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はじめまして、Poeticsです。

株式会社EmpathはPoeticsという名前に生まれ変わりました。

都内近郊にいるメンバーで集まりました。写真からみんなの人柄がにじみ出ていていい。

EmpathからPoeticsへ

株式会社Empathは2023年5月1日より株式会社Poeticsへと社名変更をしました。2022年12月28日よりEmpathの代表取締役に就任した僕がそのまま代表取締役として就任しております。社名変更なので、法人が変わったわけではないです。現在50名程度のメンバーで、Empath創設以来、人数も一番多くなって、まさに成長期です。

なぜ社名が変わったのか?

Empathは2023年5月1日に音声感情解析AI事業の譲渡を行いました。これを期に社名をPoeticsと改めました。

事業はどうなるの?

現在は二つの事業がメインとなっています。

・JamRoll
2022年6月末にリリースしたオンライン商談解析AI、「JamRoll」を引き続き開発・提供していきます。

・Poetics AI
音声、言語解析を中心としたAIの開発を行っていきます。

これまで行ってきた音声感情解析事業は今回譲渡となりましたが、感情解析に関してはJamRollに搭載されている言語×音声のマルチモーダル感情解析を継続して研究開発していきます。

Poeticsという社名の由来は?

アリストテレスの『詩学』に由来しています

古代ギリシアにおいて「詩(ポイエーシス: 広く創作一般をさす)」は文芸、歌、演劇と言語や音を使った表現全般を包含する概念であり、『詩学』はこうした「詩作」の構造およびそれがもたらす感情の浄化(カタルシス)をあつかう物語論です。この『詩学』が言語、音声、感情までを研究の射程に含んでいることから、新しい社名を考える際に真っ先にPoeticsという言葉を想起しました(僕自身が大学院の研究で物語論=ナラトロジーを研究していたことも多分に背景にはありますが)。

さらにコンピューター言語による創作、LLMによってもたらされた機械と人間による自然言語を通した対話と共創、またGenerative AIによる表現生成という新たなポイエーシス(創作)に遭遇している私たちにとっては現代の『詩学』が切実に必要とされている。だからこそ、21世紀の『詩学』を自分たちで作るのだという強い野心をもって、Poeticsという社名にしました。

Stable Diffusionにつくってもらった21世紀の『詩学』のイメージ。鬼ださい。。
髭と森が混然一体としているところが無性に気持ち悪い。。

物語は続く

2022年6月にリリースしたJamRollは順調に成長しており、販売開始1年弱ですでに三ケタを超える企業様に導入頂いております。丁寧かつ高速な開発、根幹を支える自社製AIの継続的な改善はもちろん、広告費をほぼかけず、営業メンバーもほとんどいない中でここまで来れたのは、一緒に走りぬけてくれているメンバーのおかげです。強くてやさしい、どこに行っても誇れるいいチームができました。

一度Empathを去って戻ってきてくれたメンバー、数年のインターンシップを経て新卒で入社してくれたメンバー、大きな企業を抜けて小さな僕らと走ることを決めてくれたメンバー、創業初期から苦楽を共にしてくれているメンバー、一丸となって頑張ってくれているみんなの日々の微細な変化をみるたびに、身が引き締まる毎日です。

昨年は新しい株主様をむかえることもできました。Empath創業以来、いまが最大規模の編成となっていて、Poeticsという新しい社名に変わって再スタート、順調に採用も進んでおり、さらに新しいメンバーとこの物語を紡げることが何より幸せです。

僕をビジネスの世界に誘ってくれた前代表の下地、そして諏訪は今回の事業譲渡を通して新天地である株式会社CAC様へと活躍の場を移します。ここまでEmpathの事業を推進してきた二人ですから、新天地でさらにおもしろい事業を展開していくはず。ぜひ二人のEmpath事業の応援をよろしくお願いします!

