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「作るコスト≠売るコスト」誤解しがちな原価の考え方

ハードウェアスタートアップがプロダクトの試作を終え、一定数以上の量産に進む段階では、原価を見直す必要があります。それはハードウェアを製造する「作るためのコスト」だけでなく、ユーザーの手元まで届ける「売るためのコスト」の存在も見落としてはいけません。量産前のフェーズで考えておくべき、正しい原価の考え方について紹介します。

「売るためのコスト」なくしてビジネスプランは描けない

ハードウェアビジネスにかかるコストといえば、モーターネジ、外装など材料の原価を最初にイメージするのではないでしょうか。しかし、イベント出展や広告など営業活動にかかる販売管理費をはじめ、バックオフィスの人件費なども含めた「売るためのコスト」も考慮しなくてはいけません。
 
ハードウェアで起業する人の中には、こうした「売るためのコスト」の見積もりを見誤ったり、営業や販売管理にかかる費用を考慮しないケースがあります。

その結果、プロダクトの売り上げが伸びても全体の支出をカバーすることができず、赤字体質から抜け出しづらくなることがあります。逆に、販売管理費の押し下げが黒字化に寄与したテスラのような事例もありますから、「売るためのコスト」はハードウェアスタートアップが真剣に考えるべきテーマと言えるでしょう。


主要な「作るためのコスト」と「売るためのコスト」

「売るためのコスト」を正しく見積もるためには、対象となるユーザーを明らかにする必要があります。
 
自分たちのプロダクトは、テレビCMを打たないと届けられないものなのか、ネット広告で十分か、それとも知り合いづてでもアプローチできるものなのか?といった判断から、市場規模や販売人員の人件費など、「売るためのコスト」にも多くの考えるべき要素があります。
 
ビジネスモデルキャンバスなども活用して、製造から販売までの全体像を洗い出し、大枠をつかんでおきましょう。その上で、デスクトップリサーチや経験者へのヒアリングを通じて、あらゆるコストを精査しながら、ビジネスプランを修正してください。

生産規模によって材料原価と調達先が変わる

「作るためのコスト」も、生産台数によって大きく変化します。ここでは例として、大手電子部品ECサービスのMOUSERで電子部品の費用を見積もってみましょう。
 
とある部品は10個頼む場合には単価が660円でしたが、1000個の注文では単価が392円になりました。より個数が増えていけば、さらに単価は下がっていくでしょう。このように台数によって部品の原価は変わるので、生産台数を想定しないことには、正しいコストを見積もれないのです。


部品によっては最小購入数(MOQ、Minimum Order Quantity)が指定されているものや、購入単位によって割安感が出てくるものもあります。一番高価な部品のMOQや購入単位に合わせてハードウェアの製造台数を調整できれば、部品調達時の無駄を少なくできるはずです。

こうしたECサイトでの部品調達は、在庫状況がリアルタイムでわかるという利点がありますが、数千台以上の量産では部品メーカーと直接やり取りすることをおすすめします。価格の交渉がしやすいだけでなく、メーカーによる品質保証が得られます。
 
さらに開発・製造時にはドキュメントに記載されている情報をもとにしたアドバイスの提供や、検証実験の代行といった技術サポートが受けられる場合があります。ノウハウや実験設備が足りないスタートアップにとって、こうしたメーカーの支援は大きな力になるはずですから、ぜひ有効に活用してください。

自分で調べて、最後はしっかりプロに頼る

部品の選定が終わり、量産の準備が整ったとしても、スタートアップ自身ですべての部品を調達することはおすすめしません。量産工場の力を借りて、部材の調達も含めて製造をお願いしましょう。

量産工場は既に多くのサプライヤーと取引をしているため、部品調達の難易度がスタートアップ自身で行うよりも大きく下がります。また、汎用品を工場が大量購入している関係上、その調達に相乗りするような形で価格が安くなることも期待できます。ただし、工場側から提示される金額の妥当性を判断するために、スタートアップ側でも可能な限り原価は下調べしておきましょう。
 
なお、プロダクトが組み上がっても、そのままの状態でユーザーに届けることはできません。部品表(BOM、Bill Of Materials)から抜けがちですが、梱包材にもしっかりとコストがかかります。

製品をどのようなケースで梱包するべきか適切な方法がわからなければ、普段使っている家電などのハードウェアがどのように梱包されているか、まずはじっくり観察してみましょう。梱包材が二重になっている部分や、ビニールを被せている部品など、さまざまな発見があるでしょう。そのような感覚を持った上で、やはり最後はノウハウのある工場の人に相談することで、間違いのない仕上がりになるはずです。
 
スタートアップが時間を割くべきことは山ほどあるので、任せられる部分はプロに委ねる判断も重要です。その上で、「作るためのコスト」と「売るためのコスト」としっかり向き合って本当の原価を算出し、プロダクトの売価と利益に反映しましょう。

(取材・文:淺野義弘 / シンツウシン)

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