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青山学院「サブ組」の貢献と「心理的安全性」 〜箱根駅伝2022

箱根駅伝2022、TV中継は青学優勝のゴールの後、原監督の胴上げを2回めまでたっぷりと映してから、2位以下を映さずCMに、CMあけも2位順天堂はレース中で、TVは10位のシード権争いを映しはじめた(※僕の記憶による)。10分以上の差とは、これくらい大きい。

この圧勝劇の主因は「層の厚さ」と報道される。このnoteでは、その厚い層の下側、華やかなTV画面の10名に入れなかったサブチームについて注目してみたい。

※note公式「今日の注目記事」(1/4)選出いただきました〜

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※note公式【#GWに読み返したい人気note】(5/4)にも〜〜

勝因1.選手層の厚さ

Bチームが出てもかなり上位に入るんじゃないか?くらいに強い選手が余っている(笑 or泣)今年の青山学院チーム。これにより、 
”ケガや体調不良の選手に無理をさせることもないし、ギリギリまでコンディションを見極めることができる” (瀬古利彦さん)
という点が、箱根で勝つための圧倒的かつ特殊な強みになる:

この点について武井隆次さんはさらに:
"復路は、往路よりも個人走の様相が濃くなり、自らの状況判断も要求される。それだけに、トラックレースの「タイム」だけではなく、ハーフマラソンを自力でマネジメントして走れる「強さ」を兼ね備えた選手をそろえられたことが強みとなった"
と、選手の総合的な思考力判断力について指摘している:

これは原監督の書籍・報道・SNSなどの言動とも一致する。

青学には、入学時点で高校トップランナーが多数入学してはいる。出場大学の今季新入生5000m上位5人の平均タイムでも青学は1位Page記事より)

【1】青学大(13分55秒16)【2】東海大(13分59秒15)【3】明大(14分00秒23)【4】東京国際大(14分01秒99)【5】國學院大(14分05秒95)【6】東洋大(14分06秒78)【7】中大(14分09秒48)【8】駒大(14分09秒74)【9】神奈川大(14分12秒73)【10】日体大(14分12秒83)【11】中央学大(14分13秒15)【12】順大(14分16秒74)【13】専大(14分20秒32)【14】法大(14分22秒47)【15】帝京大(14分23秒22)【16】山梨学大(14分26秒30)【17】国士大(14分27秒13)【18】創価大(14分29秒85)【19】駿河台大(14分41秒79)※早大は5人に満たしていない

ちなみに早稲田が5人いないのはスポーツ推薦で取れる枠が5人もないからだろうな。早稲田で走るために浪人もしながら一般入試を受験してくる叩き上げ(?)が何人か混ざるチームだ。
青学は、入学時点で既に高い走力をさらに高めながら、自力で判断できる「強さ」を育てられている、ということだろう。

勝因2.サブチームの貢献

ただ、いくら控え=サブチームが強くでも、それだけで勝てるとは限らないのは、プロ野球の人気球団でもよく見る話だ。サブ組の強さが、メイン組の強さとして実現して、はじめて価値となる。

今回、控えに注目したのは、復路スタート直前のこのツイート:

ほう?と見ていくと、メンバー決定済の1/3朝、3年生横田俊吾選手:

今年 "も" とは、16名のメンバーに入るも10名の出走組に入れないこと2度めだから。3年の宮坂大器選手は、絶好調!とツイート、でも走れない:

そしておちゃらける1年生w

11月世田谷ハーフマラソンは、青学駅伝の準主力組がメンバー入りをアピールする場としてしられる(なので駅女さん=ファン女性たちも集まるw)。そこでみごと優勝し、16名には入ることができたのだが。

そこに先の横田選手が

と、まあみなさん明るい。

ただ明るいだけではなくて、悔しい、という気持ちを強烈に吐き出しているのが良い。とりつくろった明るさではなくて、本音として吐き出しているということだから。

さらに、この16名に入れなかった強豪ランナーたちがいる。箱根の1週間前、「0区」とよばれる、メンバー選外部員による1万mタイムトライアルがあり、3名が28分台。

登録メンバーは全員28分台、ということは1万m28分台ランナーが19名いるということ。Bチームも強いはずだ。

この厚みがあるから、補欠ランナーも同等の実力があって、当日のメンバー変更で手堅くレースを組み立てることができる。チームにとっては良いことだが、力があるのに発揮できない本人にとっては残酷でもある。大事なのは、かれらが想いを「成仏」できていることだ。心から。

この記事書いたのはスポーツ報知の太田記者かな?

