菊畑茂久馬

山本作兵衛の世界─記憶の坑道

筑豊の炭鉱画家、山本作兵衛(1892~1984)の回顧展。世界記憶遺産に登録されてから、改めて再評価の機運が高まっているが、本展は、質的にも量的にも、これまででもっともまとまった良質の企画展であった。それは、これを企画したのが「美術館」ではなく「博物館」であったということと、おそらく無関係ではない。

展示されたのは、画用紙に水彩や墨で描かれた炭鉱画の原画をはじめ、関連する映像、炭鉱で使われていた

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絵描きと戦争

木村栄文監督による伝説的な映像作品。「フジタよ、眠れ」を含む同名の著作がある菊畑茂久馬が監修に加わり(『菊畑茂久馬著作集1』)、出演もした。

絵描きにとって戦争とはなんだったのか。藤田嗣治と坂本繁二郎の対照的な足跡をたどりながら、この問いについて考えるテレビドキュメンタリーだ。

おもなインタビュアーはテレビドラマ《白い巨塔》(1978年)で知られる俳優の山本學で、木村栄文が聞き手を務めた部分も

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国宝 一遍聖繪

《一遍聖繪》とは、時宗の宗祖、一遍上人(1239-1289)の行状を描いた鎌倉時代の絵巻。国内最古の絹本著色絵巻で、国宝に指定された名品である。今回の展覧会は、これを所蔵する時宗総本山清浄光寺の遊行寺宝物館が、その全十二巻を一般公開したもの。一巻の全長がおよそ10メートルだから、全巻を合わせると、およそ130メートル。それらが決して広いとは言えない会場に一挙に展示された。

「南無阿弥陀仏」。一遍

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九州派展──戦後の福岡で産声を上げた、奇跡の前衛集団。その歴史を再訪する

美術評論家の宮川淳(1933-1977)は、初の評論「アンフォルメル以後」(1963)において、いわゆる「アンフォルメル旋風」にあおられた当時の日本絵画の状況を、「様式概念としての現代」と「価値概念としての近代」の矛盾という論点から分析した。宮川によれば、アンフォルメルとは近代芸術におけるフォルムからマチエールへの価値転換という本質的な構造変化の現われであり、それゆえ本来的にはいまだ確立されていな

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絵画の様式論(五)

辰野登恵子の「様式」を近代の「アンラーニング(unlearning)」としてとらえうるとすれば、近代への徹底的な反逆の先で絵画を一から「ラーニング(learning)」してきたのが森山安英である。森山(1936- )と辰野(1950-2014)は世代も画風も思想もまったく異なるが、こと近代芸術をめぐる「ラーニング」と「アンラーニング」という観点においては、両者は明瞭な対照形を描き出す。

森山安英

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