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短編小説「殺意の蜷局」

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「あたしはヘビだ。言いたい言葉を呑み込む度に、あたしはヘビになっていく」夫の裏切りを知った妻の心に殺意が生まれる。妻は夫の殺し方を考え始める。現実と幻想の狭間で、妻の心は少しずつ…
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#創作

【短編小説】殺意の蜷局 最終話

【短編小説】殺意の蜷局 最終話

 夫の笑い声が聞こえた。

 何故こんな緊迫した状況で、笑い声が聞こえてくるのか。恐る恐る見ると、夫はあたしに背を向けてテレビを見て笑っていた。あたしが今から夫を殺そうとしているのに、夫はテレビを見て笑っている。おかしな事態が発生している。

 何故だ、何故あたしの殺意に気付かないのだ。包丁を持って立っているあたしが目に入らないのか。

 そこであたしは悲しく気付いてしまった。夫はあたしを見ていな

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【短編小説】殺意の蜷局 第7話

【短編小説】殺意の蜷局 第7話

 セックスがなくなったのはいつからだったんだろう。

 少しずつなくなったのではなく、唐突になくなった気がする。その日を境に、夫とあたしは男と女ではなくなった。

 一度勇気を出して自分から夫を誘った事があった。凄い速さで背中を向けられた。今から思えば、その頃から夫には女がいたのだろう。

 その女とあたしの何が違うんだろう。同じ穴ではないのか。何故あたしの穴では駄目なのだ。

 あの頃あたしは飢

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【短編小説】殺意の蜷局 第6話

【短編小説】殺意の蜷局 第6話

 準備は完璧だ。

 ただ、さっきから毒を盛るタイミングが全くわからない。毒を盛る事に関しては素人だからやり方がわからない。何かに混ぜればいいのだろうけど、何に混ぜるのがいいのか。毒の量も全くわからない。どれだけ入れたらヒトは死ぬのだろうか。中途半端にダメージを与えてしまったら、確実にあたしがダメージを食らってしまう。

 味の濃いいものに入れたらいいかもしれない。そうだ、ポン酢に入れてみよう。夫

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【短編小説】殺意の蜷局 第5話

【短編小説】殺意の蜷局 第5話

 夫に殺意を抱き始めたのが一年前。

 その頃、夫に愛人がいるということを知り、少しでも気晴らしになればと思い、近所の陶芸教室に通いだした。

 一心不乱に土をこね、くるくるくるとろくろを廻せば気が晴れるかと思ったが、土を憎しみで叩きつけ、ろくろを苛立ちで廻しただけだった。

 出来上がった作品は、ヘビが蜷局をまいてこちらを睨んでいるような歪なものだった。その時初めてヘビがあたしに囁いた。

「殺

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【短編小説】殺意の蜷局 第4話

【短編小説】殺意の蜷局 第4話

 あたしは母と姑の両方から嫌われた。

 嫌われ体質なのか、いつも誰かに嫌われていた。あまりにも母に嫌われているので、自分は絶対に養子なんだと思っていたーーそう思いたかった。

 高校一年の時、市役所に戸籍謄本を取りに行った事がある。戸籍を確認する前に、養子でありますようにと祈った事を今でも鮮明に覚えている。

 実子だった時のショックは忘れられない。

 家に帰ってから、思い切って母に聞いてみた

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【短編小説】殺意の蜷局 第3話

【短編小説】殺意の蜷局 第3話

 不覚にも夫の言葉に感動すら覚えてしまった。

 そうか、今このお鍋に足りないものは水なんだ。野菜や肉に水分を吸われすぎてドロドロになっているのだから、水を足せばいいのか。簡単な事だ。

 そこでふと疑問が沸いた。どうして夫は自分で水を足さないのだ。今あたしより先にそのことに気付いたんじゃないのか。

 そう、夫は家で何もしないのだ。着替えたものは足元に、使ったコップはそのままに。

 夫は長男で

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【短編小説】殺意の蜷局 第2話

【短編小説】殺意の蜷局 第2話

 夫が部屋着に着替えてあたしの前に座り、お鍋の中のドロドロに溶けた白菜を嫌な目でじっと見ている。

 夫があたしの目を見ずに呟いた。

「何だ、これ」

 あたしの中のヘビがむくっと首を擡げる。夫が一か月ぶりに口を開いた言葉が、「何だ、これ」とはどういう事なのか。

「あんたが遅かったからじゃない、あんたが女のとこに行ってたからじゃない。知ってるのよ、あたしは。女がいるんでしょ、女がいるんでしょ」

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【短編小説】殺意の蜷局 第1話

【短編小説】殺意の蜷局 第1話

 あたしはヘビだ。 

 言いたい言葉を全て呑み込んでしまうあたしは、食べ物を腹一杯食べて、お腹が風船のように膨らんでしまっているヘビなのだ。呑み込んだ言葉が一切消化しないから、あたしのお腹は破裂寸前になっている。

 さっきから私の隣りでお鍋がグツグツと煮えたぎっている。夕食は、夫の好きな白菜と豚肉のお鍋を作った。だが今日がもう終わろうとしているのに、夫はまだ帰ってこない。帰ってくる気配すらない

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