一方で彼ら二人のこれまでの頑張りはもちろん、いままでEmpathに携わってくれたすべての人の歴史をこの先につなげていく物語をPoeticsは紡いでいく。途中で別の道を進むことを決めたメンバーの顔を思い出しながら、関わってくれた誰もがEmpathもといPoeticsに携わってきたことを誇りに思えるような未来を創る、それが僕のミッションです。

もちろんここには書けないようなHard Thingsもたくさんありましたが、すべてを乗り越えてきた今のチームは本当に美しい。一つ一つの試練に対して笑いながら「やるしかない」と言って進んでくれるメンバーたちには感謝しかありません。常に目の前の問題から目を背けず、仲間と協力しながら一歩一歩ポジティブに前へ前へと進んでいく姿勢に、毎日鼓舞されていて、朝一日をはじめるときに毎日ワクワクできる幸せをかみしめています。

21世紀の『詩学』: もっともっと先へ

これからPoeticsは人文知と科学を組み合わせてAIと人間の関係をアップデートしていきます。産業革命に匹敵するような大変革の時代に、Empathとしてずっと追いかけてきた「共感」というテーマを継承しながら、人間の自由と画一性に還元しえない個人の物語、個別性に光をあてていきます。そのためにも、21世紀の『詩学』をつくるというミッション・ビジョンをこれからアップデートしていきますが、おおまかにはこんなことを考えています。

1. 人文知×科学によりAIはもっともっと先へと行ける

これは僕の勝手な妄想ですが、人文知がAIに寄与する点がたくさんあると思っています。特に今を席巻するLLMは統語論や意味論ではなく、次に何の語が来るのかを大量のデータによって予測することで成立しているわけですが、僕らが想定するような「文法」なるものが言語の根幹にはなく、明確に言語を規定するような構造などないと論じたドナルド・デイビッドソンの「墓碑銘のすてきな乱れ("A Nice Derrangement of Epitaphs" )(1986)」をLLMの背後に想起した哲学研究者は少なからずいるのではないでしょうか。

実際、LLMのすごいところは音声認識のミスがあってもちゃんと「文意」らしきものをとって要約するところで、これを見て僕は「墓碑銘のすてきな乱れ」の中でデイビットソンが論じているマラプロピズム(言葉の、特に滑稽な誤用)の問題を思い出して、とてもワクワクしました。(意図しない言い間違いがあっても、聞き手はそれを修正してちゃんと「文意」を理解できるのはいったいなぜなのか、という問題。押し広げれば文法が破綻していてもその「文意」を理解できてしまうのはいったいなぜなのかという問いにつながり、そこから「文法」なるものが言語の根幹にはないことが提起されていく)。

つまり、もしAI、特に自然言語処理の研究者がこの1986年のデイビッドソンの論文に気づいていたら、LLMの根幹はもっと早くにできていたかもしれない(もちろん、コンピュテーション・パワーの問題はあるので実装は無理だとしても)。そんな可能性にわくわくしたのです。だから、分析哲学、特に言語哲学や心の哲学、また社会言語学といった分野から僕たちAIを開発する企業が学べることはまだまだたくさんあるのではないか、これこそ21世紀の『詩学』になるのではないか、と思ったのです。だから "Poetics" なんです。僕らは世界的にも非常にめずらしい人文知×テクノロジーの企業を目指します

これは感情解析を事業の中心に据えていたときもずっと頭の中に会ったテーマでした。なぜラッセルの円環モデルなど、非常に古い理論をaffective computing(感情解析AI技術)の研究者は拠り所にしてしまうのか、実装しやすさを最優先して「感情とはなにか?」という大きな問いを考えることを放棄してしまっていないか。当然、ここには神経科学や心理学の知見が盛り込まれるべきですが、一方で心の哲学など人文知が寄与するところも大きいはずという見たてがありました。

2. 画一性に対して共感という中指をたてよう: テクノロジーは価値中立的ではなく、作り手の思想を反映する

僕らの主力プロダクト、「JamRoll」は営業のブラックボックス化問題を解決し、「誰もが売れる営業」になれることを支援するツールです。オンライン商談やIP電話での架電内容を自動で録画、文字おこし、AI解析することで商談のブラックボックス化問題(=営業の現場で何が起きているかがわからず、受注失注原因が見えていない状態)を解消します。また、商談内容の要約、タスクはすべてセールスフォースなどのSFAへと自動で入力されるので、商談後の入力作業がなくなり、本当に大切な顧客との対話やチームでの振り返りの時間を増やします。

