Are you OK?" 事情は国境超えても変わらず、シリコンバレーはサニーベールでピッチする際にも司会の人になんだが心配されるので、これまた妙だなと思ったら長年はいていた黒いズボンのおしりのポケットのところがやぶれてパンツが見えていたのです。いや、いまさら大丈夫かって言われても次オレのピッチの番だし、もうやるしかないだろ、ってことで特に気にせずそのままピッチ。なるべく固定ポジションのまま、背中を聴衆に向けないように "JamRoll solves sales black box problems!" と威勢よく話したものの、こっちはブラックボックスも何も透過しているんだよなあ・・・と思いながら、シリコンバレーの風を文字通り肌で感じていたのでした。

破れたズボンの尻からシリコンバレーの風を感じている筆者

そんなわけで5月終わりからの一か月の間に人様に心配されながら3回も大きな舞台を経験させていただきまして、B Dash Camp Pitch Arenaでは優勝IVS Launchpad Kyotoでは3位入賞、Plug and Play Sillicon Valley SummitのInsureTech Batchでは唯一のアジア企業としてピッチさせて頂いたのでした。

度重なるハードシングスで笑いを失った筆者の渾身の笑顔。あまりに不愛想な表情だったからなのか、この表情をつくるまで50回くらい撮り直しが発生したのでした。
3位で悔しすぎて笑えない中、笑ってくれ!と言われて繰り出した渾身の笑顔。偽りの笑顔で身体が硬直しているところにぬぐい切れない性格の悪さが露呈している。

会いたかった人や話したかったかっこいいスタートアップの方々と話せるようになる、問い合わせが爆増するなどこの手のイベントはカンフル剤としては非常に有効なのですが、ピッチの結果と事業の進捗や今後のスケールは全く別の話ですので、しっかりと事業に邁進しつつ、7月の東京の熱風は強烈なので、まずは破れたズボンをちゃんとなおそうと思います。

ただ実際ピッチコンテスト登壇の効果は大きく、B Dash翌月である6月のJamRollのID売上数はレコードを記録、IVS Launchpad後には登壇直後にたくさん問い合わせをいただきすぐに受注につながる、など事業を進めるうえでのカンフル剤になったことは間違いありません。

また、僕らはEmpathからPoeticsという社名に変更したばかりだったこともあり、JamRollというプロダクトや会社の思想も含めてみなさまに存在を覚えて頂くうえでは非常に重要なタイミングでした。したがって、こうしたイベントに出させていただけることが本当にありがたい。ケガ人よろしく、漏れそうになりながらも、尻が破れながらもピッチしてよかった。

とはいえ、Empath時代から考えると一体お前はいつまでピッチしているんだ、という状況ではあるので、はやくピッチ界から引退したいのも事実ではあります(今年を最後にしたい・・・)。永遠にルーキーやっているうちに白髪と体重だけが増えていき、活舌は年々悪くなる、記憶も悪くなる、挙句の果てには衣服の破れにすら気づかないという始末。ここでしっかりと「大丈夫ですか・・・?」という問いに回答しておくべきでしょう。大丈夫じゃないよ。

Q&A有無によるピッチの組み立ての違い

すこしだけピッチのことを書くと、IVS Launchpadでのピッチはおそらく今まででベスト、これで負けたら仕方がない、という構成で勝負できたかと思います。B Dash Camp時にわかりづからかった点や、質疑で頂いたポイントをふまえて再度練り直したのですが、デモの構成、今後の展望の深度など、Q&Aがない分修正を加えて展開。ピッチ資料を練るというのは事業の骨格ではないので、合間時間をつかった付け焼刃的な改善ではありましたが、一つの型をつくれた気はしています(下記からピッチの動画が見れます)。

一方でB Dash Campではデモの内容や競合比較、今後の展望とマーケットの拡張などはまだまだ抜けも多かったのですが、僕が一番ピッチの醍醐味だと思っているQ&Aがあったおかげで何とか乗り切れた形になりました。僕はQ&Aがあるコンテストの方が昔から勝率が高いタイプだったので、Q&Aで挽回できるだろうくらいに思ってのぞんでいました。

実際、ICT Spring(ルクセンブルク)、IFA Next(ベルリン)などこれまで勝てた海外のコンテストでも質疑応答がたくさんある傾向にあります。こうした質疑応答は普段の投資家の皆様やお客様とのコミュニケーション、および会社のメンバーに普段伝えている未来の拡張性など、日々の実践がもろに出るところなので、むしろQ&Aこそ勝負だし一番のアピールのしどころだと常々思っていました。

€50,000(約650万円)の賞金がもらえたICT SpringでもやはりQ&Aの時間が多かった。

他方、IVS LaunchpadはQ&Aがないので、事業の深みを示すこともQ&Aではなくピッチ内で対応しなくてはいけない。これは非常に難しいところです。たとえば、技術の優位性をうたったとて「実際どうなの?この点は?」という質問が出て崩れてしまうピッチ、ままあるのですが、そういうことはおきない。したがってデモのクオリティやストーリーのある種の劇場性、デザイン、パフォーマンスがとても大事になってくる。これは僕が結構苦手なところでして、したがって、B Dashからピッチの構成をかなり修正しないとまずいな、という危機感がありました。

