マガジンのカバー画像

心理士長谷川博一による書下ろし小説・フィクション

15
構想1日。更新随時。変わり種の心理士、泉海(いずみか い 33歳)が誘う人の心の不可思議な世界。泉は特殊な技法で人々の苦悩に立ち向かう。その技法とは、人の心に潜入するというもの。…
運営しているクリエイター

2019年8月の記事一覧

diver 第一部 第十話

diver 第一部 第十話

【 1 沈滞 】…………

<(低い男の声)さて、読者の諸君。そろそろこの物語に隠された、ある真実の秘密が見えてきた頃かな。「いやいや、理屈では説明のつかないことがある、ぐらいしかわかりません」といった声が聞こえてきそうだ。そんなに難しいかな。決定的に重大な、ある真実を見抜くのは>

 <この物語は誰が書いている? 「僕」と呼んでいる書き手は誰だったかな? 泉海(いずみかい)じゃないかって? そう

もっとみる
diver 第一部 第九話

diver 第一部 第九話

【 1 天に帰った魂 】 お盆が終わった。この時期は毎年、人々は先祖の魂があの世とこの世を行き来することに想像を膨らませながら、全国で様々な行事が行われている。

 僕たちは、あの西の地で、仙人のような神主から古い鈴を託された。これからどんな新しい出会いがあるだろう。どんな別れがあるだろう……。未知の自分との出会いも、新たな目標になった。

 朝、2階の事務室へ行くとマリさんがノートに何やら書きこ

もっとみる
diver 第一部 第八話

diver 第一部 第八話

【 1 ドライブ 】 お盆休みも後半に入った。かねてからマリさんと約束していたドライブ旅行に出かけることになった。行先は、マリさんの提案通り、日本三大羽衣伝説の地のうちの2つ、京丹後と三保の松原。

 車は、マリさんが大型ワンボックスカーのヴェルファイアーを手配してくれていた。この車は1列目から3列目までをフルフラットにすることができ、とても広く、仮眠することができる。というのも、高速道路の渋滞が

もっとみる
diver 第一部 第七話

diver 第一部 第七話

【 1 電話の向こう 】 右腕の傷が癒えるまで、この数日間は字を書いたりすることを医者から止められている。そこでクライエントには、事務員のマリさんがカウンセリングに同席してカルテへの記録を行ってもらうことを了承してもらった。了承してもらえない場合の代替案として録音を提案しようとしたが、今のところすべて大丈夫だった。

 午前のカウンセリングを終え、昼食の休憩に入った。最近は、1階の自分のキッチンへ

もっとみる