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【短編小説】殺意の蜷局 第4話

 あたしは母と姑の両方から嫌われた。

 嫌われ体質なのか、いつも誰かに嫌われていた。あまりにも母に嫌われているので、自分は絶対に養子なんだと思っていたーーそう思いたかった。

 高校一年の時、市役所に戸籍謄本を取りに行った事がある。戸籍を確認する前に、養子でありますようにと祈った事を今でも鮮明に覚えている。

 実子だった時のショックは忘れられない。

 家に帰ってから、思い切って母に聞いてみた。

「あたしのどこがそんなに嫌いなの」

 母はあたしの顔を見ず、

「顔」 

 と吐き捨てるように答えた。嫌いな姑にあんたの顏はそっくりなんだよと言われた。

 衝撃だった。そんな理由で、自分が産んだ子供を嫌うなんて事があるのか。子供は、愛すべき存在ではないのか。

 嫌われている理由が顔。到底納得出来るはずもなく、お決まりのコースで、あたしはグレた。

 姑には、頭が悪いからという理由で嫌われた。夫は高学歴で、エリートコースまっしぐらな人だったから、こんな高卒上がりの嫁はいらないと言われた。また直接言われた。母に続く第二弾だ。

 いったい高卒の何が悪いというのだ。グレていたあたしが、高校を卒業するだけでも、どれだけ頑張ったか、出来ない事を数えるより頑張った事を認めてくれるのが親ではないのか。それが愛というものじゃないのか。思考が孤独の沼に落ちていく。 

 誰も本当のあたしを見てくれない……

 ブルブルブル。携帯のバイブ音で現実に引き戻された。夫の携帯がテーブルの上で震えている。バイブにするぐらいなら電源を切ればいいのに。中途半端に隠されるから余計に苛立つ。夕食の時間を狙ったように、毎日毎日夫の携帯のバイブが震える。

 女という生き物は、自分の存在のアピール度が激しすぎる。何故そんなに前に前に出てくるのだ。

 憤りを感じながら前を見ると、夫は慌てる素振りをこれっぽちも見せず、堂々とあたしの目の前で携帯の画面を確認している。

「じゃあ着信音をマツケンサンバにでもして最大音量で鳴らしてみろ」

 怒りの言葉を、あたしの中のヘビに与える。汚い言葉を与えれば与える程、ヘビは美味そうに呑み込んでいく。

 ヘビのお腹は大きく大きく膨らんでいく。


 (つづく)

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