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会社を辞めることにした話

先週の火曜日は、
1か月ぶりの通院日だった。

診察室に入り、
「調子はどう?」と、先生が私に尋ねる。
「あ、はい。結構いいと思います。」
「眠れている?」
「はい。でも、たまに眠れない日は睡眠薬を飲みます。」
「ごはんは?」
「食べてます。大丈夫です。」
「仕事は、問題なくできている?」
「はい、大丈夫です。」

淡々とした質疑応答の中、

「あ、あの。。
私、タブン、辞めます。シゴト。」

カタコトの日本語で、
いきなり私が切り出したもんだから、
先生は目を見開いて、びっくりした様子だった。

「あ、え?・・そうなの?」



実は、先週。
すごく苦しいなと思うことがあった。

それは、休職の原因になったひとつでもある、
先輩社員との出来事で、些細なことだと言われれば、
そうなのかもしれない。

私が、気にしすぎと言われれば、
そんな気もする。

でも、間違いなく、あの日あの瞬間、
心臓がバクバクして、苦しく感じたのは事実だ。

―—怒りとも、悲しさとも、恐怖とも、少し違う
  真っ黒い感情。


もう、嫌だ。逃げよう。


あんなに、決められなかったのに。
この時は不思議なくらい、すっと心に落ちてきた。
人間って、面白い。
突然の感情が、すべてを動かしてしまうことがある。


そんなわけで、
やっと”辞める”という決意をした。
復職して、1か月。


私は、仕事をやめる。



「ほうほう・・やっと、決心ついたわけね。」
先生は、パソコンを打つ手を止めて、
私の方に体を向き直す。

「はい・・」と、自信なくうつむいたのに、
「ほ~、よかったじゃない。」と、
あまりにも先生が楽観的に言うもんだから、少し拍子抜けした。

「・・よかったよ。変な人から、離れられるんだよ。
よかったに、決まってるよ。」

先生は、続ける。

「・・あれだね。
あなたは、”損な性格”なんだな、多分。
優しすぎると、傷つけられやすくなってしまう。
周りを気にしすぎると、息苦しくなる。

でも、僕はね、それは悪いことだと思わないよ。
僕くらい歳をとったら、分かるときがくるよ。」


―—”損な性格”、か。

先生は、”それもまた良し。”みたいに言ってたけど、
損な性格って、やっぱなんか嫌だよなぁ、なんて。
帰り道はそんなことを考えながら、少し遠回りをして帰った。

花屋の店先に並んだ花たちが、かわいくて、
なんだかウキウキする。
赤、黄、青。信号のようだ。

本屋に寄り道をして、雑誌をパラパラとめくる。
かわいい服だな、どこのブランドのものだろう。

この間まで、お弁当屋さんだった場所は、
ドーナツ屋さんになるらしい。来月、オープンだって。
オープンしたら、行ってみようかな。


こうやって、色んな日々を乗り越えていくのだろうか。
いつかは。
この損な性格を、こんな自分を
好きになれるときがくるのだろうか。

分からないけど、
そんな日がくればいいな、と思う。



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