花音

エッセイや小説など書いていきます!

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最近の記事

透明な涙

喉の奥が、熱くぎゅうと縮こまる。 その感覚がなによりも不快で、私は泣くことが嫌いだった。 鼻で息をするのが苦しく、嘔吐くように口から空気を取り込む。 その度にヒッ、と情けない声が漏れてしまうのが恥ずかしかった。 誰も聞いちゃいないけれど。 美しい玉のような涙を、綺麗に流す女にはなれなかった。 誰も拭ってはくれない、流れっぱなしの涙を可哀想に思う。ああ、私が美しい女であれば、優しい指先に掬われていただろうに。 私の目から生まれてしまったばかり、その行先は安売りされていたテ

    • 青春

      窓を開けると、そこには青春があった。 ランドセルを背負った男の子と女の子が手をつなぎ、なにかを話しながら歩いている。 アパートの二階にある私の部屋からは、二人のつむじがよく見えた。 表情は見えないが、きっと楽しい時間なのだろう。 女の子の笑い声が、小さくなっていく二人の後姿から響いていた。 なぜか、鼻の奥がツンとした。久しく感じていない感覚だった。そうそう、涙がでる前には、鼻の奥が痛むんだったーーー。 一粒こぼれた涙は、開けた窓から吹き込んでくる風に乾かされた。 二人の姿はも

      • ポテチと腹筋

        ケノヒさんが書いた小話(頭おかしい)を演じてみました。 (リビングに妻と夫。テレビを見ている。妻はポテトチップスを食っている。一方夫は、テーブルの上で腹筋している) 妻:ねえ、あなた。カエルとってきてよ、カ・エ・ル。私のこと、愛してるんでしょ、ならとれるわよね? 夫:ふん、ふん、ふん、ふん。 妻:ねえ、聞いてる? ボリリィ、聞いてる? 夫:ふん、ふん、ふん、ふん。なんだ奥の様よ。私は今、フン――ふ、きんで忙しいんだ。 妻:カエル。 夫:ふん、ふん、カエル、ふん? 妻:ああ、もう、バリリィ、バリリィ! アア、見て。ねえ、小学生がカエルを――塩が、おいしい! 夫:(腹筋を辞めて、自分のおなかをみながら)どうにかしてここの肉をそぎ落としたいんだが……。 妻:それで、ねえ、聞いてるの? あなた、さっきからどこで腹筋しているのよ。テーブルが壊れるからやめてくれない? あ、ほら、汗。汗がテーブルの上にべったりだわ。 夫:なんだって? 一度に多くの質問をするな。 妻:だーかーらー、腹筋! いや、カエルも――テーブル? あれ…… 夫:なんだ、自分でも分かってないんじゃないか。これだから最近の若者は……ふん、ふん、ふん、ふん(腹筋を始める) 妻:はあ、私の最愛の夫は、いつまでたっても腹筋を辞めてくれないわ。これだけ私が嘆願しているというのに、夫は、いつになったらお聞きくださるのかしら。昔はよかったわ。私が「暑い」と言えば、自分のTシャツを脱いで、私の顔の上で絞って水分をとらせてくれた。私が「寒い」と言えば、すぐさまシャベルを持ってきて、土をかけてくれた。――ああ、こんなにできた男はいないと昔は思っていたのに。どうしてなのかしら。 夫:ふん、ふん、ふん、ふん。 妻:……ねえ、離婚しましょ。 夫:ふんと。(沈黙。2秒後、腹筋を辞めて飛び起きる)え!? どうしてだい? 妻:そういう気分なんですもの。 夫:わ、わたしの何がいけなかったと言うんだ。 妻:そういうわけじゃないの。あなたが、私のお願いごとをきいてくれないことなんて、全然問題じゃないわ。 夫:じゃあ何が―― 妻:全然問題じゃないわ。 夫:え? じゃあ何が問題―― 妻:全然問題じゃないわ! 夫:え? 妻:あなたが、私のお願いごとを聞いてくださらないことなんて、些細な問題だわ。取るに足らない小事。私はね、そんなくだらないことで離婚を使用だなんて、決して思わないんだから! 夫:は? じゃあ、離婚しなくたっていいじゃないか! 妻:そうよ! その通りだわ! 夫:じゃあ、夫婦円満だ! 妻:その通り! 夫:お前を愛してる! 妻:愛してる! 夫:死ぬまでともに! 妻:一緒にいよう! 夫:ふん、ふん、ふん、ふん。 妻:ボリリィ、ボリリィ、ボリリィ、ボリリィ……(フェードアウト)

        • いい気なもんだよ。

          いい気なもんだな、と思う。 人がこんなにもぐちゃぐちゃした感情を抱えているのに。そんなのしったこっちゃないなんて顔して。 おまえだよおまえ。私の目の前でへらへら笑いながら喋ってるおまえ。わかってるか? にこにこ笑って返事してる、私の心が穏やかだとでも思ってるのか? 思ってるだろうな。言ってないもんな。言わなきゃ伝わらねえよな。いい気なもんだよ。 ああでも…。もしかしたら、目の前でへらへら私に喋りかけてくるおまえも、心の中では「俺の気も知らねえで。こっちは気ぃ遣って喋ってんのに

        透明な涙

          銀色のメアリー

          僕が愛しているのは、僕の家にいる「人型家政婦ロボットM-19」だ。僕の3歳の誕生日から15年間、ずっと僕のそばにいてくれた。仕事で忙しい両親よりも、ずっとずっと。 僕はそのロボットを「メアリー」と呼んだ。3歳のとき、よく見ていたアニメのヒロインの名前だった。 家政婦型ロボットは、今から50年前に一般家庭にまで普及した。当初は「人型」とまで形容されるような様相ではなかった。 ドラム缶のような寸胴なボディ、一つ目のようなカメラが丸い頭部に付いているだけの質素なものだった。 それか

          銀色のメアリー

          帰宅電車(500字小説)

          満員電車までいかずとも、席はすべて埋まっていた。 べつに、10分程度で降りるからいいもん、と誰にするでもない言い訳を頭に思い浮かべて、適当なつり革に手をかける。 今日は雨が降っていた。梅雨。朝から雨。今も雨。ずっと雨。仕事中、営業で走り回っていた私のヒールの中はグチャグチャになっていた。つま先を丸めると、ぐちゅ、となんとも言えない不快感…。でも、癖になって何度もやっちゃう。実は快感なのかな?私、痛い口内炎も何度も舌先で触っちゃうタイプ。 はあ。マスクの下でため息をつく。今

          帰宅電車(500字小説)

          寝落ちと寝起き

          私は「寝落ちの瞬間」が好きだ。 あの、現実の私と、空間とが入り混ざるような感覚がたまらなく癖になる。 とはいっても、「気づいたら寝てた」のように、本当の意味での「寝落ち」に陥ることが多く、「寝落ちの瞬間」にありつけることはあまりないのだが。 あまりないからこそ、「あ!今、寝落ちしてる!」と、最後の最後、空間に溶けだす"私"が思考する瞬間が、たまらなく好きなのである。 似たような感覚だと睡眠から覚醒するとき、「寝起きの瞬間」だろうか。私はこれも好きである。 バラバラになって

          寝落ちと寝起き