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肩甲胸郭関節における上方回旋

「挙上」は特別な動きの面に限らず能動的に上腕を頭上に持ち上げる動作を表します。上腕の挙上は3つのグループにより行われます。

1.肩甲上腕関節において上腕を挙上(屈曲あるいは外転)
2.肩甲胸郭関節において上方回旋
3.肩甲上腕関節において動的安定と関節包内運動

今回は、2.肩甲胸郭関節における上方回旋を解説します。


肩甲胸郭関節における上方回旋

肩甲骨の上方回旋は上腕の挙上に重要な役割を果たします。主な上方回旋筋は、前鋸筋、僧帽筋上部線維、僧帽筋下部線維です。

これらの筋が上方回旋を司り、肩甲骨に重要な回転調整をもたらします。また、これらの筋は三角筋や回旋筋腱板などの末梢の筋に安定した付着部(肩甲骨)を与えます。

僧帽筋と前鋸筋の相互作用

肩甲骨の上方回旋の回転軸は肩峰の近くで肩甲骨の前後方向に通ります。この軸は肩甲骨が上方回旋するための前鋸筋、僧帽筋上部線維と僧帽筋下部線維のあいだに起こるフォースカップルを分析するのに便利です。

フォースカップルは上腕骨の外転と同じ方向に肩甲骨を回転させます。このフォースカップル機構は3つの筋が同時に作用する仮説に基づいています。

前鋸筋

前鋸筋の下部の線維が肩甲骨下角を引っ張り、関節窩を上方なおかつ外向きに回転させます。この線維は上方回旋を生ずる長いモーメントアームにより、フォースカップルのなかで最も有効な上方回旋筋です。

僧帽筋

僧帽筋上部線維は鎖骨を上方内側に引っ張ることにより間接的に肩甲骨を上方回旋します。僧帽筋下部線維は肩甲棘根を下方内側に引っ張ることで肩甲骨を上方回旋します。

筋電図(EMG)分析によると、外転の全可動域で僧帽筋上部線維と僧帽筋下部線維は比較的高い活動を示します。

僧帽筋中部線維も肩関節外転中に活発に活動します。僧帽筋中部線維は肩甲骨の後退力に貢献します。菱形筋とともに前鋸筋による強力な前方突出を中和します。

前鋸筋と僧帽筋は主動作筋でもあり同時に拮抗筋でもあります。相乗的に上方回旋しますが、拮抗的にも作用し、それぞれの強力な前方突出と後退を部分的に制限します。

上方回旋筋の麻痺

前鋸筋の麻痺

前鋸筋が完全麻痺した場合は上肢を頭より上に挙上することが非常に難しくなります。肩を外転しようとすると、肩甲骨が強く下方回旋し限られた挙上しかできません。

肩甲骨が固定されないため、三角筋中部線維と棘上筋の収縮は肩甲骨に対して運動力学的に優位となり肩甲骨を下方回旋させます。

前鋸筋麻痺を観察すると、肩甲骨の明らかな下方回旋に加えて、わずかに前傾、内旋します。このような姿勢は「翼状肩甲」とよばれます。この姿勢が続くと小胸筋の短縮が起こり、肩甲骨の前傾と内旋を助長します。

僧帽筋の筋力低下

肩関節の外転において胸椎は10〜15°伸展します。僧帽筋の筋力低下は胸椎伸展の程度を減少させ、間接的に全体的な肩甲胸郭関節の運動を歪ませます。

それに加えて、僧帽筋下部線維と中部線維の筋力低下は肩甲骨の調整運動における制御の質を低下させる可能性があります。

僧帽筋だけに麻痺がある場合は腕を頭上に挙上することは困難になります。しかし、前鋸筋が比較的に強い力を有する場合には挙上動作が可能になります。この場合には、過度の前方突出がみられます。

前鋸筋だけで挙上を行った場合には、純粋な前額面上での上肢の挙上(外転)が難しくなります。この動作には僧帽筋の中部線維による強力な後退力を作用させなければならないからです。

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今回の記事は以上になります。

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