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祖母の電話対応で裏と表の使い方を理解した話

今日は、固定電話だった頃の話。

祖母は本当にがらっぱちというか豪快な性格で、女性にしては声も低かった。しかし、電話の時だけは言葉遣いが違っていた。

今やドラマの中でしか見られない、

「もしもし○○でございます」

へと変化をするのだ。

くしゃみをした後には、

「へっちくしょいっこんちくしょうぃっ」

とつけるのに電話だけは声が高く丁寧な言葉遣いとなる。

「もしもし○○でございます」

と山の手言葉へと変化するのだ。

くしゃみへの罵倒は歳を重ねるにつれ慣れ、祖母を形成する一つの特徴として認識していったのだが、小さい頃は自分が怒られたと勘違いして泣いていたらしい。

母は「もう、私のフォローが良かったから無事に成長できたのよ」と自慢していたが、私自身に記憶がないのでそれが本当かどうかはわからない。

さて、電話の話に戻ろう。

私が幼い頃、昼間、祖母は時代劇の再放送やワイドショーを見て過ごした。私は祖母の足袋型ソックス「アンヨコちゃん」で一人遊びを楽しんでいた。

その時間帯に電話が鳴ると、ドッコイショと椅子から立ち上がり文句を言いながら電話を取りに行く。

「ちっ、面白いところなのによぅ。(受話器を取る)ハイモシモシ、○○デゴザイマス」

平仮名の部分が地声の低い声、カタカタの部分が裏返った高い声で「ゴザイマス」の語尾はキュッと上がる。

電話は、知らない人だと高い声の山の手言葉が続き、知り合いなら地声に戻り、売り込みならドスの利いた声で相手を駆逐する。

幼い私には祖母のこの変化が不思議でたまらず、なぜ声が変わるのか質問をした。

「電話ってのはな、こういうものなんだよっ!」

生きていくには裏と表を上手に使わなくてはいけない、と最初に覚えた瞬間だった。

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