この「誰もが売れる営業」というのが非常にやっかいで誤解をうみやすい表現です。僕らは誰もが何らかの型に基づいて画一的な方法で営業業務を行っていくことを支援しているわけではないし、そんなものは人間自身の思考停止した機械化でありディストピアだと思っています。もちろん、守破離というように「守」としての型を習得することは大切であり、そうした「守」を学ぶことにJamRollは貢献できる。けれども、僕らが重視しているのは一次データを参照することの大切さです。なぜなら一次データを参照することこそ、コミュニケーションにおける共感を増幅するからです

プロダクトのコンセプトを考えているときに思い出したのはフランスの哲学者、ベルクソンの次の言葉でした。

言語は人によって異なる状況をすべて同一の表現で指示する、したがって個別具体的な状況や感情が消去されてしまう。この言語の限界を乗り越えるためにこそ、一次データ=動画、音声が必要だと考えました。営業だけではなく、採用面接など、ビジネスの領域では単なる情報伝達だけでは不十分で、交渉や人となりなどなかなか言語で客観化して伝えることが難しいコミュニケーションの場面がたくさんあります。

なぜ、言語の限界を一次データを通して補う必要があるのでしょうか?それは個別の会話が歴史的な経緯を持って個別具体的な状況のなかで行われているというコンテクストに対して配慮し、よりコミュニケーションを円滑にするためです。どのような背景で商談が前に進んだのか、何がボトルネックになって失注してしまったのか、こうした現実に対して目を向けることなく、いたずらに予実の達成を叫んでも自体は好転しない。なんで受注できないんだ、とメンバーに対してマネージャーがいらだってしまうのは、このコンテクストを理解できていないからということがほとんどです。だからこそコンテクストにアクセスできるテクノロジーとしてJamRollが存在している。そして、このコンテクスト(個別性、歴史性)に対する配慮を僕らは共感と呼んでいます。したがって、JamRollはコンテクストに対するアクセスを可能にし、顧客やメンバーに対して共感を醸成する一つの媒介装置なのです。

それは個別の顧客が置かれた状況に対する配慮(=顧客理解、顧客に対する共感)であり、個別の営業メンバーが対峙している状況に対する配慮です。したがってJamRollが目指しているのは画一性とは真逆であり、個別具体性に対する配慮=共感を醸成することなのであり、その先に自ずと営業がうまくなっていく、という世界です。僕らは再現性のその先に行きたい

この一次情報から重要なポイントを抜き出してくるところでAIが役に立ちます。それは自動文字おこしであったり、感情解析であったり、商談の自動要約、自動to do抽出だったりします。こうやって一次情報とAIを掛け合わせることで一次情報の重要部分を短時間で確認できるようになる(つまり、これはディエゲーシス=一次情報とミメーシス=AI分析の結合なのであり、僕らはミメーシスにも力点を置いている、だからこそプラトン=詩人追放ではなく、アリストテレスの『詩学』なんです。だから "Poetics" なんです。何言ってんだって人、ここはおもしろいところなのでぜひ一緒に話したい)。

UIしかり、機能しかり、こういった思想は必ずプロダクトに現れてくる。だから、これからのJamRollの成長がとても楽しみです。似たようなプロダクトがいくつか存在する中でも、それぞれの背後にある思想は全然異なる。僕らは一次情報×AI解析によってコミュニケーションの共感形成を増幅させる、そんな思いでこれからもJamRollの開発を続けていきます。だから画一化には常に中指を立てて歩いていく。これが僕らなりの人文知×AIによる21世紀の『詩学』の一端です。

はじめまして、Poeticsです。

こうして書いてくるとEmpathの時代から特に何も変わっていなくて、Empathという名前自体がすでにPoeticsへとつながっていたようにすら感じてくるわけですが、目の前の個別具体的な問題と真剣に取り組みながらも、大きく考え続けることをやめずに、僕らなりの21世紀の『詩学』をこれからも書き続けていきます。

