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菊之助「読書日記」と歌舞伎の未来。

 歌舞伎役者はどんな本を読んでいるのだろう。

 八代目坂東三津五郎は、教養人で、多数の著書を持っていることでも知られている。歌舞伎だけではなく、骨董などの趣味が知られ、エッセイも小技が効いている。

 若くして亡くなった十代目は、菊五郎劇団の重鎮だった父の九代目に「おまえは八代目の血を引いている」と半ば揶揄されたと語っていた。つまりは、愛書家は、変わり者とされる世界なのだとわかる。

 尾上菊之助が、日本経済新聞の読書欄に「読書日記」として四回のエッセイを寄稿している。
  

 取り上げた本は、『江戸のスポーツ歴史事典』(柏書房)、赤坂憲雄『ナウシカ考』、エンデ『モモ』(岩波少年文庫)、ジェイン・マクゴニガル『スーパーベターになろう!』(武藤陽生・藤井清美訳、早川書房)と、バラエティに富んでいる。

 いくつか気がついたことがある。
 菊之助の興味の関心は、まずフィジカルなものにあるということ。身体の状態がいかに、人間を左右しているか。まさしく役者らしくこの事実をみつめている。


 さらに、読書のきっかけは、きわめて具体的であること。書店で偶然であったりするのではなく、たとえばリオ五輪陸上金メダリストの飯塚翔太さんのお勧めに従っている。ここでは、人との出会いが、本との出会いであり、一期一会を大切にする気持ちが伝わってきた。

 さて、第三回では、めずらしく家族が登場する。今年、菊之助の長男丑之助の活躍ぶりは、みなよくしるところだが、
「倅(せがれ)に日本舞踊の稽古をつけたり、家族で近所を散歩したり、料理に挑戦したりと、一緒に過ごす大切さを再発見した。

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年々、演劇を観るのが楽しくなってきました。20代から30代のときの感触が戻ってきたようが気がします。これからは、小劇場からミュージカル、歌舞伎まで、ジャンルにこだわらず、よい舞台を紹介していきたいと思っています。どうぞよろしくお願いいたします。