寝落ちと寝起き

私は「寝落ちの瞬間」が好きだ。
あの、現実の私と、空間とが入り混ざるような感覚がたまらなく癖になる。
とはいっても、「気づいたら寝てた」のように、本当の意味での「寝落ち」に陥ることが多く、「寝落ちの瞬間」にありつけることはあまりないのだが。
あまりないからこそ、「あ!今、寝落ちしてる!」と、最後の最後、空間に溶けだす"私"が思考する瞬間が、たまらなく好きなのである。

似たような感覚だと睡眠から覚醒するとき、「寝起きの瞬間」だろうか。私はこれも好きである。

バラバラになって、空間に溶けていた"私"が、ゆっくりと私の体に戻ってくる。ゆっくりと意識が戻ってくる感覚がある。少しずつ現実の私が形づくられる。そのときわたしは、「いやだな、まだ眠っていたいな」と考えている。
そして最後のパーツが空間から体に戻ってくると、私は目を開く。一度目の目覚めがやってくる。
私はコンタクトレンズ使用者であり、目覚めのときは全くと言っていいほど周りのものはなにも見えない。裸眼の視力は、0.02くらいだったかと思う。コンタクトレンズを装着すると、二度目の目覚めがやってくる。この瞬間も好きである。

私はそれらを、本を読むときに疑似体験している。寝落ちの瞬間はなかなか捉えられないが、本を読めばほぼ確実にそれに近い感覚を得られるのだ。
本を読んでいる間よりも、本を読む前、表紙を眺めて手でなぞり、「この本にはどんなことが書いてあるのだろう」とその本に集中する瞬間の方が好きなのは、私が「寝落ちの瞬間」を疑似体験しているからなのだと思う。
本を開き始めると、小説であれ漫画であれ、私の意識は段々と私から離れていく。
本の中に私の意識が溶け込んでいく。

本は、「寝起きの瞬間」も体験することができる。本のページ数が残り少なくなるにつれ、「あ、もうすぐ終わっちゃう。いやだな、終わらないでほしいな」と、段々と私に意識が戻ってくる。
そして、本の最後の一文(一コマ)を読み終えて一息つくと、最後の"私"のパーツが戻ってくる。一度目の目覚めである。
二度目の目覚めにあたるのは、あとがきだろうか。あとがきは、私の体に戻ってきたばかりのボヤボヤしている意識をクリアにさせる。くっきりとした現実の輪郭を見せつけ、きちんと"私"を私に戻してくれるのだ。

私の「寝落ち」と「寝起き」の感覚はそんな感じ。もし本以外にも疑似体験できる方法があるなら、ぜひ教えてほしい。
私はいつも、寝落ちと寝起きを探している。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?