箱根は丁寧な現場取材される方が多く、情報追ってくのもおもしろい。てこのnoteもその1つか笑

「心理的安全性」〜マイナス情報も吐き出せることの重要性

マイナス情報を素直に吐き出せるのは、状況や言い方にもよるけど(=ここが大事なのだが)、長距離走の場合、ケガや不調のリスクを回避するためにも重要。故障の予兆のようなものを隠して、練習で強さを見せようとすると、故障発生へと近づいてしまう。

つまり、小さなマイナスを日頃から吐き出し続けることで、大きなマイナスを防ぐ。

前提として、「心理的安全性」が必要。

「心理的安全性(psychological safety)」とは、組織の中で自分の考えや気持ちを誰に対してでも安心して発言できる状態のこと
(出典:リクルートの研修部門

Google Trendで過去5年間の検索数をみると、2019年頃から注目され始め、2021年はおそらくはロックダウン状況下でのメンタルヘルスへの注目の中で明らかに底上げされている言葉だ。

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原監督自身も、2019年のインタビューで、
" 寮生活の中で、心理学の言葉で言えば「心理的安全性」が担保されてるから。「なんでも話していいんだよ」という空気を、十数年かけてつくってきました。そういう組織形態の中で育ててきた子どもたちが、いきいきと自分の言葉を発する。"
と言っている。

さらっと言われるが、簡単ではないと思う。駅伝チームの場合、自分の弱みを発言することで、メンバー入りが遠ざかるかもしれないから。
それでも言えるための条件を考えると、

1.発言すること自体への安心感
2.仮にメンバー入りできなかったとしても、自分なりに満足できるだろう、という安心感

という2つの面があるのではないかな。

このような言動によって、出場できなくても、勝利への貢献は可能。その結果チームが勝ったのだから、出場できていなくたって、勝利だ。

とはいえ実際、そんな言葉でさらっと書けるようなものではないはず。青山学院では12月10日頃に16名を発表するようで、2013年での大谷遼太郎さん(2区5位、三大駅伝初優勝した頃)エピソードが熱い:

こんな感情の積み重ねが、経験値へとかわり、伝統の一部になってゆく。

プロ・サッカーからの証言

控え組の存在が、実戦出場する主力たちにどれだけ影響するのか、サッカー界では、「本当に強いクラブは控え組が強い」と2001年から横浜Fマリノス経営に関わる左伴繁雄氏が:

同意する琉球アスティーダの早川周作社長:

栃木SC取締役マーケティング戦略部長えとみほ氏は、「これが全てではないか、と思うくらい大事なことだと感じます」とまで言う。

現場プレイヤー目線で詳しく解説するのが「匿名Jリーガー」さん:

試合に出ていない選手が、チームの目標に対してどれだけ熱くなれるか、真剣に向き合えるかがチームの雰囲気を左右するといっても過言ではない” 

とnote "『サブ組』がチームにもたらすもの" (2021年9月)で説明する:

匿名Jリーガーさんのような現場の生々しい発信を読めるのが、SNS匿名アカウントのいいところだ。いくつか引用:

互いにリスペクトし合い、良い所を盗み合い、相乗効果的な競走をしていかなくてはならない

緊張感や焦燥感の中で、ライバルをリスペクトし、前向きな立ち振る舞いをし続けることは本当に難しいこと

試合に出ている選手を含めた周囲の人間が、試合に絡めない選手に対して何らかの働きかけをすることはとても大切

奮起したサブ組の熱量やパワーに対して、先発組が負けじと立ち向かう瞬間こそ、チームとしての総合力が磨かれている時ではないか

こうした関係が成立するために、組織として必要なのは、

「不遇な時期を前向きに過ごすことで、後の自分にプラスに働いたという成功体験」を得ること

なるほど。正しい。
では、個人としてはそどうすればいいのか?

