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僕は本が読めない


恋をすると、本が読めなくなる。

何度同じところをなぞっても、全く頭に入ってこない。

ただただいたずらに時間ばかりが過ぎていく。


それはまるで脳を食い荒らされるかのようで。

それはまるで何かに乗っ取られるかのようで。

それはまるで自分が自分じゃなくなるようで。

だから恋は、病だ。


「にゃあ」


本から顔を上げる。

今、鳴いたよね。

本が読めなくなる。

鳴き声に反応していちいち構っていたら、

猫は鳴けば自分の要求が通ると勘違いしてしまう。

そんな文面を思い出す。

だから。


すぐには応えない。

ちゃっと湯船を出て、ちゃっと身体を洗って、

ちゃっと出て、ちゃっと着替えて、丁度鳴き止む頃。

「どしたの」

君の元へと駆け寄る。

子猫だからとか、顔がちっちゃいからとかじゃない。

私より明らかに大きい目で見上げる。

「にゃあ」

ただ甘えたかっただけ。

よいしょ、と膝に乗って丸くなる君は、目を細めて満足げ。


君は、本当に

「かわいいね」



ふと思い出す。

何度か呼んで、諦める頃になってようやく顔を出す君の姿。

ああ、そっか。

緩む頬。


ねぇ、おかゆ。




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