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流れ止めず橋を渡る

この橋は、一定間隔ごとに床に隙間ができている。
しかし、橋はそこまで高くなく、踏み外しても床につまずかなければ問題はない。

この橋の下には、川が流れている。濁流のように色とりどりの水が流れていることもあれば、急に灰色の固い土が見えるほど干ばつしたりする不思議な川だ。
橋は高くないので川が流れていると浸水する。そこで、開閉門を設置することにした。そうすることにより、他の川からの流れにぶつかることがない。橋を踏み外しても飲み込まれる心配は少なくなった。

開閉門には種類があり、自動で開閉ができる装置や流れを分けることで氾濫を防いでいたりするハイテクなものがあるようだ。その中で、私の家に近い橋は渡るために1つのルールがあった。

手動で開閉門の扉を閉めてから渡ること。

厳密にいうと、橋の前に小さなボタンがあって、それを押すとカラクリが作動して開閉門が閉じる仕組みだ。ある一定時間が過ぎると開門して川が流れる。

なぜこの仕組みで設置されているのか。それは、この橋を利用する人がほぼいないからだ。人が渡らないのにその都度川を止めていると氾濫を起こすようで、しかし、橋がないと対岸に行く前に足をすくわれてしまう。なら、カラクリを使ったボタン式の開閉門を取り付けよう。ということになったそうだ。

だが、ボタン式の開閉門には欠点が2つあった。ボタン式を知らない人にとって、いつまでも閉まらない。ボタンに気が付かずずっと待っている人がいる。ある意味、律儀な人が痛い目を見てしまうものだった。

もう1つはボタン式だけに関わらず、川の流れがなければ渡ってしまう輩が存在していること。それをきっかけに同じく動いてしまう人もいるという。

たとえ、川の流れが止まっているように見えても、渡っている間に速い水流が足をすくうかもしれない。開閉門が閉じていても、上から溢れでる水流が渡る人を飲み込むかもしれない。私は、その危険性を身に染みて知っている。一緒にいたおばちゃんが手を引っ張っていなければ溺れていた。驚きと目の前で流れていた濁流の恐怖で泣いていた私に、叱りながら言ってくれたことわざのような言葉がいくつになっても忘れられなかった。

成人した今、ボランティアとしてその危険性を広めて回っている。
こどもたちにはもちろん、橋の前に立って調査をしたり、川の流れが異常ではないかなど。やることはたくさんあるけれど、共存していく未来のために講演会の最後には、これを話す。

「真剣に聞いていた方も、座り疲れた方も最後にこの言葉は覚えて帰ってくださいね。」


「『川の流れ止めずは、死を渡る。』です。」


「それでは、この講演会を終わりにしたいと思います。ご清聴ありがとうございました。」



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