見出し画像

旅の道しるべにしたい一冊と出会えた夜

台風の影響でネットが使えない間、積読していた書籍を幾つか読了した。
今日はその中の一つ、吉本ばななさんの作品をご紹介したい。

私にとって吉本ばななさんの作品がいかに大切な存在かは、以前もこちらの記事に想いをしたためたことがある。

私という人間の輪郭の一部は、間違いなく吉本ばななさんの作品を読み込んできた原体験からできている。大好きな「キッチン」や「ハゴロモ」、「TUGUMI」、「スナックちどり」、「デッドエンドの思い出」、ちびがお腹の中にいる時に読んだ作品「イルカ」も、とても思い出深い。
そして今回読み終えたこちらの作品も、私にとってかけがえのない1冊となった。

「人生の旅をゆく3」吉本ばなな作
いくつかの短いお話をぎゅっと詰め込んだ優しいエッセイ。作者である吉本ばななさんは、あとがきでこう書かれている。

この本を手にとってくださったみなさんが心疲れたとき、ちょっと憩えるようなスペースをこの本が作れていますように。

このあとがきを読んだとき、じんわりと心が温かくなった。なんて優しい気持ちで文章を描ける人なんだろう。いつか大好きなnoterさんも言っていたように、やはり温度のある文章に対しては「書く」より「描く」の方がしっくりくる。こういう気持ちで書いたであろうことがすっと沁み込んでくるような、優しいエッセイだった。

素敵な表現があちこちに散りばめられていて全部紹介したい気持ちに駆られるけれど、やはり出来れば直接この作品に触れて欲しいから、特に強く心に残った部分をご紹介させて頂きたい。


「そんな人だから」
この題名から始まるたった4ページの文章に込められた想いに、ひたすらに胸が詰まった。作者が大切なお友だちを亡くして、その方のことを思い出しながら書いたもの。その方はがんと闘病しており、余命宣告をされるほどに状況は厳しかった。それでもその女性は、いつも前を向いていた。

ずっと明るくふるまい、ちゃんとごはんを食べ、常に生きる方向を向いていた。

吉本ばななさんは、そう記している。
そんなお友だちとの時間を過ごしている最中、作者がお子さんの水疱瘡に感染してしまう。水疱瘡というのは大人になってから感染した場合、本当に大変なことになる。私自身は経験がないが、友人がそれで死にそうなほど苦しんでいるところを目の当たりにしたことがあった。40度もの高熱が数日続き、水疱は強い痒みと痛みを伴う。作者がどうにかそこから体調を持ち直して久方ぶりにそのお友だちに会ったときのこと。

彼女は私を見るなりほんとうに心配そうな顔で「たいへんでしたね!」と言った。
私は彼女ががんだと聞いてから、一度だってあんなふうに、心から心配だということが伝わってくる優しい声を出せただろうか?
私だったら、水疱瘡でよれよれのだれかが、がんを経験した自分のところにやってきたとしても「自分のほうがよっぽどたいへんだったよ」とどこかで思ってしまうのではないだろうか?

自分が満たされている時に人を思いやることは、さほど難しいことではない。でも、自分が困難にぶつかっているとき。苦しみの真っただ中にいるとき。変わらず人にこんなふうに優しさが伝わる温度の声を出すことは、多分とても大変なことだ。こういうのは、やろうと思ってできることではない。自然と滲み出るものなんだと思う。のちに続く作者の言葉からも、それをうかがい知ることが出来る。

そんな優しい人だからこそ、病気になるまでいろいろがんばってしまったのかもしれない。
でも、私はそういう人に「がんばらなくってよかったんだ」とはやっぱり言えない。その笑顔は、人に評価されるためにではなく自分との闘いに勝った人のものだったからだ。


“「がんばらなくってよかったんだ」とはやっぱり言えない。”

この一文を読んだ瞬間、涙がぽろぽろと流れた。そうだよな、と思った。こういう人は、良く思われたくてがんばっていたわけでは決してないのだから。「がんばる」という意識すら、もしかしたらなかったのかもしれない。私も何人か知っている。こういう、底抜けに優しい人を。その人の周りはいつもとても温かくて、日溜まりのようで、たんぽぽの花がよく似合うような色の空気をまとっている。

そして思った。やはり吉本ばななさんは、とても優しいかたなのだと。人の優しさを真っすぐに受け取れる人は、間違いなく優しい人だ。その温もりに感謝して、幸せを感じることができる。時にはそれで切なくなったりもする。そういう感受性を持った人が、優しくないわけがないのだ。だからこそ、こんな文章が描けるのだろう。お友だちがくれた、たった一言。その時に感じた想いを、こんなにも大切にそっと書き残すことが出来るのだろう。

私もだれかにああいうふうでありたいなと思う。

文末のその言葉を、きっと天国にいるお友だちも笑顔で読んでいることだろう。


あとがきまで含めて334ページ。その中のどのお話も、さりげない優しさがたくさん散りばめられている。綺麗ごとだけではない。でもきっと、そこも含めて綺麗で在りたいと願っている人なのだろうと思わせられる作品だった。ご自身のご両親との死別。喪失と再生。家族への溢れんばかりの想い。吉本ばななさんにしか書けない文章で彩られた、美しいエッセイだった。


この作品の中で、私が最も心に残った一文を最後に記しておきたい。

なにかを創る人生って、自分も含めてたいへんだしお金にも苦労するし特にかっこいいものでもなんでもない、でもやっぱり最高だな…静かにそう思った。


想いを込めて大切になにかを創る。それがこんなふうに、人の身体と心の隅々まで綺麗にしてくれるような作品として、たくさんの人に愛される。それはとても尊いことで、確かに、「最高だな」の一言に尽きるのだろう。

私も、そんなふうに思えるものを創りたい。そんなふうに思ってもらえるものを描きたい。
まん丸に膨らんだ綺麗な月を眺めながら、静かにそう思った。


「人生の旅をゆく3」吉本ばなな作。本文より、一部引用させて頂きました。

この記事が参加している募集

推薦図書

この記事が気に入ったら、サポートをしてみませんか?
気軽にクリエイターの支援と、記事のオススメができます!
note.user.nickname || note.user.urlname

最後まで読んで頂き、本当にありがとうございます。 頂いたサポートは、今後の作品作りの為に使わせて頂きます。 私の作品が少しでもあなたの心に痕を残してくれたなら、こんなにも嬉しいことはありません。

「庭」のブックカバーで、春の装いを楽しんでみませんか?
193
書くことは呼吸をすること。 cotreeアンバサダー。エッセイは育児中心。小説はフィクションとノンフィクションの融合。 *磨け感情解像度コンテスト『佳作』入賞。 自身の原体験を元に虐待抑止の発信を執筆中。 プロフ写真のブックカバーは心象風景Koji。 「書く仕事」を募集中です。

こちらでもピックアップされています

推薦図書館
推薦図書館
  • 10本

心から、読んで欲しい。 そう思える作品たちを、紹介していきます。 本と人は、出会いです。そこには必ず意味があります。

コメント (8)
akikonさん、ありがとうございます🍀
もう、ぜひ!妊娠中にこそ読んで欲しい一冊です✨
じんわり心があったまりますよ~。(*´-`)
おもちさん、ありがとうございます🍀
ぜひぜひ!
エッセイも素敵な作品がたくさんありますよ~✌(*´∇`*)
はるさんの文章を読んで、自分も吉本ばななを読んでみたくなりました。(^^)
tagoさん、ありがとうございます🍀
ぜひぜひ!
読んでみてください♪(*´∇`*)✨
コメントを投稿するには、 ログイン または 会員登録 をする必要があります。