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#27 社会人編 〜タピオカという流行〜
私は正直流行に疎い。
もともと、そんなに流行りものに食いつくタイプではないし、気になったとしてもここでホイホイお金を支払い、
「しめたものだ、計画通り!」
と思われるのは嫌だった。つまり、誰かもわからない裏の人物を想像して、斜に構えていた方だったのだ。
そんな私も大人になるにつれて、流行っていうのはその時の人たちがいいと思うからはやるんだよなあ、少しは試してみるべきではなかろうか。
と齢20を超えて、ようやく流行に心を開き始めたのだった。
しかし生まれてからかれこれ数十年、流行と無縁に生きてきたのだから、その波にどう乗ったら良いのかがさっぱりわからない。
サーファーだってそうだろう。
初めて海に行ってサーフボードを渡され、
「さあ、早速波に乗ってみよう!」
と言われても、海パン一丁で立ち尽くすのが先の山である。
もしかしたらセンスのいいお兄ちゃん達は、ガンガン波に乗っていくのかもしれないが、少なくとも私は立ち尽くすタイプだ。
これは指南してくれる師匠を探さねばなるまい。
と、数年前のある日友人に頼み、当時の流行りとやらを聞いてみた。
「流行りって言われてもなあ…別に教えてもらうようなことでもないし。」
とこれまた真っ当な返しをされてしまう。
「いや、でもこのままじゃ波に乗れないまま大人になっちゃうじゃん。どんなのでもいいからさ、頼むよ。」
と、私もそこそこ食い下がって頼み込む。流行とは教えてもらうものではないだろうが、これくらい出ないと私はダメなのだ。
「んー、じゃあタピオカでも飲みに行ったらいいんじゃない?ちょうど専門店できてたし。」
とまさかのカウンターが返ってきた。
タピオカとは、あの黒くてぷよぷよした何かが入っている飲み物的なものではないか。
なんておしゃれフードを紹介するんだ、友人は。これは波にろくに乗ったことのないサーファーに、湘南でやってきなよと誘っているようなもんではないだろうか。
多分実際のところは違うと思うが、私にとってはそれくらい脅威なのだ。
自分から頼んでおいて失礼極まりないが、レベルが高い。
「いやー、それはちょっと流行レベル高くない?」
「…流行レベルってなんだよ。別に店に行って注文してくるだけじゃん。」
「それがレベルが高いんだよ…それじゃあさ、一緒に行かない?」
「え、なんで男二人でタピオカなんて買いに行かなきゃならないのさ。一人で行けよ。」
「いや、ほらそこは○○の方が流行レベルが高いから。」
「だから流行レベルってなんだよ…まあ、いいけどさ。」
…とすったもんだを経て、ついに私はタピオカデビューとなったのだ。
これで、私のついに流行の一端を担えると思うと、少しは今までの苦労が報われるような気がした。苦労をしていたのは、主に付き合わされる友人なのだが。
そうして、タピオカ専門店まできた私達、というは私は驚愕する。
行列がなんと店からそこそこ伸びているじゃないか。それだけでも流行を感じて気遅れしかけたが、さらに並んでいる人たちは、
中学生、高校生、カップル
である。
さすが流行の最先端、そう簡単に新参者を受け入れるようにはできていないのだ。
ちなみにその間友人は、
「だから、男二人はいやだって言ったじゃんか。」
とうつろな目でぼやいている。
確かに、この感じはすごく気がひける。でもここで流行を知るのも経験だ!と、謎のやる気で私達は列に並ぶことにしたのだった。
時間にするとそこまでじゃなかったと思う。10分かそれくらいだったはずだ。しかし、中学生と高校生とカップルにサンドイッチされた私達はその間、修行僧のように悟りを開くべくひたすら心を無にするしかなかった。
…流行とは恐ろしい。
そうして、ようやく注文できるようになって私が選んだのはこれまた噂のタピオカミルクティーだった。友人はもう少しおしゃれなものを頼んでいるようだが、私と彼の流行レベルはかなりの差があるので仕方ない。
結果からいえば、タピオカ自体は美味しかった。専門店というだけあって、なるほどなあ、確かにおいしいなという感じだった。
でも、これで流行の何が得られたかというと難しい。
強いていうと、流行を楽しめる世代というのは限られていることと、タピオカ店の行列に並ぶには忍耐力がいると、分かったことだろうか。
サーフィンをしたことがない人間が波に乗ろうとすると疲れるだけで終わるのと同様に、流行に乗ったことのない私がタピオカを飲もうとしても、場違い感で疲れるだけなのだと痛感した。
なぜ、始終サーフィンを例えていたのかは自分にもわからない。
ただ、波も流行もまずは自分が変わろうと思わないとダメなのだろう。そこまで変われない私は、元の穏やかな生活に戻っていくのだった。
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