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細くてごつごつとした指を持っていた人の記憶。

題名だけで終わりにしてしまおうか。そう思うほど、かの方を言葉で表現することは難しい。何故なら、その人は文芸評論家であるからだ。その人柄を私の文章などで表現できるはずがない。そう思いつつ、今この記事を書いている。

私のnoteでも、その欠片は幾度か綴った。筆名の由来などでは、それなりの逸話も書いた。今回出会ったお題「忘れられない先生」を前に、一度あの先生を一記事通して表現してみようと、拙い筆を奮い立たせることにした次第である。

出逢いは、所属していた短歌同人誌(『弓弦』ゆづる発足時に遡る。発足メンバーと、同人誌のオブザーバーを引き受けられた(代表が愛弟子)先生との顔合わせ。開口一番、師はこんな言葉を私に告げた。

「よい作品、詩を寄せてくれてありがとう」

そして、両手を差し出したのだ。
握手、シェイクハンドは通常片手で行うものだ(少なくとも私にとっては)。初対面、それも重厚な表紙や背表紙に刻まれた名前、新聞の文芸欄で見かける氏名、その高名な方と両手で握手をする。いいのか?私で。私がそうしていいのだろうかと一瞬躊躇しつつ、私は師の両手を取った。

師の尊顔は、想像していたものとは違い柔らかな笑みを湛えていた。思い上がりを恥じつつ記せば、私というメンバーが同人誌にあることを喜び、言祝ぐものだった。細い指は想像以上に力強く私の五指十指を握りしめていた。

あの感触、温もりと力強さ。30年以上の時が流れ、時代が平成から令和へと変わった今も、それは鮮明に記憶と手の中に刻まれている。


師は皆と歓談することが好きだった。メンバー全てが酒に強いわけではないが、皆で気さくに話し合う場は楽しいもので(それが目当てで会合に出席するのだ、本番は飲み会。そんな戯言を話したものだ)、月一は居酒屋で飲み食いしつつ語り合った。師も時間が許せば、その輪に加わり歓談を楽しまれていた。

ある日の飲み会、居酒屋で。師、いや先生と呼び直そう、先生がポツリと呟いた。

「つまみ、何食ったらいいかな……。春永さん、何が食べたい?」

先生も食うって言うんだ。

私は莫迦なことを考えつつ(男性だから「食う」は普通に使うだろう私よ💦)、その問いに答えた。

「そうですね……。時間もそれなりに遅くなりましたし、消化の良いもので、脂質が低くタンパク質が採れるものがいいかな、と。先生は豆腐、お嫌いではないですよね?」

「豆腐か……。豆腐はいい。豆腐にしよう。店員さん、ちょっといいですか?」

何かを決めるとき、他者からの提案を取り入れるとき、先生はよく「三段論法」のように要素を3度積み重ねる話し方をされた。この時も、その例に漏れず豆腐の良さを確認証明してから、居酒屋の店員をテーブルまで呼んだ。決めたら即実行な人、飲み会でもそれは変わらない。

そこでオーダーした、にがりを入れてその場で固めるおぼろ豆腐が(着火剤の火力が弱くて)中々固まらず、店員さんが焦り始めるなど(客が上客であることを接客業のカンで見抜き、拙いと思ったらしい)、わずかなトラブルはあったが、「大丈夫、固まりはじめている。このまま食べるから取り替えなくてもいいですよ」と先生が笑ってことを収めるなど、私たちは笑いながら、ひとつの鍋から柔らかい豆腐を突き合った。

あのおぼろ豆腐は、普通の味だったはずだ。それよりずっと高級なものを、あれから幾つも食べる機会があった。けれど、あの豆腐が1番美味しかったですよ、先生。あなたはどうでしたか?美味しかったのなら、嬉しいのですが。


口癖が今も1番好きなのだ私の心に刻まれたから /春永睦月



ヘッダーは文学者っぽいものにはしたくなかったので、文学者風画像は末尾にて。MicrosoftCopilotによるAIアートです。

今は、あなたに豆腐の感想を求める術はありません。いつか叶うならば、その時は端麗酒を一献ご一緒ください。時間を気にせずともよい、その地にて又。


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