私は自然の一部にはなりたくなかった
ここから遠く、存在が小さくなるまで。
離れてしまえば、無感動で
離れてしまえば、気配さえもなかった。
静寂の世界で、誰にもじゃまされず
心を動かすこともない。
きっと、もう傷付きたくはなかったのだ。
・
だけど離れた場所で、ただ傍観していると
遠くに見える世界は、止まってみえた。
街の喧騒も、誰かの笑い声も
無意味なおしゃべりと、
それを繋ぎ止める相づちも。
・
何も聞こえない無音の今を、
ここで、ただじっと見つめている。
気がつけば身体の輪郭は巨大に広がって、
やがて透明になり空に溶けた。
後に残ったのは、ふわふわ漂う意識のかたまり。
・
上空には雲が流れて、
太陽の光が地上に降り注いでいた。
・
私は自然の一部になってしまったのか。
・
答えのないおしゃべりでもいい、
愛想笑いでもいい、
街の喧騒と、誰かの笑い声と、
人の目を気にしている私も、
傷ついて落ち込んでいる私も、
無意味だと思ったことも、全部。
もう一度、躍動の渦に巻き込まれて、
漂いながらも今の大地に足を踏みしめていたい。
「ここにいる」と叫びたい。
・
私は自然の一部にはなりたくなかった。
・
photo by @takahiro_bessho
text by Miho Kameguchi
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