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小説【酒より君】-日本酒を使った鍋を添えて-

連日、体の芯から冷えるような寒さと湿気を体に溜め込んでしまうような天気が続いた。
そこで今日は体も温まり、汗もかく鍋を作ろうと思う。

今は夏だが、具材には冬の食材も入れていく。
美味しいから仕方ない。

「これで妻の不調も治れば良いなぁ」

寝込むまでは行かないが、少しだるそうにしている妻の姿を思い出し、胸を痛めながら私は台所へ向かった。

今日の具材は、疲労回復に豚肉は絶対に入れたい。
あとはエノキ、長葱、白菜、水菜、しいたけ、豆腐だな。
臭み消しに生姜の薄切りも二、三枚入れるか。
鍋には何を入れても合うのが良い。

土鍋に乾燥昆布を入れ、水をはり20分ほど放置。
その間に具材を食べやすい大きさに切っておく。

切り終わったら、土鍋を火にかけ、水から細かい泡が出てきた所で昆布を引き上げる。
沸騰直前に日本酒と塩をひとつまみ入れたら出汁は完成だ。
使う日本酒はなんでも良いが、私は良く獺祭を使っている。
酒は飲めないが、アルコールを飛ばした後にも華やかな香りが残るのが好きなのだ。
キリッと感じる久保田でも美味いがな。

湯が沸いたら具材を入れ、蓋をして煮えるまで放置する。
時々あくをとるのを忘れずに。

そのまま食べても美味いが、タレはポン酢とゴマだれ、あと青じそも刻んでおくか。

「あとは……ほうれん草のおひたしとひじきの煮たのがあるから足りるかな」

〆は何にするかと考えていたら、玄関から鍵が開く音がした。

私は足早に玄関に行き、妻を出迎える。

「おかえり」
「ただいまー。疲れたわ……」
「荷物とかは私が運ぶからそのままで良いよ。先にお風呂にするかい?」
「うん……」

休みの前日ということもあって、一気に疲れが出たのだろう。
いつもハツラツと笑顔が素敵な妻から、魂が抜け出たのでは無いかと錯覚するくらい覇気がなかった。

私は妻が風呂に入っている間に荷物を運び、梅干しとレモンを用意した。
酒好きの妻は疲れていても飲んでしまうからな。
せめて消化を助けるものを。
まぁ、飲み過ぎないように見守るのも私の役目だが、可愛い妻のおねだりに耐えるのは拷問に等しい。

「今日は自分でセーブしてくれると良いが……」

食卓に鍋や小鉢を並べながら、私は叶いもしない願いを呟いた。





小説に出てきた酒。



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