「演じる自分」でもいい。
語弊を恐れずに言えば、「嘘でも良いから熱狂しろ」

こういう生々しい体験談が匿名Jリーガーさんとてもいい。

陸上長距離走は個人競技だが、駅伝、とくに箱根は、チーム競技の面が強い。青学チームもこのような環境にあるのだろう。

箱根2022、他チームの速さ、強さ

もちろん、他のチームも同じようにできているから、箱根は全体にレベルが高い。

とくに今回、全体に速い。

15位の国士舘のタイム11時間3分6秒は、2017年の総合優勝青学の11時間04分10秒より速い。8位の國學院10時間57分10秒は、2018年の優勝青学10時間57分39秒(当時新記録)より速い。

これは全体のレベルアップもあるけど、厚底カーボンシューズの威力でもある。2019年はNIKEカーボン靴を本格投入した東海大学が10時間52分で優勝、青学はスポンサーAdidasと共に転落、2020年はウェアAdidas×シューズNIKEのねじれ大作戦の青学が10時間45分で奪回。

総合2位の順天堂は、五輪3000m障害で驚異の入賞を果たした三浦龍司選手本人は不発だったけど、彼の存在のチーム全体への影響力はすごくありそう。(不発というか、箱根に優先順位を置いてない気もする、後述)

駒澤は、逆転優勝にむけて復路で故障あけ2年生を起用するリスクを取り、本人もリスクを取って走り、結果外したけど、それでも総合3位を死守。リスクマネジメントとして見れば、成功、といっていいだろう。

駿河台は前半で人間ドラマを、後半では確実にタスキをつないで、ニュース効果も高める戦略まで見事だった。4区、教師休職の今井隆生選手31歳に、残り1㎞で徳本監督がかけた言葉:

" お前に残された時間は3分だ
これまでで楽しかったことを思い出せ
俺は楽しかったぞ "

箱根史に残る名言。今井さんの入学時点で、駿河台が本当に箱根に出れると思っていた人はほとんどいなかったのでは。今井さんはその厳しいチャレンジに賭けた。

チームごとの成績差は、トップ高校生の採用能力、強化環境など、いろんな要因がある。ただスポーツの本質は個人。リスクを取った行動は本人に何かを残すだろう。為末大さん1/4NOTE:

" リスクを取った経験がもたらすものは〜 第三に自分の人生を生きるという確信です。リスクを取る前の人生は例えれば河に置かれて流されている笹舟に過ぎません。怖い。だけれど自分で考えて自分の意志で自分の一歩を踏み出した瞬間に自分の人生が始まります。リスクを取る前と取った後の人生は、大袈裟ではなく生きている実感が違います。"

箱根駅伝、ある意味ガラパゴス?

ここまで書いてきたことは、あくまでも、箱根スペシャルな強さ。

箱根駅伝とは、ランニング競技としては、日本特有の特殊な競技だ。ハーフマラソンをミスなく確実に走れる選手を確実に10人揃えて、全員が当日確実に実行できることが必須。個人競技としてのランニング能力とは別の、チームマネジメント的な能力が重要だと思う。

箱根を経て日本トップレベルで世界と戦えているランナーには、青山学院はすくなめで、2021東京五輪男子代表はマラソン:早稲田/駒澤/東洋、1万m:東洋/東京国際、5000m:順天堂/法政、3000m障害:東海/城西/法政。

箱根スペシャルの強さ、とは、青学基準では、

往路:練習消化率=ミスなく確実に走れる
復路:才能=ポテンシャル+ビッグレースで結果を残せること

ということのようだ。

普通のチームは、往路で才能ある強いランナーを配置し、強い印象をTVで残しながら、2日めを逃げ切ろうとする。層の厚いチームでは、集団走の1日目は手堅く位置を保ち、単独走の2日目は状況対応・自己判断できる強いランナーで勝負をかける。手堅く位置をキープできる能力は、単純な走力に加えて、日常の練習でも安定して走り続けることができる=すなわちポイント練習を毎回必ず実行できる=練習消化率が指標になる(と原監督が判断している)ということだ。