この文章を書きながら少し死んだ父親のことを考えたりしました。彼はBOX東中野というドキュメンタリー専門の映画館の経営をしていたのですが、ふとある記事をインターネット上で見つけて、まあとんでもないHard Thingsと戦っていたようで、ちょっとびっくりしたのです。彼に対しては愛憎ともに抱いていますが、これは尊敬の念を抱かずにはいられない。すげえ戦ってたんだな。下記リンクの54号、山崎陽一「BOX東中野物語」が父親の書いた文章です。

「その頃、BOX東中野の知名度を一気に高めた事件が起きた。韓国のもと慰安婦を描いたドキュメンタリー『ナヌムの家』を公開した際、上映を妨害する右翼が客席で消火器を撒いたのだ。配給のパンドラのスタッフともども、観客への応対、警察の聴取に追われた。上映は意地でも続ける。観客の安全のために手荷物チェックをし、毎回スタッフが客席内で見張ることにした。通常の業務にも支障をきたす大変な負担になった。さらに、マスコミの取材、抗議の記者会見の準備に追われるなかで、代島が出社しなくなった。」

たしかに上映中消火器をまかれたって言っていたな。。ほかにも右翼に映画館のショーウィンドウに赤ペンキをかけられたりしている。「上映は意地でも続ける」、そりゃそうだ。なんとも父親らしい。

「赤字がかさみ、督促と支払いに追われるなかで、スタッフ同士、そして俺とスタッフの間の亀裂が深まる。そして俺はプライベートでも問題を抱えていた。すでに2年前から胃を壊していた。まともに飯も食えず、胃の痛みを酒でごまかす悪循環に陥っていた。さらにバイク事故を起して裁判を抱え、家庭の問題で家族と離れ、家を飛びだした。」

「家を飛びだした」時のことはいまだによく覚えていますが、こりゃ家飛びだしたくなるわ・・・(まあ裏面の理由もあるけどね。。)それでも、ビル掃除しながら死ぬ直前まで映画に携わっていたこと、それがドキュメンタリーだったこと(僕はJamRollはある種のドキュメンタリーだと思っています)に美学と気合いを感じます。さすが。おかげでうちはてんやわんやでしたが。。

ふと、そうか、と思ったのです。

小学生の時のバスケットの引退試合、僕はキャプテンナンバーをつけながらも亡くなったコーチの遺影を抱えながらベンチで試合終了のブザーを聞いた。僕らは区大会優勝という形で最後の試合をかざった。後半からベンチにさげられても声を出して応援していた僕を監督はほめた。これがキャプテンの姿だ、と。

帰りの車で父親は僕に怒った。

「最後の大事な、優勝がかかった試合で、キャプテンナンバーを背負っているのにコートに立てなかったということをよく考えろ」

これは僕だけじゃなくて、たぶん自分を鼓舞する言葉でもあったんだな。

そういう意味では今、最高の仲間とすばらしい打席に立てているという稀有なチャンスに僕はめぐまれていて、このチャンスで決められなかったらダメだろってくらい可能性が前へ前へと広がっている。

「思い返せば腹の立つことばかりだが、しかしながら俺は、共に闘う味方には恵れていたと思っている。BOX東中野が残した功績を挙げるとすれば、それは多様なドキュメンタリー作品を紹介したことをまず評価されるだろう。俺としては、ジャンルにこだわらず面白いことなら何でもしたことと、ビデオ作品の上映を一般的なものに広めたところにあると思っている。」

そう、絶対に人なんです。父親の葬儀に様々な領域から想像を超えた規模の人たちがやってきたのを見て、そう思った。天井桟敷の人々、映画関係者、ビル掃除の同僚の方々や先輩たち、はては飲み友達。だから、それに負けるとも劣らない「共に戦う味方」がいて、その味方が広がり続けているEmpathもといPoeticsには可能性しかない。その可能性が、毎日をワクワクさせてくれる。

その可能性に対して、これまでのEmpathの歴史を継承しながら前に進むために "e" を埋め込みたかった。

『詩学』の象徴として羽ペンを。その羽ペンからインクがこぼれて生成(ポイエーシス)が発生するイメージ。むっちゃいいロゴができてうれしいです!

はじめまして、Poeticsです。これからどうそよろしくお願いします!








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