おとぎ話と挿絵の関係ー私がお店を開いたら扱いたいものー
おとぎ話…口伝えから文字へ
私は、おとぎ話が好きだ。
たとえそれが非現実的で、ありえないような話でも、心を惹きつける。
現実から逃げる場所であり、反対に,現実と向き合う場所でもあると思うのだ。
動物が喋る、ピンチには必ず救世主が現れる…そういったことが、現実では起こらないことは、分かっている。
それでも、物語を読んで没頭し、動物と話せる気になったり、救世主が現れてホッとしたり…
そういったことが、現実からの逃げ道になる。
これは,おとぎ話に限ったことではないけれど、おとぎ話はそのほかの小説などよりも、より非現実性を含んでいるように思われるから,より、現実と対比的だと思う。
そして,夢を与えてくれる。
一方で、古くからのおとぎ話には、違和感を覚えることもある。
意味の分からないようなことや、教訓じみているが今の時代にそぐわないこと。
それは、元々のおとぎ話が口伝えだから意味よりも音を重視したのかもしれない。
今、私たちが本で読める話の中で、昔から伝えられているおとぎ話は(多くは多少の変化を伴っているだろうが)、口伝えから文字に起こされたものだ。
ペローの「赤ずきん」など、ペロー自身の思想や時代の要請で変更されている部分はあるものの、民間伝承に基づくものである。
その後の時代のグリム兄弟も、民間伝承を集めて童話集として刊行した。たとえ、何回も版を重ねるうちに変更されてきたとしても、原型は民間伝承である。
時代が違えば教育方針だって違うだろう。文字に書かれる時に込めた教訓だって、あるだろう。
また、子どもの頃に読んだ時と、大人になってから読み返したおとぎ話では、同じ話でも、かなり印象が違ってくることがある。
子どもの時は、聞いたまま何も考えずに受け入れていたことが,大人になってもう一度読んでみると,そういうことに気付いたりする。
その気づきは,おとぎ話が非現実性を帯びているにも関わらず、現実との対比から、改めて現実を見つめる、現実と向き合う手段にもなるように思う。
だから私は、大人になった今でも、おとぎ話に興味を持つ。
挿絵
そんなおとぎ話に付随する絵は、かなり重要な役割を果たしていると思う。
口伝えの時には存在しなかった絵、ビジュアルが、今では付随している。
口伝えの時には、語り手の話し方、聞き手の想像力が、ビジュアルを個々の頭の中に描き出していたのだろう。
今でも、読み聞かせや文字を目で追う際には、そういう力が働いている。
けれど、そこに挿絵があることで、よりその力が加速される。
もちろん、挿絵があることで、バリエーションは狭められるかもしれない。個々の頭の中に展開されていたオリジナリティが減るかもしれない。
けれど、挿絵があることで、理解は加速される。
例えば、外国のおとぎ話を読んだ時。
「シンデレラ」が舞踏会に赴いた西洋の城とは、どういうものか。
例えば、日本の昔話を読んだ時。
「かぐや姫」での姫や帝の衣装は、どういうものか。
自分の現実とは遠いところにあるお話の中の物理的なもの。それを理解する助けとなる。
もちろん、それがどういうものかに正解はないが、想像する上でのひとつの助けとなることは、事実である。
もちろん、時代が違う・国が違うのだったら、調べれば良い話だけれど、
もちろん、そうすれば学びにはなるのだけれど、
挿絵は一旦、あるひとつの正解を提示して、それから更に、興味を惹きつけるから。
興味を惹きつけられた私たちは、更にそれについて調べようとするかもしれない。
例えば、シンデレラの挿絵の城が素敵だと思ったら、西洋の城には他にどんなものがあるのか興味を持つかもしれない。
例えば、かぐや姫の衣装が素敵だと思ったら、それを調べようとするかもしれない。
挿絵は本の内容を理解する手助けになるだけでなく、更にその先へと、個々に働きかけている気がする。画家がそれを意識していなくても。
だから、私は挿絵にも惹かれるのである。
多くのおとぎ話と挿絵を比較する
ある程度古いおとぎ話には、たくさんのバージョンがあり、時代・国・地域によっても似ていたり違っていたりする。
それらを比べることは、時代や地域の流れを見るようで、興味深いと思う。
挿絵もそうだ。
ひとつの物語に、幾人かの別の画家が、別の版で、別の絵をつけることが多々ある。
どの場面を挿絵にするか、それだって異なる。
そういった違いを比べるのも、興味深い。
だから私は、様々な時代・国・地域で出版された、色々な挿絵バージョンがあるおとぎ話たちを、集めたいなと思う。
そういうものを私がお店を開いたら並べて、自分もそれらを読み比べて見たいし、お客さんにも様々なものを見てもらいたい。
その中から、それぞれ、気に入ったおとぎ話のバージョンと挿絵のバージョンを見つけてもらえたらいいな、
と、思ったりする。
※画像は、海野弘解説・監修「おとぎ話の幻想挿絵」PIE、2011年の表紙から使わせて頂きました。大変興味深い本で、私の愛読書です。
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