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「200字の書評」(350) 2023.9.10


こんにちは。

集く虫の音、空ゆく雲、日暮れの早さに秋を感じるようになりました。先の満月の夜スーパームーンを薄雲越しに見て、果てしなき宇宙の奥深さを感じております。日中の暑さと湿気には苦しめられますが、季節は移ろい行くものと思う今日この頃です。

さて、今回の書評は図書館関連です。


飯田一史「『若者の読書離れ』というウソ」平凡社新書 2023年

出版不況と書店の減少は、読書離れ現象の象徴として語られる。著者は各種統計を系統的に辿り、その社会的背景にも目を向ける。書籍離れではなく雑誌離れであること、携帯小説やライトノベルの盛衰も記す。朝読による小中学生の読書量増も高校生では低下する。大人と同様の傾向である。若者に読まれる本の「三大ニーズ」と「四つの型」の提起は鮮烈だ。図書館は従来のヤングアダルト分野への発想の転換が求められそうだ。


【長月雑感】

▼ 最高裁は沖縄の辺野古埋め立て工法の変更を不承認とした沖縄県の決定を覆し、国側の決定を正当化した。これは軟弱地盤が予定地内に発見され、現在の土木技術では施工不可能のはずであった。加えて軍事事情は激変して、基地機能自体不要ではないかとも言われている。いずれにしても米軍のために膨大な税金を費やし、沖縄県民の尊厳を踏みにじっている。許し難いのは、この基地建設に関連して、基地に反対する沖縄県側が提起した訴訟のすべてが県側の敗訴に終わっていることである。今回の最高裁の決定は裁判官5名全員一致だという。ここに見えるのは、司法が政府(行政)に同調し、国家権力の一員としての立場を露わにしたことであろう。三権分立が形骸化し、肥大する行政権力に拝跪しているのではないか。さらに言うなら、歴史的に引き続く琉球処分であり沖縄差別ではないのか。正義を問いたい。安保法制違憲訴訟の上告も棄却。最高裁よどこへゆく。

▼ また映画の話。前回の「社長たちの映画史」を紹介した中で、昔の映画館での出来事—月光仮面がオートバイで登場すると一斉に拍手が湧いた—を話した。すると読み手の友人から手紙が届いて、同様の出来事が伝えられた。彼の出身地札幌郊外の映画館での体験。片岡千恵蔵の「七つの顔の男」シリーズで多羅尾伴内と悪党が撃ち合いになり、そこに警官隊が到着すると全館に拍手が湧いた。その中に地元で有名なヤクザ者がいて、警官隊の登場に一緒に拍手していたという。何とも長閑な時代であった。

▼ またまた映画の話。DVDで「俺たちに明日はない」を観た。1930年代不況下のアメリカでの有名な強盗ボニーとクライドが主人公。随分昔観た映画で、細部は記憶の彼方で霧に消えていた。劇中で家と土地を奪われた農民が一家でオンボロ車に乗り、家を振り返りつつ去っていくシーンが印象的だった。旅の途中野宿中の農民達は、傷ついて逃走中の彼らをかばい食料も分け与える。あの時代の一面を投影している。土地を追われて西へ西へと流れゆく農民を主題にしたジョン・スタインベックの「怒りの葡萄」を思い浮かべた。「怒りの葡萄」は後に、ジョン・フォード監督ヘンリー・フォンダ主演で映画化されている。そしてもう一つの銀行強盗を主人公にした作品に「明日に向かって撃て」がある。ほぼ同時代のそれは、ボリビア迄逃げ延びながら官憲に包囲され銃弾に倒れる。その主題歌は秀逸、ロマンチックで口ずさみたくなり、映画自体もやや抒情的であった。淀川長治さんではないが「映画って本当に素晴らしい」。

▼ 高校生や福祉施設の給食が突如止まる。委託業者の経営難により全国的に食事ができない事態に、自衛隊や警察施設もあるとか。事前通告なしの無責任さ。これこそ民営化の弊害ではないのか。新自由主義下での官から民への転換の美名は、こんな事態を招いているのだよ。行政には「公」という使命があることを忘れてはならない。水道の民間委託も進められている。もし水が止まったら?消毒が不十分なら?どうする市民。

▼ ジャニーズ事務所の記者会見があった。まさに唾棄すべき事件。お粗末なやり取りに、底の浅さが垣間見える。この事件はジャニーズ側とメディアの合作犯罪劇であった。ジャーナリズムとは縁遠い人気タレントを報道番組の司会に据えたり、コメンテーター役を振ったり、ドラマの主役を任せたり。ビッグモーターと損保会社の癒着に通じるモラル欠如がそこにはある。


<今週の本棚>

原田ひ香「図書館のお夜食」ポプラ社 2023年

夜だけ開き、主に作家やゆかりの人物だけから託された蔵書だけで構成された図書館。館員は訳アリぞろいとくれば、それだけで何やら秘密の臭いがして、怪しさ全開。でも、提供される夜食は絶品、これまた訳アリの料理に舌鼓。最後に謎のオーナーの正体が明かされるが、ミステリーの香りはやや希薄。

斎藤淳子「シン・中国人」ちくま新書 2023年

キナ臭さの漂う日中関係。固定概念で中国とその人民を見てはいなかったか。経済力軍事力で覇権国アメリカを脅かし、戦狼外交と言われる強権的態度で他に臨む。強面大国のイメージが定着しているが、その内実は如何に?日本以上の少子化と格差、住宅事情、結婚観、進学と就職など驚くことばかり。北京在住26年のジャーナリストが引き出した人々の本音の中に潜む大国の苦悩とは。

黒川祐次「物語 ウクライナの歴史」中公新書 2002年

この戦争の深淵は何処にあるのだろうか。歴史を斜め読みしてみた。古来中東欧の平原で繰り広げられた王国、諸勢力の治乱興亡の歴史があった。島国日本とは違い、諸民族各部族などが抗争を繰り広げ、版図は常に書き換えられる。ウクライナには勇猛果敢なコサックが活躍していた。本格的に国家として自立したのはソ連崩壊後、苦難の歴史がそこにはあった。


★徘徊老人日誌★

8月某日 高麗川沿いの田んぼでは刈り入れが始まっていた。歩くたびに黄金の穂波が重く垂れてきたな、と思っていた。トラクターがエンジン音を響かせ、ゆっくりと動いている。この暑さで出来はどうだったのだろうか。おいしいコメは食べられると良いが。

8月某日 明日は母の命日、七回忌に当たる。本来なら釧路の墓前にお参りしたいがそれは無理、せめて仏壇に供えようと花を買いに行く。涼しさ自慢のあの街のホテルは満室の上に時期的に高額の料金設定。それは交通機関も同様。年内には行けるかな。

9月某日 昨夜来の降雨は本格的、空気が入れ替わり涼しさを運んでくれた。台風も接近中、備えよ常に。

9月某日 ゴミ集積所の掃除当番が回ってきた。大体2年に3回くらいの割合で回ってくる。担当は1週間。曜日によって出せるものが違うのだが、問題は燃やせるゴミの日。台所の生ゴミが主なのだが、カラスが狙っている。きちんとネットをかぶせておかねば袋を引き出して食い散らす。その整理に気を遣う。出す人は清掃する人のことを思うべきだが…。どうも指定外の通りがかりの人か他班の人が放り投げていくのでなかろうか、と疑っている当番のジイサンでした。


台風一過の後の澄んだ青空と爽やかさはお預け。それでも恋しかった秋風はそこまで来ています。もう少し頑張りましょう。

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