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長谷部浩の俳優論。

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歌舞伎は、その成り立ちからして俳優論に傾きますが、これからは現代演劇でも、演出論や戯曲論にくわえて、俳優についても語ってみようと思っています。
劇作家よりも演出家よりも、俳優に興味のある方へ。
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2022年5月の記事一覧

【劇評261】奇跡が、見えない壁を作ったのか? イキウメの『関数ドミノ』。

【劇評261】奇跡が、見えない壁を作ったのか? イキウメの『関数ドミノ』。

 老いや生のありかたについて、探求を続けてきた前川知大とイキウメが、代表作というべき『関数ドミノ』を上演した。再演から八年を隔てているが、この作品が持つ構造に導かれるように、一気に観て飽きなかった。

 二○○九年、一四年の上演は、前川による作・演出である。今回は、演出を一新し、台本にプロローグとエピローグが追加された。このふたつの場面は、安井順平が演じる真壁薫によるモノローグである。観客席にしみ

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【劇評260】私たちは何を守るべきか。アーサー・ミラー『みんな我が子』が突きつける問い。

【劇評260】私たちは何を守るべきか。アーサー・ミラー『みんな我が子』が突きつける問い。

 緊密な舞台である。
 リンゼイ・ボズナー演出、広田敦郎訳の『みんな我が子』は、一九四七年に初演されたアーサー・ミラーの戯曲の可能性を見事なまでに引き出している。
 戦争がいかに人間の尊厳を破壊し、家族のなかに深刻な対立をもたらすことか。戦時下では、よき人でありたいと願う宗教的な倫理が反作用のように動き出す。一方、自分の家族だけは豊かで幸福でいたいとする欲望もまた、頭をもたげる。倫理と欲望は、両立

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新マガジン「天下無双 漢 海老蔵」を立ち上げるにあたって

新マガジン「天下無双 漢 海老蔵」を立ち上げるにあたって

新しいマガジンを立ち上げる。紹介のために、以下のような文章を書いた。

市川海老蔵が、不当な非難を受けていることを、残念に思います。役者は舞台がすべてです。海老蔵について書いた劇評を集めました。野性、暴力性、破天荒が評価されてきた海老蔵に、市民社会の陳腐な常識を押しつけても、私は意味がないと思います。スキャンダルは、歌舞伎役者の勲章です。

 海老蔵についてスキャンダルめいた報道がなされている。

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