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おまけ① Treasure Hiding 宝かくし

イワシと別れて岸に戻るルチアーノ。
別の海の生き物に遭遇し、なんとリア充ビームにやられそうになります。
けれど蓋を開けてみれば色々あるわけで。

まだ読んでいない方。
本編はこちらから → 短編小説『
ルチアーノ -白い尾のオナガ-


Treasure Hiding 宝かくし

ルチアーノは岩場を目指して飛んだ。
イワシに聞いたばかりの尾羽を青くする方法を早く試したかった。
すると波間でまた何かがきらきら光った。
「今度は誰だろう?」
追いついて覗きこむと、三匹の大きな魚のようだった。
つやつやの丸い背中は交互に波間に現れては消え、沖に向かって進んでいた。
「やあ」
先に声をかけられ、ルチアーノは咄嗟に返す言葉を思いつかなかった。
「君達、誰?」
ルチアーノが近くのブイに降り立つと、そのうちの一人がその横にすいと顔を出した。
「僕はルカLuca。イルカだよ」
「とても綺麗な飾りだね。それ生きているの?」
ルチアーノはイルカの体中に貼られた金色の丸いものに見入った。格子模様の水面の下でぶよんと伸びたり、きゅっと縮んだりしているようにみえた。
「面白いことを言うな。いきいきさせているのは、僕らってことだよ」
「眩しくて、ずっと見てはいられないけど・・・・・・」
ルチアーノは目をしばたかせ、そういえば自分もイワシにそう言われたことを思い出した。
ルカが誰かと話していることに気づいて、先を泳いでいた二人が引き返してきた。
ぺルラPerlaウーゴUgoだよ」
二人も体中に金貨を貼りつけていた。
「僕はオナガのルチアーノ。尾羽を青くする方法を探して森から来たんだ」
「君の尾羽、傷一つないぴかぴかじゃないか。ほかのものを探したらどう? 例えばこの金貨」
ルカは水面から背中を出して見せた。金貨はぎらぎらと太陽を跳ね返した。
「沈没船のお宝だよ。こうやって時々運んで別の場所に隠すんだ。人間が簡単に見つけられないようにね」
「どうしてそんなことをするの?」
「だって、すぐに見つかっちゃったらつまらないだろう? 世界を面白くしているのは、僕らってことだよ」
そう言ったルカの目は、太陽よりも金貨よりもきらきらとしていた。
「だけどルチアーノ、君の探しているものは僕らが隠す金貨より見つけるのが難しいかもしれないよ」
目の周りにうっすらとメガネのような模様のあるウーゴが言った。
ルカとぺルラもそんなことより楽しいことを探したらどうかと口々に言った。
「さっきイワシに尾羽を青くする方法を教えてもらって、それは試してみたいんだ」
言ってしまってルチアーノははっとした。
「イワシ? イワシの群れに会ったの?」
「どこで?」
イルカ達の目がルチアーノを探った。
ルチアーノはルカの口からのぞくギザギザの白い歯から目を逸らした。
「でももうずいぶん遠くに行ってしまったと思うよ」
「ルチアーノ、君の優しさは時に君を苦しめていやしない?」
ウーゴに見透かされ、ルチアーノはもごもごとした。
「ウーゴって哲学者みたいだろ?」
ルカは助け舟を出すように腹を上にしてゆったりとブイの周りを泳いだ。ルカのへその脇にはすったような大きな傷があった。
「イワシのことはいいのよ。今私達、金貨を運ぶので忙しいから」
見かねたとばかりに、ウーゴにぱしゃんと水をかけたぺルラの尾びれは少し欠けていた。
「金貨はどこに隠すの?」
ルチアーノはえいやと話しを戻した。
イルカ達はボール遊びでもするようにぽんぽんと意見を投げ合い始めた。
「それは僕らだけの秘密」
「そうしないと面白くないからね」
「でも私、ルチアーノは誰にも言わないと思う」
「僕もそう思うよ、ぺルラ。ルチアーノには教えてあげようよ」
泳ぎ回るイルカ達のたてた波でブイが激しく揺れた。ルチアーノは振り落されまいとぐっと爪を立てた。
ルカは揺れるブイを口先で押さえ、きゅうきゅうした声でルチアーノに耳打ちした。
「海の底にそんなものがあるの?」
ルチアーノは目を丸くした。
「見つけた時は、僕らも驚いたよ」
ルカはその時の興奮を思い出したのか、頭の先から勢いよく水を吹いた。
「陸にも似たものがあるんじゃないかって、僕は思うけど」
ウーゴは剥げかけたメガネ模様のつるのあたりを胸びれでこすった。
「私はそんなに好きじゃないけど」
ぺルラは宝の隠し場所に不満げだった。
「じゃあ、僕らは行くよ」
「いつもよりそうっと泳ぐんだ。急ぎ過ぎると落としてしまうからね」
「そんなのわかってる」
イルカ達は誰からともなく身をひるがえし、沖に向かって泳ぎ去った。
ちらちらしながら遠ざかる金貨はやがて、日差しを照り返す水面と見分けがつかなくなった。
ぽつんと浮かんだブイの上のルチアーノを太陽がじりじりと焼いた。
ルチアーノはブイを蹴って舞い上がり、岸に向かった。


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潜っても 潜っても 青い海(種田山頭火風)