花音

エッセイや小説など書いていきます!

花音

エッセイや小説など書いていきます!

記事一覧

透明な涙

喉の奥が、熱くぎゅうと縮こまる。 その感覚がなによりも不快で、私は泣くことが嫌いだった。 鼻で息をするのが苦しく、嘔吐くように口から空気を取り込む。 その度にヒ…

花音
1年前
1

青春

窓を開けると、そこには青春があった。 ランドセルを背負った男の子と女の子が手をつなぎ、なにかを話しながら歩いている。 アパートの二階にある私の部屋からは、二人のつ…

花音
1年前
3

ポテチと腹筋

00:00 | 00:00

ケノヒさんが書いた小話(頭おかしい)を演じてみました。 (リビングに妻と夫。テレビを見ている。妻はポテトチップスを食っている。一方夫は、テーブルの上で腹筋して…

花音
2年前
7

いい気なもんだよ。

いい気なもんだな、と思う。 人がこんなにもぐちゃぐちゃした感情を抱えているのに。そんなのしったこっちゃないなんて顔して。 おまえだよおまえ。私の目の前でへらへら笑…

花音
4年前
7

銀色のメアリー

僕が愛しているのは、僕の家にいる「人型家政婦ロボットM-19」だ。僕の3歳の誕生日から15年間、ずっと僕のそばにいてくれた。仕事で忙しい両親よりも、ずっとずっと。 僕はそ…

花音
4年前
6

帰宅電車(500字小説)

満員電車までいかずとも、席はすべて埋まっていた。 べつに、10分程度で降りるからいいもん、と誰にするでもない言い訳を頭に思い浮かべて、適当なつり革に手をかける。 …

花音
4年前
4

寝落ちと寝起き

私は「寝落ちの瞬間」が好きだ。 あの、現実の私と、空間とが入り混ざるような感覚がたまらなく癖になる。 とはいっても、「気づいたら寝てた」のように、本当の意味での「寝落…

花音
4年前
17

透明な涙

喉の奥が、熱くぎゅうと縮こまる。

その感覚がなによりも不快で、私は泣くことが嫌いだった。

鼻で息をするのが苦しく、嘔吐くように口から空気を取り込む。
その度にヒッ、と情けない声が漏れてしまうのが恥ずかしかった。
誰も聞いちゃいないけれど。

美しい玉のような涙を、綺麗に流す女にはなれなかった。
誰も拭ってはくれない、流れっぱなしの涙を可哀想に思う。ああ、私が美しい女であれば、優しい指先に掬われ

もっとみる
青春

青春

窓を開けると、そこには青春があった。
ランドセルを背負った男の子と女の子が手をつなぎ、なにかを話しながら歩いている。
アパートの二階にある私の部屋からは、二人のつむじがよく見えた。
表情は見えないが、きっと楽しい時間なのだろう。
女の子の笑い声が、小さくなっていく二人の後姿から響いていた。
なぜか、鼻の奥がツンとした。久しく感じていない感覚だった。そうそう、涙がでる前には、鼻の奥が痛むんだったーー

もっとみる
00:00 | 00:00

ケノヒさんが書いた小話(頭おかしい)を演じてみました。


(リビングに妻と夫。テレビを見ている。妻はポテトチップスを食っている。一方夫は、テーブルの上で腹筋している)

妻:ねえ、あなた。カエルとってきてよ、カ・エ・ル。私のこと、愛してるんでしょ、ならとれるわよね?
夫:ふん、ふん、ふん、ふん。
妻:ねえ、聞いてる? ボリリィ、聞いてる?
夫:ふん、ふん、ふん、ふん。なんだ奥の様よ。私は今、フン

もっとみる

いい気なもんだよ。

いい気なもんだな、と思う。
人がこんなにもぐちゃぐちゃした感情を抱えているのに。そんなのしったこっちゃないなんて顔して。
おまえだよおまえ。私の目の前でへらへら笑いながら喋ってるおまえ。わかってるか?
にこにこ笑って返事してる、私の心が穏やかだとでも思ってるのか?
思ってるだろうな。言ってないもんな。言わなきゃ伝わらねえよな。いい気なもんだよ。
ああでも…。もしかしたら、目の前でへらへら私に喋りか

もっとみる

銀色のメアリー

僕が愛しているのは、僕の家にいる「人型家政婦ロボットM-19」だ。僕の3歳の誕生日から15年間、ずっと僕のそばにいてくれた。仕事で忙しい両親よりも、ずっとずっと。
僕はそのロボットを「メアリー」と呼んだ。3歳のとき、よく見ていたアニメのヒロインの名前だった。
家政婦型ロボットは、今から50年前に一般家庭にまで普及した。当初は「人型」とまで形容されるような様相ではなかった。
ドラム缶のような寸胴なボ

もっとみる

帰宅電車(500字小説)

満員電車までいかずとも、席はすべて埋まっていた。

べつに、10分程度で降りるからいいもん、と誰にするでもない言い訳を頭に思い浮かべて、適当なつり革に手をかける。
今日は雨が降っていた。梅雨。朝から雨。今も雨。ずっと雨。仕事中、営業で走り回っていた私のヒールの中はグチャグチャになっていた。つま先を丸めると、ぐちゅ、となんとも言えない不快感…。でも、癖になって何度もやっちゃう。実は快感なのかな?私、

もっとみる

寝落ちと寝起き

私は「寝落ちの瞬間」が好きだ。
あの、現実の私と、空間とが入り混ざるような感覚がたまらなく癖になる。
とはいっても、「気づいたら寝てた」のように、本当の意味での「寝落ち」に陥ることが多く、「寝落ちの瞬間」にありつけることはあまりないのだが。
あまりないからこそ、「あ!今、寝落ちしてる!」と、最後の最後、空間に溶けだす"私"が思考する瞬間が、たまらなく好きなのである。

似たような感覚だと睡眠から覚

もっとみる