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シャイニング

鑑賞時の感想ツイートはこちら。

1980年のイギリス映画。スタンリー・キューブリック監督によるホラー映画の金字塔。コロラドの雪深い山中にあり、冬の間は閉鎖される「オーバールック・ホテル」。作家志望のジャック・トランスは、執筆に専念できる環境を求めて、管理人として妻子を伴いホテルにやってくるが――。

緻密に計算された極上の映像美と共に、ゾクゾクと背筋が冷たくなるような恐ろしさを味わえる、不朽の名作です。原題 "The Shining"。

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出演は、主人公「ジャック・トランス」役に『イージー・ライダー』『カッコーの巣の上で』のジャック・ニコルソン、ジャックの妻「ウェンディ」役にシェリー・デュヴァル、ジャックの息子「ダニー」役にダニー・ロイド、ホテルの料理長「ハロラン」役にスキャットマン・クローザーズ、ほか。

監督は『2001年宇宙の旅』『時計じかけのオレンジ』『フルメタル・ジャケット』のスタンリー・キューブリック

ホラーが苦手なわたしでも観られる、ホラーの傑作!

海外の映画監督でわたしが一番好きなのは、スタンリー・キューブリック

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こちらのページに書いた自己紹介でも好きな映画監督として挙げているくらい大好き♩

あなたのキューブリックはどこから?」

と聞かれたなら(笑)、わたしの場合は『2001年宇宙の旅』が最初の出逢い。この作品を観て「なんたる才能!」「天才か!」と衝撃を受けました。

以来すっかりキューブリックの虜になり、次々と辿るように観てきた映画はこんな感じ。これまでで、7作品。

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○『博士の異常な愛情 または私は如何にして心配するのを止めて水爆を愛するようになったか』(1964年)
○『2001年宇宙の旅』(1968年)
○『時計じかけのオレンジ』(1971年)
○『バリー・リンドン』(1975年)
○『シャイニング』(1980年)
○『フルメタル・ジャケット』(1987年)
○『アイズ ワイド シャット』(1999年)
(公開年順)

『ロリータ』(1962年)はまだ観られていないので、初鑑賞する時が楽しみ!

キューブリックの映画って、作品ごとのジャンルは意外と多岐にわたっているんですよね。ブラック・コメディから、SF、クライム・バイオレンス、文芸作、戦争モノ、サスペンス――など、わりとカバー範囲が広いので、自分の好みに合うジャンルのものから手をつけてみるのも良いかもしれません。

・・・

そんな中、わたしが最も観るのに勇気を要した作品が、本作『シャイニング』でした。というのも、わたしは……

とにかくホラーが苦手

若い頃は全然平気だったんですけどねー。一人暮らしの部屋で、レンタル屋さんで借りてきたホラー映画を深夜に観る―― とか、普通にしていましたし、ちょっと突飛な描写などはゲラゲラ笑いながら観ていました。

シシー・スペイセク主演の『キャリー』(1976年/監督:ブライアン・デ・パルマ)とか、名作ですよね。『ローズマリーの赤ちゃん』(1968年/監督:ロマン・ポランスキー)も好き。邦画では『リング』や『らせん』も観ました。

ところが、20代後半くらいからでしょうか、結婚して子どもを産んだ頃を境に、とんと駄目になりました。もう、怖い怖い! テレビから『世にも奇妙な物語』のテーマ曲が聞こえてくるだけで震え上がるようになりました。笑

不思議ですよねぇ。人間、“守るべき存在が出来ると、“怖いと感じる対象が増えるのかしら?

観覧車やロープウェイなど、“地に足がつかないタイプの高所” も苦手になりました。(高層ビルの展望台など、足の下に土台があれば OK) 富士急ハイランドにあるような激しめの絶叫マシンも、乗る前の心臓バクバクや乗車中の落下がつらくて苦手に。

おっと! このままでは「わたしの怖いもの発表会」になってしまいますね。笑

・・・

――というわけで、怖いものがとても苦手なわたしは『シャイニング』を観るのに、はじめ、すごく勇気が要りました。

「怖い? ねえ、怖い?」(ドキドキ……)涙

という気持ちと

「でも、キューブリックの作品が観たい!」
「すごく観たい!」

という気持ちのせめぎ合い。

でもね、やっぱりキューブリックが好きなので「観たい」気持ちの方が勝っちゃうんですよね♩

・・・

結果的に――


観て良かったです!♡

わたしでもギリギリ観られるレベルだったので、同じように「ホラーはちょっと……」という方でも、おそらく大丈夫だと思います。“ビックリする系” の怖いシーンや “気持ち悪い系” の怖い描写などが「無い」とは言い切れませんが、薄目をあけていれば耐えられる範囲。笑

何より、それを上回る、作品の “クオリティの高さ” と、鑑賞後にどんどん考察を読み漁りたくなる “世界観の奥深さ” が優っています!

