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ママ


〈一番の親不孝は親よりも先に死ぬことだからね〉


天を仰いで伸ばした前足。その指先を閉じて開いて。伸びた爪が傾いた太陽の光を受けてキラキラ。透ける血管。

いわゆる「ふみふみ」大人になっても母猫のおなかのように温かくて柔らかいものにふれると、幸せな赤ちゃん猫の気持ちに戻る。生後2ヶ月を境に、母猫は子猫を威嚇して遠ざけるようになるが、それを経験しなかった子猫に現れる動作だという。

寝ぼけた君は、天を仰いでふみふみ。ちゃんと開いていないまなこでママを探す、その指先を静かに見つめる。


先日、少し目を離した隙に、タマネギの入ったおかずを口にした。実際食べたのは鮭だったようだが、溶け出した成分も悪さをするというのだから肝が冷えた。悲鳴に反応して駆けつけた旦那と共に夜間救急に向かう途中、この子の身に何かあったらと思うと震えが止まらなかった。

幸い大事には至らずに済んだ。しかしこのことは同時に、いつか必ず訪れる別れの前触れでしかないと突きつけた。


〈一番の親不孝は親よりも先に死ぬことだからね〉


それは悲しいニュースが流れる度、幼い頃から母親に言い聞かされていたこと。その意味が今になってやっと分かる気がする。絶対にいけないのだ。絶対に。

昨日、三浦春馬さんのドラマが「遺作」として放送された。竹内結子さんが亡くなったばかりだ。予期せぬところから飛び出す訃報。


「こんな甘えたな猫、見たことない」と笑われる君は、膝の上を陣取ると、本を読むことさえ許してくれない。立ち上がれば小走りについてくる。その姿は、

いつか必ずなくなる。どんなに足掻こうと、私自身に不幸がない限り、必ず君の死に立ち会わなければいけなくなる。その現実に、ふと押し潰されそうになる。

そもそもまるで縁のなかった猫を飼うきっかけになったのは、ノラを拾った隣人に話を持ちかけられた時、好きな作家である村山由佳さんの「猫がいなけりゃ息もできない」という作品のタイトルが浮かんだからで、それがどういう心情なのか知りたかったからだ。先日彼女によるエッセイ、亡くなった愛猫もみじの話をかいま見た時、その安易な選択をひどく後悔した。これは約束された未来なのだ。

猫を飼うことで、ストレス指数が下がり、長生きしやすくなると聞いたことがある。ただ、それは別れを考慮したものではない。一緒に過ごすようになって2年経過すると、急激に親密度が上がるとネットで見たことがあるが、まだ1ヶ月経ってない。そう。考えてみたところで、この子が来てまだ1ヶ月さえ経ってないのだ。


天を仰いで伸ばした前足。その指先を閉じて開いて。伸びた爪が傾いた太陽の光を受けてキラキラ。透ける血管。浮かぶ思いは3つ。


ママになれなくてごめんね。ママにしてくれてありがとう。

……いい加減爪切らなきゃ。私にできるかな?


苦しい想定。心の準備は大事かも知れない。でもそんなことよりも

今は君と出会えたことを、過ごす日々を、出来ることを増やしていく日々を愛しみたい。……うちに来てくれてありがとう。


ねぇ、おかゆ。





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