短編小説:正直者はだませない
女子中学生のちょっと切ない話。約2300文字。
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その日の朝、あたしが現れるなり教室の空気が変わった。
いつもだったら聞こえてくる、同じグループの子たちの「おはよー」ってあいさつは一つもない。ので、あたしもだれにも声をかけないで自分の席についた。
ま、シカトされるのは予想どおりだったけど?
気にしてませんって感じであたしは読みかけの文庫本をとりだしてひらく。そんなあたしをいかにも無視してますって感じで、グループの子たちのおしゃべりはわざとらしいくらい盛りあがる。
ひらいた文庫本のページを見つめても文字は全然頭に入らない。でも、それに気づかれたくはない。読めてないページをあたしはだまってめくってく。
……やっちゃったなぁ。
女子の世界は面倒だしシビアだってこと、わかってたはずなのに忘れてた。
あたしの話を聞いたカケルはこうこたえる。
「それはムツミが悪いっしょ」
そしてカラカラ笑うのだ。カケルはそういうヤツだ。
クラスの同じグループの女子たちから今日一日シカトされた。平気だって思おうとしても、やっぱりそれなりにヘコむ。
「……あたしだって、悪口言うつもりじゃなかったし」
昨日の放課後のことだ。
教室に残ってたあたしたちのグループは、カコちゃんが新しく買ったという髪どめを見ていた。
みんなが口々に「かわいい」ってカコちゃんをほめてて、あたしもそれにつづいた。
——カコちゃん、おばあちゃんみたい。
髪どめは千代紙みたいな和柄で、おっとりしててふんわりした雰囲気のカコちゃんによく似合ってた。あたしはそのふんわり感に、小柄でかわいくていつもやさしい自分のおばあちゃんを思いだした。
そう、悪気はなかった。あたしはおばあちゃんが大好きなのだ。
けど直後、場の空気が変わった。
——なんでそんなヒドいこと言うの?
強い口調であたしにそう言って、ナナはショックを受けたような顔のカコちゃんをぎゅっとした。ナナはあたしたちのグループを何かとしきるリーダータイプだ。
こうしてみんなから責めるような視線をむけられ、ニブいあたしははじめて自分の失敗に気づかされた。
あたしは何も言えなくなっちゃって、結果、みんなはあたしを置いて教室をでていった。そして翌日の今日、シカトされたというわけである。
「女子ってめんどくさい」
男子のカケルにグチったところで意味ないって思いつつ、でもグチらずにはいられない。
昔から女子のグループが苦手だった。
かわいくもなんともなくても、「かわいい」ってなんでもかんでもほめなきゃいけないし、行きたくなくてもトイレはみんなと一緒に行かなきゃいけないし。
でも、一人だと学校って場所はとっても生きづらい。
小学生時代、自分に正直だったあたしには友だちって呼べるだれかは一人もいなかった。修学旅行とか運動会のグループ決めだと、いつも最後まであまってた。
——もうちょっとうまくやればいいのに。
そんなあたしに、同じマンションに住んでる幼なじみのカケルはいつも偉そうにアドバイスしてきた。
——「かわいい」って思ってないのに言いたくない。
正直者のあたしがそう言うとカケルはこたえた。
——ウソつけって言ってるわけじゃないし。少しだけみんなにあわせれば?
カケルのその言葉を胸に、中学生になってからあたしは努力した。
ウソはつかず、「かわいい」って思えなくても、少しでもいいって思えるところを探すようにした。「かわいい」のかわりに「その色いいね」って言ってみる。
そんな風にしてたら、ちょっとずつ女子のグループにもなじめるようになって、学校で息をするのが少し楽になった。
あたしはいつだって正直でいたいけど、だからって周りを拒絶することはないんだってようやく理解した。
こうして二年生になってからもグループではうまくやれてた。だからちょっと油断してたのかもしれない。
「ムツミは、べつにその子のことキラいなわけじゃないんでしょ?」
いかにもカケルが言いそうな言葉。カケルはいつだってあたしよりも物ごとをわかったような顔をする。
「だったら、正直にそう言って謝れば?」
そして、あたしはカケルの「正直に」って言葉に弱い。
次の日、学校に行ったあたしは朝一番にカコちゃんに謝った。
「大好きなおばあちゃんみたいにやさしい雰囲気だったって言いたかったの」
そう正直に話したらカコちゃんは許してくれて、そんなあたしたちを見てたナナも許してくれた。シカトはおしまい。
かんたんなことだったし、ちゃんと謝れてよかった。
謝れないままなのは、正直でいられないことよりもイヤだと思う。
小六の、十二月のある日だった。
クラスの女子たちがクリスマス会を企画してて、当然のようにあたしは誘ってもらえなかったときのこと。
べつにいいし、って強がったあたしに、カケルはいつもみたいにアドバイスした。
——行きたいなら正直に言えばいいのに。
クラスでぷかぷか浮いてばかりのあたしをカケルは何かと心配してて、同い年のくせに保護者みたいなことをよく言ってきた。
そして、そのときはそれが無性に腹立たしかった。
——ほっといてよ! カケルのバカ!
それがカケルとかわした最後の言葉になった。
カケルが交通事故にあうってわかってたら、あんなこと絶対言わなかった。
うっとうしいこともあったけど、カケルが心配してくれるから一人じゃないって思えてホッとすることもあったって、正直に言えばよかった。
でもそんなこと、神さまじゃなきゃわからない。
あたしは心のなかのカケルに「カコちゃんと仲なおりしたよ」って報告して、それからあの日のことを何度でもカケルにも謝る。
心のなかのカケルはいつもあたしを許してくれる。
けど、あたしはいつだってそれがホンモノじゃないってことを自分に言いきかせてしまう。ウソはつけない正直者だから。
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わりとハッピーエンドとか爽やか系のENDのお話を書きがちなので、ちょっと違うのもたまにはという感じで。
学生時代の女子のグループってホントしんどい記憶が多い。そして処世術を学び人は大人になっていくのか。
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