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Flora of Scotland: ハリエニシダにまつわるいろいろ

Scientific name: Ulex europaeus 
Common name: Common Gorse, Furze
Family: Fabaceae マメ科

輝く濃厚な黄色が広がる景色は、私の中で最もスコットランドらしいランドスケープのひとつです。この一面に広がる黄色はマメ科の常緑低木ハリエニシダ (Ulex europaeus) の無数な小さな花です。ほぼ一年を通して花を咲かせますが、春から初夏が花の最盛期で、ちょうどいま外では黄色の雲のようにもくもくとした連なりを、あちこちで見ることができます。エジンバラでは黄色に覆われたアーサーズシートが印象的ですが、ここ南西スコットランドのでは海岸沿いにたくさんのハリエニシダ がコロニーをつくっています。 

色は主観的なものですが、この黄色をたとえるならば、Colman'sのイングリッシュマスタードぐらい彩度が高くて、キラリとした感じは溶かしたバターのよう。まさにぴったりくるのは数年前に私がはまりにはまった、Chanel 4のドラマ’Utopia’で印象的に使われていたこの黄色。

ハリエニシダはイギリスを含む西ヨーロッパが原産地で、日当たりのよい土地に自生し、3メートル程の高さになります。成長した葉は鋭い棘のようになり生い茂り、枝葉の多い密度の高い茂みは鳥や昆虫に格好の棲家を提供します。ココナッツやバニラのような香りと形容される花の花粉や蜜は他の花の少ない季節には、虫たちの重要な食糧源になります。 

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ハリエニシダは乾燥した痩せた土地、湿地や海岸、道端や空き地、牧草地など、イギリスでは北の霜の多い地域を除きほぼ全土に生息します。私が一年程住んでいたデボンにある、ダートムーア国立公園もこのハリエニシダの黄色い帯に覆われた景色を見ることができます。この地ではこの花をダートムーアカスタードとたとえるのだそう。

このハリエニシダ、繁殖力がとても高いのですが、その要因のひとつは無数の花、つまり種の多産さにあります。豆のようなサヤは乾くとはじけ、熟した種が飛び出していきます。種の時期、乾燥した日にハリエニシダの茂みを歩くとパチンとサヤのはじける音があちこちで聞こえてきます。飛び出した種はさらにアリによってさらに遠くに運ばれていきます。 
もうひとつには、ハリエニシダの適応環境の幅広さにありますが、これは豆科の植物に特徴的な根粒菌という細菌との共生に起因しています。根粒菌は植物が光合成でつくりだした栄養分を頂戴する代わりに、植物が取り込むことのできない大気中の窒素を変換して、植物が栄養素として使える状態にしてあげるのです。この共生関係によってハリエニシダを含む多くの豆科の植物はやせた土地でも元気に育つことができます。
このような繁殖力の強さから、家畜の餌などの農業的な目的などで持ち込まれた、ニュージーランドやハワイなどでは外来種として在来種種をおびやかしています。ハリエニシダはIUCNによる世界の侵略的外来種ワースト100のひとつに指定されています。 
ここイギリスでも、繁殖地域の拡大は他の動植物の生息圏を脅かすため、自然保区域などでは火入れなどによる管理がが行われています。

このイギリスのあらゆるところに生息するハリエニシダ、古くは人々の暮らしに取り入れられ、幅広く活用されていました。 
ハリエニシダは油脂を含み可燃性がとても高く、すぐに高温になるので産業革命以前にはパンを焼くオーブンなどに燃料として使われていました。その灰は土地の栄養分を高める肥料として、または土とまぜて石けんの代用として使われたそうです。トゲトゲの枝は束ねて煙突掃除用のほうきにしたそうです。
鮮やかな黄色い花は黄色の染料として、樹皮は濃い緑の染料として、香りがよい花はワインやコーディアルの香り付けなどにも使われます。    常緑の枝葉はタンパク質を含み、特に冬の間はウスでひくなどして家畜のエサとして重宝されていました。
このあたり、スコットランドの南西部の海沿いの牧草地域では風よけの垣根として植えられているのをあちこちで見かけます。
いろいろな用途で使われてたハリエニシダですが、薬草としては特に際立った用途はなかったようです。

優れもののハリエニシダですが、可燃性の高い性質から、イギリス国内でもこの植物の繁殖地域でWild fireが毎年何件もおきています。Gorse fireともよばれるこの火事はバーベキューやたばこの火の不始末、または火入れ中に広がりそれが火事となるケースが多いそうです。エジンバラのでも2018年にアーサーズシートで規模の大きなGorse fireがおき、希少動植物への影響が懸念されました。通行止めなど、市民生活への影響も少なからずありました。つい先日もアーサーズシートで小規模の火事があったと地方ニュースが報じていました。
近年に見られるWildfireのシーズンの長期化・規模の拡大は、地球温暖化による気温の上昇・降水量の減少との関連性が指摘されています。乾燥した環境は、ハリエニシダがより燃えやすく火がひろがりやすい条件となるのです。

この海沿いに広がるハリエニシダのコロニー一帯が、海の青を背景にバターが溶け出て地面を焦がすように燃えるあがる、’Utopia’に感化され過ぎな風景を想像してみると、ものすごいシュールな気分になります。でも実際のところ、日々身近なランドスケープが気候変動による影響によって、動植物・私たちのコミュニティに被害をもたらす潜在的な危険性が高まっているというシグナルは、いろいろなところで様々なかたちで発せらているように思うのです。

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