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『海の向こうでこんなこと言われた』#6

「どこかおかしいところありますか?」


マーティン・ネイラーさん・英国人。
海外の事情に詳しく、日本のプロダクションや劇団から相談を受けている。
彼から「ロンドンに行くならこの人に会うといい」と紹介されたのは、
作家で演出家のデビッド・ウッド氏

ロンドンの中心街から電車で約40分、
ウィンブルドンの自宅にウッド氏を訪ねて色々話をする中で

『そうだ!あの芝居を観たらどう?』

ウィンブルドンで自主制作をしているポルカシアターが、夏のジャパンフェスに上演した『日本の物語』を続演中。

『彼らのオリジナルなんで意見を聞かせてあげて下さい』


ポルカシアターは元教会の建物を改修した劇場。
地元の企業や個人からの寄付で活動を続けている。

ポルカシアター

児童、ファミリー向けの作品が多く、
平日は先生が引率する学童招待、
土日は一般観客に有料で観せるというシステム。

礼拝堂を改築した2階の劇場に上がる階段脇の壁には、
寄付者のプレートがビッシリと貼られている。

ウッド氏が連絡してくれて、日を改めた平日、
子供達で一杯の客席の後部座席で特別に観せてもらった。

題名は『ヨシとティーケトルの冒険』

そんな話あったかな?
と思いながら、

始まった芝居を観て僕は「崩壊」した。


簡単にストーリーを書いてみるね。

冒頭、2人の男女が煌びやかな能装束で現れ名乗る。

「アイアム『イザナギ』」

「アイアム『イザナミ』」

「国造りをしましょう、子供を産みましょう」

最初に女神が声を掛けたために不完全な子・蛭子(ひるこ)が産まれる。
ドンゴロスの袋から顔だけ出した蛭子登場。
手足が無い。

「この子は不吉だから捨てましょう」

可哀想にドンゴロス君は川に流される。

.‥ここまでは古事記の通り


シーン変わって海辺。
一人の男が登場して名乗る。

「アイアム『バショー』」


なにっ!?バショー!?

「旅をして疲れたので、ここで茶を立てて飲もう」
風呂敷を広げ、茶道具を並べてティーセレモニーが始まる。

そこへ流れてきたのがドンゴロス君。

「お前は何者だ」
「こんな体なので捨てられたのです」
「それは可哀想だな‥よし、ワシは『ニンジャ』だからお前を人間にしてやろう」
で、いきなり印を切る。

モクモクと上がった煙が晴れると、一人の少年の姿。
しかし彼の上半身は巨大な茶釜になっている。

茶の湯の窯と合体してしまったのだ。

.‥ぶんぶく茶釜か…

2人は共に旅をすることになる。


場面変わって武士の家。
庭で裃
(かみしも)をつけた侍と息子が剣術の稽古。

ヨシという息子
(これが主人公)は弱い。

父が刀を収めて
「ダメだダメだ!立派なサムライになるためには良いハイクを詠まねばならぬ。ハイクはサムライの精神だからな」

そうか???

父は家に入り、庭で泣くヨシ。

垣根越しに見ていたバショーと茶釜少年が現れ、
バショーが
「ワシはハイクの天才だから指南をしてやる」
とヨシを伴って袖に入る。

音楽と共に死神が客席に現れる。
(いかめ)しい甲冑姿、顔には鉄の仮面。
客席の子供達がキャーキャーと怖がる。
死神は舞台に上がり父母のいる家に入って行く。

先ほどの3人登場。
ハイクの奥義を授けられた事を報告するためヨシは家に入り、父母の死を知る。
ヨシは仇討ちを決意し、バショー、茶釜少年と共に死神の住む山に向かう。

このあと、死神の手下のカラス天狗に先々で邪魔をされ、その都度苦境を脱して旅は続く。

・・・この辺割愛。

竹藪に差しかかると、大きな竹のひとふしが金色に輝いている。
ヨシが見事な居合
(いつ極めた?)で竹を切ると、
節の中には母親の手紙。
死神の弱点の情報を得て、勇躍死の山に向かい、本懐を遂げるというヨシの成長物語。


‥始めのうちは「? !? ?」続きだったが、終わった時には感動していた。

ロビーに出ると

『日本の俳優さんが来ていると聞いて皆が会いたがっています』

と受付嬢に伴われて楽屋へ。

役者もスタッフも目を輝かせている。

『いかがでした?』


「いや、面白かったです。感動しました」
(実は頭がクラクラしている)

演出家が

『何かおかしなところがあったら仰って下さい』


‥何かって‥全部がおかしいんだけど‥。

で、2点だけ指摘した。

「お父さんが裃を着けて剣術の稽古をしていましたが、裃は武士の最正装、日常には着けません。もし裃姿が見せたいなら『片外し』といって右の肩側を後ろへハネる方法があります」

『あ、それはいいですね。役者も動きにくいと言ってました』

「それから、お父さんもヨシも刀を抜身で帯に差していましたがあれはまずい。鞘に収めるべきです」

『‥それは分かっていたんですが、どうしても鞘が上手く作れなくて‥』

「あ、じゃあいいんじゃないですか、日本人だから気になるくらいでしょうから」

のちにニューヨークで観た『将軍」というミュージカルでも全員が抜身を帯に差していた。
そんなに難しい技術なのかな?

ともかく僕はこの芝居に感動し、ショックを受けた。

日本人なら絶対に思い付かない奇想天外‥というか‥柔軟?な組み立て。
こういうの「あり」かも‥

いつか『ヨシとティーケトルの冒険』を日本の役者て演ってみたいと思っている。

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