フリーランス2年目。働き方とお金と自信の話。②
〈はじめに②〉
前回の①では働き方についてざっくりと書いたが、今回は仕事のギャラにまつわる話で、これまでを振り返って思ったことを率直にまとめた。駆け出しで格安の仕事ばかり受けていてモヤモヤが募った時に起こしたアクションについても、具体的に書いていく。
〈働いた対価としてのお金の大切さ。〉
フリーランス1年目は、スケジュールが空くのが怖くて、来た仕事はすべて受けていた。一日中机にかじりついて、平日も土日も関係なく働きどおしなのに、ギャラは駆け出し価格で格安なことが多かった。次第に、仕事にかかる労力と収入のアンバランスさにモヤモヤが募っていき、秋を迎える頃には身も心も疲れ切ってしまった。
せっかくやりたいと思えることを見つけられて、行動を起こして、その世界に足を踏み入れることができたのに、これではとてもじゃないが仕事として続けられない。それは嫌だった。だから自分の安売りはやめようと決意した。プライドを持って好きな仕事を続けるには、「やりがい搾取だ!」と叫びたくなるような金額で受け続けてはいけないと思った。たとえ業界的にはまだまだ駆け出しでも、だ。
というのも、格安の仕事が大半を占めるものの、まれに単価のいい仕事の打診が来ることがあり、そこにわずかな希望を見いだせたという点がある。当時は格安の仕事で予定を埋めてしまっていたためにそのチャンスを逃すことが多かったが、スケジュールに余白があればつかめるチャンスがあると思えた。
だから「駆け出し期間」は1年できっぱりやめようと自分で決めた。2年目からは、格安の仕事は一切受けない。いつまでも安い単価で受けていたら「安く使える人」を抜け出せるのは当分先になるか、永遠に抜け出せないのではないかと思い始めたからだ。翻訳の依頼が来なくなるかもしれないという不安もあったが、それで終わるならそれまでのことだと吹っ切れるぐらいには消耗していた。
そう考えてまずしたことが「保険」の準備だ。収入源が翻訳1本だから「条件が悪くても何も仕事がないよりは…」という思考回路になって受けてしまうのだと思い、CC字幕制作の複業を始めた。翻訳に専念したくてフリーになったのに矛盾してるなと自分でも思ったが、実際に何かをする前としてみた後で自分の考えが変わっていくのは当然だ。字幕翻訳業界のはじっこで約半年間、集中的にもがき続けて息苦しさを感じ、少し違う世界にも顔を出して息をしたくなったのだ。それにCC字幕の複業なら、いろんな面で字幕翻訳の仕事にもプラスに活かせるはずだという狙いもあった。
この時、むやみに翻訳の取引先を増やすのではなく、思い切って舵を切り二足のわらじを履くという判断をしたことが精神面でも収入面でも功を奏したと思う。何事も、1つの世界だけをじっと見続けているより、少しでも広い視野があったほうがいいのは間違いない。「これしかない」という熱い思い込みが必要な時もあるが、「これしかないわけじゃない」と冷静に俯瞰できる余裕が必要な時もある。過去の自分に縛られる必要もないし、今の自分に縛られる必要もない。自分の中の変化や矛盾をありのままにポジティブに捉え、自由に自分の可能性を広げていければいいのだ。
こうしてフリーランス1年目の秋には複業を始め、2足のわらじ生活になった。今年に入ってからは、決意したとおり格安の翻訳は受けていない。初めて「この作業内容に対してこの金額では厳しい」ときっぱり断った時は少し緊張したが、複業のおかげで収入を心配しなくていいという安心感はやはり大きかった。そして翻訳の仕事が来なくなるのでは…という懸念は今のところ杞憂で済んでいる。結果的に、今までより単価のいい翻訳の仕事をコンスタントに受けられるようになったのだ。これは本当にうれしい。
スケジュールに余白があればつかめるチャンスがあるはずだと信じて身軽になったら、そのとおりになった。「格安お断り」を自分で決意し、先方にも表明することで、確実に流れが変わったと思う。あくまでも今の時点では、であるが。
「好きなことができるんだから安くても頑張る」とか「単価は低いけど経験になるから何でもやる」という考え方は、私には1年ももたなかった。やはり適切な金額をもらえないとモチベーションも下がるし、何より「この仕事をしている」と胸を張って言えない。時間とお金をかけて専門知識を学び、目に見えない技術を総動員して仕事に臨んでいるのに、その対価として受け取るお金が安すぎてはいけないと、ある種の危機感をもって思うようになった。
フリーランスになりたての頃は経験を積みたい気持ちが大きくてそういう感覚がマヒしていたが、働いた対価としての「お金の大切さ」に気づく瞬間が必ず来る。そういう自分の感覚の変化を見逃さないことが何より大切だと思う。これからも、何かを感じて、その思いが膨らんだら、よく考えて、タイミングを見誤らずに行動に移していこう。
(③に続きます。次は「自信」についてのお話です。)
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