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田舎で車をもたない暮らし

 東京暮らしでは、どこへ行くにも電車か自転車でこと足りました。ぼくは移住したあともこの身軽な暮らしを続けたかったので、香川暮らしも車なしでスタートしました。

 東京から香川へ引っ越しの日、お借りした家の最寄り駅に到着し、家まで歩く途中に自転車屋さんがあったので、そこで自転車を買いました。

 家の近所は田畑が多く、それなりに田舎の風景を楽しめる一方、自転車で20~30分くらいのところに大型ショッピングモールや大型家電店、ホームセンター、地元のスーパーやコンビニや産直もあり、買い物には不便しません。古民家の改修のために必要な長い材木も、少しずつ買い、肩に背負って自転車で家まで運びました。

 自転車で運びにくい大きなものを運ぶときは、農業用の一輪車の出番です。一輪車に石油ストーブを乗せ、よいしょよいしょと歩道を歩いていると、向こうから次々に走ってくる車の運転手さんがみんなこっちを注目していましたが、これがぼくの日常スタイルでした。

 一輪車を押して初めてショッピングモールに買い物に行ったときは、一輪車をどこに置いておこうか少し迷いました。「駐輪場」と書かれているのを見て、一輪車も一輪しかないけれど「輪」を「駐める」「場」なのだからここで間違いないと思って駐輪しました。お店で買い物を済ませ、駐輪場に戻ると、愛車の姿が見当たりません。困ったなぁと思って、サービスセンターに行って問い合わせてみると、警備員室に撤去されていることがわかりました。お店の工事の作業員か誰かが置き忘れたと思って撤去したようで、一輪車で客が買い物にきたとは思いもしなかったようです。

マイ一輪車。交通安全のステッカーを貼っています。

 NPOの活動で時々森へ行くときは、途中で寄りやすい先輩メンバーたちがうちに寄ってくれました。わざわざ送り迎えしてくれて、ちょっと申し訳ないような気もしましたが、車の中で往復一緒に過ごすといろんな話ができて、貴重なコミュニケーションの時間になりました。自動車がないと、不便なこともあるけれどいいこともあります。

 移住したばかりの頃、近所の方が、東京の人は歩くスピードが違う(速い)と話していました。「どこへ行くにも歩いていくから、体力が違う。わしらは、すぐそこのコンビニへ行くときでも車やけん」。そう聞いて、田舎の人のほうが体力がありそうな気もするけれどなぁ、と思いましたが、たしかに、畑仕事など体を動かす仕事をしていても、長距離を歩く体力となるとまた別であることが最近わかってきました。

 香川は日本で一番小さな県。その気になれば、自転車で県内どこへでも行けます。うちから高松の街なかまでは数時間かかるけれど、相方と一緒に自転車でサイクリングがてら街をぶらつきに出かけたこともありました。帰りは夜になり、星が出て、眠たい中、がんばって自転車をこいでなんとか家にたどり着きました。車があると、なかなかそんなことをする気になれませんが、自転車生活ならではの楽しみ方でした。

 香川県内の森林関係のボランティア団体を取材してまわる仕事を車がないのに引き受けたこともあり、そのときも、自転車で県内を走り回りました。日の出前の早朝に家を出発し、峠を越えて徳島との県境くらいまで行ったり、山を登ったり、これも自転車でどこまで可能か試す楽しい実験になりました。ただの移動だと思うと大変ですが、スポーツのようなものだと思えば、車がなくても何だって可能になります。お遍路さんは徒歩で四国じゅうを練り歩くわけですし…(これはスポーツではないですが)。

 その後、森林活動の先輩から軽トラを譲り受け、車なし生活は終わりを迎えたのですが、自転車で動き回るのは体力がついたし、走るスピードが車よりゆっくりなので道中でいろんな発見があったり、楽しい体験でした(もう一度やれと言われても無理!というくらい過酷な旅もありましたが…)。

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