したがってQ&Aがあるものとないものとではだいぶピッチの戦略を変える必要があり、

・Q&Aがあるものではあえて余白を残し、質問に対して明確に回答することでピッチ全体の印象を底上げできる。逆にQ&Aでつまづくとピッチがよくても勝率が下がる(相手次第で変化が生じるスポーツの試合に近い)。

・Q&Aがないものはピッチ資料のデザインからデモ、今後の展望まで余白を残さず、Q&Aできそうな質問に対してはあらかじめその疑問と回答をピッチ内に組み込む必要がある(完結したライブ・パフォーマンスに近い)。

たとえば僕らの場合は競合優位性やチームのユニークさ(AI×哲学)に関してはB DashではQ&Aで回答、一方でLaunchpadではピッチ内に盛り込むなど対応を変えました。

AI×人文科学という可能性を伝えたかった。

今回B Dash、IVS Launchpadとチャレンジをした理由はとにかくPoeticsという会社の思想と、その思想に根付いたJamRollというプロダクトを少しでも多くの人に知ってもらい、興味を持ってもらうということにつきます。

※Poeticsという社名の由来や僕らの世界観・思想に関してはこちらから!

特にJamRollがタックルしているセールステック領域は競合も少なくない領域ですが、僕らが目指しているのはJamRollをエントリーポイントとした新しいAIの構築、すなわちコンピューターサイエンスと人文科学の共犯関係を生み出してAI自体をアップデートすることにあります。特にAIは本来知の総合格闘技的な側面が強く、各学問領域、特に分析哲学(言語哲学)や心理学が寄与するところがまだまだ大きいと思っています。そういう意味では学際的な民間の研究所でありたい、という将来構想も強くあります。

AI×人文科学のヒントとなるスーパースターたち(7/28にGoogle CampusでJamRoll1周年パーティーをやります!)

僕はLLMの背後にドナルド・デイビッドソンを、生成AIの夢のはじまりにエイダ・ラブレスを、自然言語処理のその先にオースティンやサールの言語行為論を、自然言語処理と哲学の交差点にテリー・ウィノグラートを、神経科学と哲学が導くAIの可能性にチャーチランド夫妻を、これからのAI倫理にベル・フックスを感じ、それを実際の新しいAIへと結実させていくことに非常にわくわくしているのですが、こうした学際性を株式会社という古い乗り物で実現しようという試みこそがPoeticsという会社の面白さだと思っています。

それはSaaS企業であることよりももっともっとその先へ、学びの対象をビジネスだけではなく世界全体へとむけていくような壮大な変身(transformation)の体験であるはずです。そんな試みにチャレンジする仲間と応援してくれるファンを増やすために、似非ケガ人よろしく、破れた尻で漏れそうになりながらピッチの舞台へとのぞんだのでした。

本当に大丈夫じゃないんだって(絶賛採用中)

とはいえ日々の現実はといえば打ち合わせ続きでなかなかトイレにも行けず(本当に漏れるぜ)、ダメージ加工じゃなくただぼろぼろに破れただけの汚いジーパンに周囲から哀れみの視線を感じ(あまりに哀れだったのでしょう、会社のメンバーがジーパン買ってくれました。。)、とてもとても「AI SaaSだぜ!」と息巻くような「イケてる」雰囲気とは程遠いわけで、全く大丈夫じゃないわけですが、そんな僕らも仲間が増えてきて、創業以来、今が最大のメンバー数となっています。

手前味噌ではありますが、本当にみんな優しくてしなやかなメンバーで、このチームで仕事ができることが何にも代えがたい。そういうチームでこれから先へ先へと進んでいけることが楽しみでしかたありません。ただ、成長痛といえばいいのでしょうか、やることが多いし僕らの力や経験だけでは追いつかなくなっている。だから絶賛全方位採用中です。

2年前にはこんなことを書いていました。

「さて、西麻布に漂う大人の芳香とは無縁ながらも、迫りくる加齢臭の恐怖におびえながら、もしくはすでに壮大に空気中に拡散させながら、スタートアップでの毎日を楽しく過ごしているわけですが、僕はそもそも「スタートアップ」という言葉すら数年前には知らず、ましてや自分がその当事者になるとは夢にも思わなかったわけです。ですから、起業して成功し、タワーマンションの最上階でバスローブをはおり、撫でるようないやらしい手つきでシャンパンのはいったグラスを傾けながら、思い人の肩に手をかけて優越感に浸りながら「きれいだよ」などとつぶやく人生を想像したこともない。

そうではなく、「資本主義」という言葉に激しい憎悪を抱きながら、紫煙が立ち込める路地裏の数坪しかない飲み屋で、いつも同じユニクロのシャツをはおり、小刻みに震える心もとない手つきでキンミヤ焼酎の緑茶割りをすすりながら、馴染みの仲間の肩に手をかけて、ろれつの回らない声で「吐きそうだよ」などとつぶやくのが僕の人生だったわけです。」

さすがに「吐きそうだよ」とつぶやく回数は減り、思えば遠くに来たものだというところですが、スタートアップが楽しくて仕方がないことと同じユニクロのシャツを着続けていることは変わっていません。

さあ、あなたもバスローブを羽織ってタワマンでシャンパンを傾ける旅路(僕、高所恐怖症ですが・・・)、もといAIと人文科学を結合させる変身の体験へと一緒に身を投じてみませんか?

大丈夫じゃない今だからこそ、楽しいのです。


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