僕思うに、「決められた練習を確実にこなす能力」とは、個人競技では重要ではないし、場合によってはマイナスにすらなりうると思っている。大事なのは、最大目標のタイミングで力を出し切ること。

そしてその最大目標はとは、順天堂三浦や駒澤田澤にとっては、箱根では な い はず。その意味で、かれらが青学に入らなかったのは(※もちろん想像だけれど)ある種の合理性があるようにも思う。

2021年シーズンの青学とは、10月出雲6区45km、11月全日本大学駅伝8区106km、ともに青学は2位。1月箱根10区217kmで優勝。箱根に最適化したチームともいえる。

こうしたチーム性が、日本人にここまで愛される理由なのだろう。

駒澤東洋順天堂東海あたりの指導者の心中はわからないが、僕の勝手な妄想では、「箱根の成績は職の継続のために必要(いわゆるライスワーク)、世界を戦えるトップランナー育成はライフワーク」みたいに位置づけていても不思議ではない。
一方で青学原監督は、もちろんそちらも強く強く望みつつも、社会経済経営的な成長、成功へのエネルギーがより高いようにも感じられる。(※僕個人の想像です)

人間のエネルギーは、必ずしも無限ではなくて、どこか1つに集中するべきタイミングというのはあるから。五輪最優先なら、五輪直後から2年くらいは長期目線での取り組みをすることも多いし(100mのウサイン・ボルトが好例、あと競泳の北島康介もそんな雰囲気感じた)

EKIDEN News さんによる今回大会レビュー記事によれば、世界を狙えるレベルの選手は、みな箱根は通過点として捉えている感じだ:

中央大1区 吉居大和: 5000mでオレゴン・ユージーン世界陸上参加標準突破目標、箱根とトラック5000mとの両立を狙う調整で臨んだ
駒澤大2区 田澤廉: 昨12月に世界選手権1万m参加標準記録を日本歴代2位の記録(27分23秒44)でクリア済(箱根はピークではない?)
順天堂大2区 三浦龍司: 昨8月東京五輪3000m障害で入賞(=歴史的快挙!)、世界陸上で戦うための基礎体力づくりとして箱根はGood!

なお東京国際大2区ヴィンセントは序盤で痛みが出てセーフモードに切り替え(のわりに速い)(当然世界選手権〜パリ狙い)

この記事で、「吉居選手と田澤選手の区間賞インタビューでも、箱根に関する話はほとんどなく、世界を意識したようなコメントに終始」とは、瀬古さん大迫傑さんなど番組インタビュアー側が聞きたがってたのも大きい。やはり瀬古大迫レベルの関心は、箱根の結果よりも、世界で戦うこと。

ランニングの基本は個。個としての強さは、当然才能=いわゆる遺伝子ガチャから始まっていて、指導者の役割は限定的でもあり。それぞれのいろんな強みを楽しんでいこう。

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参考note:

今回のタイムの大差については、1/9のこちらにまとめました ↓

2022年の日本のスポーツシーンでは、学生スポーツのマネタイズにまつわる変化が進んでいくだろう。駅伝の運営を支える学生ボランティアさんたちにも正当な日当が支払われる大会であってほしいと願う。2年前のnote「箱根駅伝おカネの流れ」、去年、ウェアスポンサーの話題など追加してます ↓ 

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1/4追記:note公式「今日の注目記事」選定されました〜〜(冒頭の)把握してるかぎりで15本め。トップページの隣タブのとこに最初に出てくる!

ちなみにこんな花吹雪の演出で迎えてくれる:

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1/10追記:150超のスキいただきまして♡

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原晋監督が心理を語っている書籍としては、『青学駅伝選手たちが実践! 勝てるメンタル』2019/3 など。情報自体の価値もまあまああるけど、(日頃情報収集してる人にとっては)それほどすごいことをいっているわけでもなくて、重要なのはその実行にある、という好例

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トップ画像はJeremy Lapakさんフリー素材 

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