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掌編小説【奪わなくても】409文字

「羽衣伝説って知ってる?」
キラキラと太陽の光に反射している海が見えるほどに透けている大きめのスカーフを、潮風に靡かせながら君が問いかけてきた。
「天女の羽衣を隠されて無理やり妻にって感じの話だっけ」
僕はうろ覚えの知識をどうにか頭の引き出しから探し出し、君を見つめながら答えた。
「そうそう。そんな感じの話」
僕の目を見つめ返しながら、スカーフを纏っている君は綺麗で、何処かに行ってしまいそうで。
「そのスカーフを奪ったら、君は僕の妻になってくれる?」
君がいない未来が怖くなり、咄嗟に出てしまった言葉。
恥ずかしさと戸惑いから、僕の顔は夕焼けにも負けないくらい赤く染まっているだろう。
そんな僕を控えめに笑いながら、君は淡い色の口紅が塗られた唇を動かした。
「スカーフを奪わなくても、ずっとずっと側にいるわ」
その言葉に歓喜した僕は、さっきまで心を埋め尽くしていた恥ずかしさと戸惑いを忘れ、潮風に靡いていたスカーフごと、君を抱きしめた。


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