見出し画像

劇場型スポーツ観戦 <フィギュアスケート世界選手権>

初めてチケットを買って、フィギュアスケートを観戦しました。他のスポーツ観戦とは全然違う雰囲気に、ちょっと飲み込まれてしまいました。


記者をしていた15年以上前には、フィギュアスケートの大きな大会でいくらか取材したことがありました。しかし、当時よりも日本でのフィギュアスケート熱は高まっていますし、いろいろと変わったこともあるのではないかと、興味を持ったのです。ずいぶん前に、抽選で購入できたチケットは一番安い5階席のものでした。今回の世界選手権は、さいたまスーパーアリーナという大きな会場が選ばれていました。


5階から全体を俯瞰する視点になったのは、私にとっては良かったかもしれません。
まずは、世界最高レベルの演技に注目します。自然とスタンドの様子も目に入ります。平日でしたが、客席はかなり埋まっていました。すぐに「あれっ」と、ファンの座っている場所が偏っていることに気付きました。

審判席の反対側に、座っている人が明らかに多いのです。そちら側からだと、選手がリンクに出入りするところや、演技後に結果発表を待つスペースを正面に見ることができます。双眼鏡を持っていれば、演技前後のそこにいる選手たちの表情も堪能できます。平日に来ているような熱心なファンは、そんなこともわかった上で席を選んでいるのでしょう。

こんな様子を見て、「これは劇場だ」と思いました。

リンクがステージに見えますが、それだけではありません。
ファンの振る舞いも、劇場の雰囲気をつくっています。
演技開始直前には静寂を保ち、曲が盛り上がるところでは揃って手拍子をし、終わったら、温かい拍手を送る。本当に素晴らしい演技と感じた時には、スタンディングオベーションをする人も少なくありませんでした。
この上品な見守る雰囲気の一体感は、スポーツ観戦ぽくないのです。むしろ、ミュージカルを見ている時の感覚に近いものがありました。

フィギュアスケートには順位を競う大会だけではなく、大会翌日に行われるエキシビションもありますし、アイスショーに現役選手も出たりしています。演技をして点数を競う他の競技では、このようなことは一般的ではありません。フィギュアスケートが最も「劇場型」なのではないでしょうか。

会場に行く前に、大会ホームページを改めて見直したところ、観戦上のルールが書かれていました。撮影が一切禁止であること、飲食も休憩中に限られていること、また、競技中に席を立つこともマナーとしてやってはいけません。禁止事項がわりと多いと感じました。
他のスポーツも、エンターテインメントもいろいろ見に行っていますけれども、劇場で演劇やミュージカルを鑑賞することに比べると、スポーツ観戦は、禁止事項や何かを一緒にやらなければならないことが少ないです。例えば、撮影はOKです。試合中に席を離れて走り回っている子供を見かけることもあります。スマホでゲームをやっている人もいます。席で食べたり飲んだりすることは、禁止の真逆で、広告まで流してどんどん勧めているスポーツもあります。お酒を飲んで、ヤジを飛ばしても許されます。応援団の歌や振り付けを一緒に楽しんでもいいし、別にやらなくても構いません。

つまり、スポーツ観戦は、かなり何でもアリです。
フィギュアスケートを見ることは、「劇場型スポーツ観戦」というかなり特別な体験になるでしょう。

他の競技では、フェンシングの全日本選手権決勝が劇場で演出やエンタメ要素を交えて行われたり、卓球Tリーグの試合が、和光市民文化センターのホールで行われたことがありました。光の演出がしやすい、音響がいいなどのメリットがあります。
しかし、劇場で一方向から見せて、ステージ上で競技をやっていれば面白いというわけではありません。
ファンの振る舞いも、「劇場型スポーツ観戦」のに大きな役割を果たしています。
フィギュアスケートでは、主催者が決めている禁止事項を除けば、手拍子やマナーはファンが自主的にやっていることです。

ファンが年月をかけてこの観戦する文化をつくってきたことに、心を動かされました。

この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?