【さがたび DAY1】古伊万里はじまりの川

「雲が落ちてる」
岐阜県の上空を飛んでいるとき、不思議な感覚を覚えた。
飛行機であれば雲の上を飛ぶのは当たり前だけど、私が見たのは、まるで地面に落ちているようなそれ。
山のてっぺんも見えているほど、低い低い雲。
3列席の真ん中から身を乗り出して、しばらくその奇妙な光景を見ていた。雲ほどいろんな表情がある自然現象もないのではないか。

焼きものとくらす街、伊万里

福岡空港から高速バスで伊万里に向かいながら、はっきりと(どこかそう感じる、どころではない)懐かしさのある田舎の風景を眺めていた。

でも、街歩きをしてすぐに気づいたことが一つ。
伊万里が私の実家や他ののどかな街と違うのは、いたるところに焼きものが潜んでいること。

道端にも橋の入り口にも陶器のオブジェがあるし、
時計も、案内の看板も、ホテルの大浴場まで。
一番驚いたのは、歩道に陶器の破片が埋め込まれていること。
埋め込まれてるというかもはや普通にじゃりじゃりするもんだから、自転車(ホテルで貸してくれた)で走りながら、「そのうち勢いよく顔に跳ね飛んでくるんじゃないか」とひやひやした。

私は旅行の前、かなりの時間を費やして、綿密に計画を練る方だけど、その必要はなかったなということがあった。
それは、食事処で出てくる食器。
どうせだから伊万里焼で食べたいと思って旅行ガイド本を持ってきたけど、結局どこで食べても、ごくごく当たり前に、普段私がハハーーーッ(平伏す)となる器がでてきてしまう。

「生活のための器」ということを思い出す。ここでは何も特別なものじゃないんだな。
今年初めての新米を、青磁の器でいただいた。特別美味しかったように思う。

ちなみにテーブルの上には、三段の入れ物。お砂糖かと思ってたけど、開けたら漬物が!
なんておしゃれなんだ。そういえばここは漬物やさんだったな。

伊万里では空き家などのリノベーションをしたおしゃれなお店が目立つ。
古い木枠から差し込む光が、とてものんびりしてる。

ここは商人の街

「伊万里ならギャラリーがわんさかあって全部回りきれないくらいだろう」
そんな思い込みはすぐに覆されることとなる。

伊万里駅に、「MADE IN IMARI」を発信するお店がある。
オーナーらしき人に、そう思っていたことを伝えると、“ですよねー”というニュアンスの表情のあと「ここ、焼きものを県外に運ぶ商人がたくさんいた街なんですよ」と続いた。

「古伊万里」というのは、海なし地域の有田でつくられた器を、海あり地域の伊万里に運んで、長崎から海外に輸出したもののことをいうらしい。
明日行く大川内山は焼きものをつくるためのエリアだけど、山の下の伊万里では作ってなかったんだ。

どうしよう、やることがないぞ。
顔に出やすい私に、オーナーが地図を片手に教えてくれる。

「すぐそこの伊万里川は、最も河口の方なんです。あそこから焼きものを長崎に運んでいた。もう少しすると夕焼けがすごくきれいです。」
有田や伊万里の焼きものが、世界に出ていった道を見てみたい。
川沿いにコーヒー屋さんがあるから、夕日を見ながら…っていうのもいいですよ という一言にも惹かれ、さっそく自転車を走らせた。

はじまりの川

川より先に、もう一箇所勧められていた伊万里神社へ向かう。
平日夕方の神社はひっそりとしていて、虫やトンビの声しかしない。
旅をするときは、できるだけ一日目に神社に行って、「この旅でいいご縁がありますように」と手を合わせるのが習慣。
御朱印帳を忘れたのが本当に本当に惜しいと思った。

コーヒー屋さんを目指し、川沿いを走る。
胸が広々する、という表現があるのかはわからないけど、川やすすきのざわめく音とか、金木犀の香りとか、色々な自然が豊かに広がっていて気持ちが良かった。

夕日が反射する水面を見ていて私は驚く。

彩雲というものを、初めてみた。
神社でお参りした直後なこともあって、これは幸先がいいと感動せずにはいられない。
(本当は川にも虹色が写ってる縦の写真なのに、noteは縦写真入らないなんてそんなまさか)

コーヒー屋さんに着き、先へ続く川を眺める。
シルクロードならぬ器ロード。ここから出ていった船たちにしばらく想いを馳せた。

ケーズデンキはうまいこと隠して撮った。

ここに書ききれなかったことも含め、たくさんの人と話して、たくさんのようこそと、いってらっしゃいと、気をつけてのことばを貰って、幸せな気持ちになった伊万里での時間。

彩雲と出会った川の街から、私の旅もはじまっていく。

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