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魚のふりをして生きている

たとえば水の中で、生まれた時から一緒に暮らしていく仲間たちは魚ばっかりで。
ひれを使って泳ぐことを覚え、エラを使って呼吸をする。
どうやらみんなそれができているらしい。
僕はいつまでも上手くできない。ひれの代わりになんか細長く伸びた棒切れみたいなのが身体の四隅についてるし、目の向こう側に鰓らしき切れ込みもない。
身体をばたつかせて必死で泳ぎ、何でもないふりをしながらサメに食われないように群れについていく。
それでもどうしても苦しいから時折仲間の目を盗んで水面に上がって顔を出し、口を開けて息をする。
まあ、迂闊に水面に顔を出すと鳥に食われる。

生きていくということに、そういう息苦しさがある。
この魚世界には、手足を使って泳ぎ肺呼吸をする個体がいることもきちんと学校で教えているし、そういう個体のために定めたルールもある。

でも自分が魚ではないのだと気づいてなかったら?
どうしてこんなに自分は泳ぐのが下手なのだろう、呼吸ができないんだろう、とずっと困惑していた。

別に「魚ではない個体はえら呼吸ができなくてこんなにつらいので、みんな魚ではない個体についてもっと学びましょうね」などとやってほしいわけじゃない。
自分が魚ではないと気づいてからも、ずっと魚のルールで生きている。魚ではないことを隠しながら。ゆっくり泳ぎながら、群れの後ろのほうでたまにそっと水面に顔を出して。
だってこの世界で暮らしていく以上、絶対に息苦しいのだ。魚たちがどれほど気を遣ってくれても、自分が魚たちと同じようにひれで泳いでえら呼吸ができるようになる日は来ない。

魚として、生活してきたのだ。そうではないルールで生活するのは、自分にとっては不自然なことだ。
発達障害であるとか、トランスジェンダーであるとか、関係なく。

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