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三都メリー物語

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神戸、大阪、京都を背景に男女の人間模様を描いてみました。
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#長編小説

三都メリー物語①

三都メリー物語①

 女子大学の校門を出ると、どんよりした空の下、川田レイは駅の方へ向かった。
冷たい風が吹き、楓の葉がカラカラと音をたてながら道の端に舞っている。ほんの少し傾斜の下り坂を歩いていると、
少し道がカーブしたとことに壁一面にライブの予定やグループ名とチケット代が書かれて貼られている。ロッジ風の建物のライブハウスの横をレイは通る。     気にはなっているが、店には入ったことがない。小心もののレイが一人で

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三都メリー物語③

 車が行き交う道路を挟んで商店街が並んでいる。電車に乗る前はどんよりしていたのに、ここに着くと晴れ間が広がっていた。平日だというのに人通りが多い。
 やはり京都ということもあってこの時期紅葉を楽しむ観光客で賑わっている。人を避けながら商店街に沿うように歩いた。時々藤岡准教授は、レイを気にかけるように後ろを振り返る。
 レイは人にぶつかりそうになるたびに藤岡准教授の腕をつかんだ。風があるが、歩いてい

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『三都メリー物語』⑤

日が暮れてしまうと11月でもやけに冷える。電車の中にいても扉からの隙間風で、そう感じる。座席に座っていると足下だけがやけに暖かくて電車の小さな揺れが眠気を誘う。
藤岡准教授は、東向日という駅で降りた。四条河原町の駅のホームで藤岡准教授は、なぜ私を抱きしめたのだろうか?
奥さんに離婚しましょうと言われて寂しかったのだろうか?  抱きしめたかったのは誰でも良かったのだろうか?
それとも、私だから

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『三都メリー物語』⑭

日曜日の朝、レイが目を覚ますと、既に藤岡准教授は起きていた。朝食を作っているのだろう、食器の合わさる音やフライパンで何かを炒めている音がする。
窓からレースのカーテンに明るい日差しがあたっている。
しかし、ロッカーに稲垣さんが迷惑しているといった手紙を置いたのは、いったい誰なんだろう。その日は何もなかったようにレイは振る舞った。けれど手紙を置いた人が実際いるのだ。仕事をしていても誰かと話をして

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『三都メリー物語』⑰

走行中の車のフロントガラスに幾つかの雪が落ちては溶けた。仕事を終えたレイは、スーパーに寄った後、自宅アパートに帰るところだった。
アパートの駐車場に車を止めて降りると、冷たく刺すような風が肌に感じた。仕事に疲れた身体にはこの冷たい風がなおさら堪えるとレイは思う。袋に入った買い物の材料を抱え、自宅アパートの扉の鍵を解錠し扉を開けて中に入った。
灯りのない冷たい奥内は、閑散としていた。そこは、2D

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