怪奇幻想秘密倶楽部

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【二十八節】リザーブ ここは怪奇幻想倶楽部 チョロチョロと竜頭の口から 手水盥に落ちる水の音 赤い屋根に赤い空 赤い十二の布帽子 青い業火で顔隠す 見上げたそれは青鈍の目で 冷ややかに私を見下ろす 金剛空海像 こんなに巨大だっただろうか 墓石の下 左隅の暗がり 次は私が納まる場所

【第三十節】星宿 ここは怪奇幻想倶楽部 鬼宿之事 女尸 天狗ー天上の犬を探すことについて語る

【二十九節】遺恨 ここは怪奇幻想倶楽部 その白い着物の女は 顔を隠すので正体が知れない 明らかに意図的であり 悪意がある 地鎮鎮魂の儀などは御機嫌伺いにもならない 餌をまくだけのこと 女もまた贄だったのかも知れない 地中浅く 怨みは深く 骨にしみこんだ あちらこちら 軋む音がする

【十六節】時間差② ここは怪奇幻想倶楽部 そのトンネルには男の幽霊も出るが女のほうが質が悪いようだ 写った写真を保存している関係者宅ではいないはずの部屋で足音がする 病院に言っても不調が治らず、寺で祓うように言った男は一週間後に事故で死んだ 退職後のことなので問題にはされていない

【序】 ここは幻想文学秘密倶楽部 まあ、秘密という程の倶楽部でもない 一階の店舗は仮の姿 二階の内階段を上ると 畳敷きの小さなキッチンと和式の御手洗 ここで幻想文学倶楽部の面々が集まると 一階の店舗にも関わらず仮の姿の店主は ベッドを持ち込みうたた寝をする たまに間違えて客が来る

【二十一節】プロジェクトX② 王子でUFOを目撃したこの時 前日から運転停止の宣言が各鉄道会社で発表されていた つい先頃やっと復旧を果たした路線もある そして俺は空に彗星を、流星を見たのだ あれから空を見ると地震が来るのがわかるようになった 地震雲 5体のUFOは何をしに来たのか

【七節】渡し守 ここは怪奇幻想倶楽部 三途の川は翡翠色 親は死んでいる 河原で石を積まなくて済みそうだ ギッチラギッチラ おお、お迎えか 見ると老夫婦がリヤカーを漕いでくる なんともローカル色漂う 乗せて頂くのも申し訳なく断る 対岸の岸 錦帯橋のような橋を あんたら押して渡る気か

【一節】男幽① ここは幻想文学倶楽部 洒落た出窓から月夜をアテに サーバーからビールなどはない 脚本家志望の大部屋俳優が一人 「昨日も出たんだぜ」 仮の店主は自動筆記 「誰も正体を知らない」 「でも映るんだテープに」 「吹き流しの手拭いに着流し姿」 「監督が妖術使いにいいってさ」

【八節】妨げ ここは怪奇幻想倶楽部 霊山を歩く者あり 死装束・自害用の懐刀 月明かりのみ頼り 修行鍛練の賜物とは山のザコすら 動向を見守る、気を発している 登り続けよ 道の選択肢は減る 突如脚は固まり、前進まぬ 目がなれて、崖の真っ黒な大きな口が開き 墜ちるのを待っていた 救いか

【二十七節】龍の交尾⑤ ここは怪奇幻想倶楽部 女房が羨ましい? あっしが?ええ、お侍様 あっしは女房が羨ましいですとも あっしには絶対姿を見せない女房の、あれが何か知りたいが、女房は無邪気過ぎて無理です そもそも信心深い人間を仇なす者はおるが 神仏に弓引くのとおんなじではねぇか?

【十五節】時間差① 我々は時折、非常に近接した現場での仕事がリンクする 顔を合わせることはないが、向こうが虎ノ門ヒルズの現場の後、自分が近くの虎ノ門トンネルの現場になった 白い着物の女が歩いていると話題になった 見張りの後ろに取り憑き、顔は上げず見せない ダルい体がダルいまずい

【二十五節】龍の交尾③ ここは怪奇幻想倶楽部 女房に聞かれたんです 龍にも雄と雌がいるのかと お侍様 雄雌ありましょう? 女房のほうがよく知ってると思うんでさ で、女房は龍の雄と雌は交尾するのか聞くんでさ ついてるもんはそりゃあついていますよねぇ? 女房はまた何を拾って来たんだか

【二十三節】龍の交尾① ここは怪奇幻想倶楽部 女房が家を離れると、あっしは気持ちが悪いんです 女房はあっしを叱るんですが、心の中では大変大事に思ってくれているのです 心裏腹とはこの事です お侍様 女房の後ろには、お侍様の後ろにいる 方とそっくりのお女中がついていましてね 護りでさ

【二十六節】龍の交尾④ ここは怪奇幻想倶楽部 あっしには死んだ女房がおりまして 死んだ女房はただあっしを見守るだけ 今の女房と離れると、あっしは怪我をよくするんでさ 女房が守ってくれるのはこの家でだけで ただ死んだ女房がついてくるだけで 亡者ばかりの野良に嫌な気持ちで行くんでさ

【二十四節】龍の交尾② ここは怪奇幻想倶楽部 それと何かわからないのですが、女房には別にもうひとつ護りがありましてね あっしが男だからか姿を見せません 女房にはなにもついていないんでさ そんなやつもいるんでさ 女房はどこかに置いて来たそうなんで 近頃龍神さんの話はよくしてました

【十八節】全員顔見知り ここは怪奇幻想倶楽部 津波でのまれたとある町 町民のほとんどがさらわれた 噂だが とあるトンネルに集まって来ているのだと言う 自覚のない死 交わされる挨拶 あーら奥さん 旦那はお元気? あらそこにいるのかしら? 平凡な日々 作業員の魔よけのずずは切れまくる

【九節】丸鶴紋① ここは怪奇幻想倶楽部 あっしは茅ぶきのうちに帰りました へえ、あっしのうちです 右手に水甕米びつ竃、熊手のかかった汚いうちです 女房が囲炉裏で雑穀の飯を炊いていて、たくあんと味噌汁でした 女房があっしのへそくりで着物を買ったのでしょい籠に野菜を入れ里を下りました

【二十二節】暇乞い ここは怪奇幻想倶楽部 雨の降った日だからもう十日経つだろうか にこにこ笑う翁が宿に来た 一様に見た者は皆、ニタア~と笑うと言う どうも声が出ない老翁らしい 近寄って来るふうもなく、ただ幸せそうに笑う 同じ頃、別の宿に巣食っていた婆さんと手招き女が揃って消えた

【四節】離魂② 橋が半分切れている先に茅葺きの家 小屋の中からひかり 件の滝の真ん前に大きな鳥居 谷と谷の間の緑が青々としている 滝の方が明るい 夜が明ける、帰らなければ (帰る道がわからない) どこからかラジオの音がする 音の方に向かう (ああ、ここだ) オレのアパートが見えた

【三節】離魂① ここは怪奇幻想倶楽部 (寒い) 布団がバサバサッ、バサッと落ちた気配 天井に腕を組む男が見下ろしている (誰だ、オレだ) 窓の外の明かりで知る また眠る 上から見る滝は見覚えがない 山と山の間を抜け、飛び続けているのに近くならない長い橋 戻ろうとする 橋が半分ない