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第九幕:試練の秋5 ミュージカル研究会の頃-汗と涙の青春ストーリー-

そして、”見にこないんだから、自由にやればいいんだ!”と開き直るような空気が生まれていった。実際、アドリブをおのおのかなりいれるようになった。
まじめで、ミュー研随一の良心として知られる中人の若林さんでさえ自暴自棄になり、バーのシーンでDJの動きをしてディスクを回すという意味不明なキャラになっていた。

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確かに美也子さんからは以前に、猫のシーンは明るさが必要ということで、”おもいきり楽しくやってほしい”、そういうリクエストもあった。
前のネズミのシーンが凄くシリアスな終わり方だから、一度雰囲気を変えるためにも、明るい方が良いということだった。

ただ、そういったことが追い風となり、猫は暴走気味だったかもしれない。実力があって怖い先輩も何人もいたので、僕は委縮気味で控えめだった。
そんな僕に対し、経緯は忘れたが、誰かがけしかけた。どこでどうなったのか、”ぬんちゃくを持ったらどうだ”という意見が出たのだ。
最初は”猫のマスター!”と紹介された時に、僕はぺこりとあいさつする程度だった。それが、目の前のカウンターの台にのぼって、”ぬんちゃくを振り回す”という謎の設定が誕生した。
しかも、最後は股間に当ててしまい、もんどりうってうずくまるというあまりに場違いでしょーもない設定である。

これは正統派、シリアスで、宮澤賢治の世界観も漂うような素晴らしい作品である。”ギャク”は存在しないし、不必要だ。
せいぜい謎の男が若干2.5枚目の役で、陽気な雰囲気があるだけである。

にもかかわらず、いくら陽気な猫のバーだからいといって、ぬんちゃくを持ったマスターが、自己紹介でそれを振り回すというシュールな設定はありえなかった。
実際、本公演で披露したが、笑いが起きた記憶はない。ちびまるこちゃん風にいえば、目のところにあの斜線がはいって、”この猫のマスターっていったい”って観客みんなががごくりといきをのみ、あ然としているような感じだった。静まりかえる中、ほんの10秒ほどにもかかわらず、ぬんちゃくを振り回す間は異様に長く感じられた。お笑い芸人ではないけれど、すべるというのはこういう感じなのだろう。このためだけにスポットライトが僕に当たるのだが…。

おそろしいことだが、みんなにけしかけられ、僕はそんな暴挙ともいえるキャラを演じてしまったのだ。今思い出すたびに冷や汗をかき、穴があったら入りたい思いにかられてしまう。もちろん、美也子さんにあやまりたいのは言うまでもない。
これをきっかけに、美也子さんとはのちのちまでも大きな距離ができでしまい、話す機会がほとんどなくなってしまった。いわゆる敬遠されたというやつで、とても残念なことだった。

つづく…(続きを見たい方は、ハルカナル屋根裏部屋へ!)

第一幕:未知なる舞台へ!
https://rekishi-tanbo.com/musical-story/第一幕:未知なる舞台へ!

第二幕:衝撃! 初役はみんなが大嫌いなあれ!?
https://rekishi-tanbo.com/musical-story/act2

第三幕:最初の公演
https://rekishi-tanbo.com/musical-story/act3

第四幕:夏の発表会
https://rekishi-tanbo.com/musical-story/act4

第五幕:脚本会議、夏の陣
https://rekishi-tanbo.com/musical-story/act5

第六幕:夏休みも大変!? 音響スタッフで出陣!
https://rekishi-tanbo.com/musical-story/act6

第七幕:夏合宿
https://rekishi-tanbo.com/musical-story/act7

第八幕:猫たちが大騒ぎ!?
https://rekishi-tanbo.com/musical-story/act8

第九幕:試練の秋
https://rekishi-tanbo.com/musical-story/act9

第十幕:冬の本公演
https://rekishi-tanbo.com/musical-story/act10

登場人物

-新人-
僕:元帰宅部。歌、ダンス、芝居、3拍子そろわない珍しい新人。しかも、入部したのが2年生の時だったため、振り返るとかなり浮いた存在だった。
岩尾…親友。2浪しているフリーターながら、ミュージカル研究会に入る。
鉄郎:某都内に通う高校時代、伝説となった男。野性的で、繊細で、躍動的で、とても頭がよく、次元の違う存在感を放っていた。どこを行くのも裸足で歩いていた。
冴子(NEW)…高校時代は声楽をやっており、作曲ができた。才能にあふれており、同期で最初に頭角を現した存在だった。彼女の作る曲は作品にしっかり寄り添いながらも、さらに作品を高めるような、素晴らしい曲が多かった。のちにNHKのみんなの歌に曲を提供した。
優有:歌と芝居が大好きで他の女子大学からミュー研に通っている。穏やかで性格が良く、みんなから好かれており、脚本家の坂上さん、美也子さんらに気に入られ、たびたび彼らの作品に主役で出演することになる。
芽衣…大阪出身でのりやよく、ダンスが好きだった。若くして亡くなってしまい、この作品を書くきっかけになった存在の1人。

-中人(2年目)-
美也子さん:容姿は少しボーイッシュで、性格は物静かで控えめ。宮沢賢治を愛しており、彼女が生み出す脚本は、独特で素晴らしい世界観だった。
江夏さん:新人の時はぺけをつけられていた僕や岩尾とかなり距離があり、あまり話す機会はなかった。坂上さんとおなじ愛知出身で、師匠と弟子のような間柄だった。普段はちゃらんぽらん、三枚目だが、ミュー研への思い入れが人一倍強く、男子では歌、ダンス、芝居が一番うまかった。とても個性があり、 後に百萬男 – フジテレビに出演した。
時子さん: 歌・ダンス・芝居、すべてのレベルがトップクラスの先輩だが、怒ると鬼より怖く、男子全員に恐れられていた。
松田さん:初対面の時に「俺、次の舞台で主役とっちゃうよ!」と言ってのけた自信家。実際は繊細で神経質な一面もある。一方でできの悪い後輩を気にかけ、面倒見の良い一面もあった。
夕実さん:松田さんの彼女。小柄でかわいらしく、親切な先輩。



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