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原作はスティーヴン・キングの同名小説

本作は、スティーヴン・キングの小説『シャイニング』が原作。

みなさんご存じの通り、著者のスティーヴン・キングは「モダン・ホラーの帝王」と呼ばれており、世界的に有名な作家ですよね。

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『シャイニング』のほか、前述の『キャリー』をはじめ、『IT』『ミザリー』『グリーンマイル』『ペット・セメタリー』『ミスト』など、数々の小説が映画化されています。

・・・

キューブリックの映画版『シャイニング』について、原作者のキングは「こんなん『シャイニング』ちゃう!」と相当お気に召さなかったようで、かなり “激おこぷんぷん丸”(古い、笑)だったとか。これも有名なお話ですよね。

巨匠スタンリー・キューブリックによる映画化で世界的に著名となった同作だが、彼はキングの原作を大幅に変更しており、殆ど別作品に近い趣になっている。これについて原作者であるキングはキューブリックへの批判を繰り返し、後に「映画版へのバッシングを自重する」事を条件にドラマ版で再映像化を試みた程であった(ただし、キューブリックの死後は映画版への批判を繰り返している)。
(出典:Wikipedia「シャイニング(映画)」)

こちらがその、キング自ら再映像化したドラマ版のシャイニング』。

ドラマ版も気になります。両方観たら、さらに世界が広がりそうですね♩

はるひの『シャイニング』おすすめポイント♩

さて、ここでもう一度、わたしの感想ツイートを振り返ってみましょう。

シンメトリーな構図の美しさよ! 音楽の使い方の巧さよ! 今にも落ちそうな煙草の灰。寝室の鏡越しに映るニコルソン。煽りのカメラアングル。英国アクセントの "correct"!どれもが不安。ゾクゾクする怖さ。素晴らしい。

わたしが思う、本作の「すごい!」ところ。それはもうたくさんあるのですが、いくつかピックアップしてご紹介してみたいと思います♩

1|シンメトリーな構図の美しさ

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スタンリー・キューブリックといえば「シンメトリー」!

2001年宇宙の旅』でも たくさん画像を載せてご紹介していますが、シンメトリー左右対称な構図を好んで使っているのがキューブリック作品の特徴。これがまた美しいのです♩

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このカーペットの柄も、キューブリック好き・映画好きの間では有名ですね!

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こちらは『トイ・ストーリー』の中に出てくる、オマージュ。ウッディとバズがシドの家を行くシーン。カーペットの柄が「シャイニング柄」!

Google で「シャイニング」+「カーペット」+「柄」と検索すると、この柄をモチーフにしたグッズがたくさん売られています。

この柄の元々のデザインは、1970年代に活躍したイギリスのインテリアデザイナー、デービッド・ヒックスによるもの。――とのことです。詳細はこちら

2|音楽の使いかたの巧さ

映画のために作曲されたオリジナル曲ではなく、既存する曲の引き出しが豊富で、とりわけクラシック音楽や現代音楽への造詣が深く、絶妙な選曲センスのもと作中で使用するのが巧い! これもキューブリックの特徴だと思います。

上のオープニング・シークエンスで流れるのは、本作の音楽を担当したウェンディ・カルロスレイチェル・エルカインドによるテーマ曲。元になっているのは、グレゴリオ聖歌怒りの日』の旋律。重々しく、これから “何やら良からぬことが起こりそう” な不安を感じさせます。

ほかに作中では、バルトーク『弦楽器と打楽器とチェレスタのための音楽(第3楽章)』、リゲティ『ロンターノ』、ペンデレツキ『ヤコブの目覚め』――などの既存曲が使われているのですが、どれも不穏な雰囲気がシーンにマッチしていて、怖い!涙

作品を解釈する上で重要となるボウルルームのシーンでは、1920年代の華麗で優雅な曲が流れるのですが、キューブリックの演出と合わさると、なぜか不気味に感じるという ――この巧みさ。

3|カメラアングルがつくりだす「怖さ」

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暗示的な「鏡への映り込み」。うわぁ、怖い怖い怖い怖い! このシーンの “ゾゾッ” とする感じ、ぜひ本編で味わってください。

・・・

「煽り」のアングル ――って言葉、聞いたことがあるでしょうか?  登場人物などの撮影対象をカメラが上下方向のどの視点から捉えるかを表す用語で、「煽りアオリ」と「俯瞰フカン」があります。

人物を高い位置から見下ろして撮るのが「俯瞰」(フカン)。
人物を低い位置から見上げて撮るのが「煽り」(アオリ)。

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このシーンの極端な煽りアングル、すごく印象的でした! 怖い! 煽りアングルは迫力が出ますよね。

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「レッドラーム」!怖い怖い!

4|ダニーが乗る三輪車の音!

冬季閉鎖中のホテルを三輪車で走って遊ぶダニー坊や。その姿を背後からステディカムで長回しで追う、こちらも有名なシーン。

ゴーーーーーーーーーー
(フローリングの床の上を走る音)

サーーーーーーーーーー
(柔らかい絨毯の上を走る音)

父親ジャック、母親ウェンディ、息子のダニー。この3人しかいない、由緒あるシックなリゾートホテル。外は深い雪。閉ざされた環境。その閑散とした、だだっ広い空間に、三輪車のタイヤの音だけが反響しているのです。

「ゴーーーーーーーーーー」
「サーーーーーーーーーー」
「ゴーーーーーーーーーー」
「サーーーーーーーーーー」

ただそれだけなのにものっっっすごく怖いんです! 個人的に、わたしの印象に残ったシーン・第1位です。怖いけれど、それと同時に嬉しさでゾクゾクする瞬間でもありました。

怖い映像も怖いセリフも出てこないのに、この描写だけでこれだけの恐怖を想起させるなんて!

そういう映画をつくれる、こんなに才能豊かな監督がいるなんて!

と感じたから。

5|英国アクセントの "correct"

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作中、ジャック(ジャック・ニコルソン)が接する相手として登場する「グレイディ」(フィリップ・ストーン)という人物がいます。

いかにも慇懃いんぎんな英国執事――といった風情のグレイディは、オーバールック・ホテルのウエイター。ホテルがあるのはアメリカのコロラド州ですが、彼は英国風のアクセントで英語を話します。

「お気に障るかもしれませんが、トランス様。言うことを聞かない奥様とご子息には “しつけ” が必要ですな」

と、静かに、上品に、ジャックに語り掛けます。このシーンで “しつけ” と和訳されている部分が、英語のオリジナル脚本では "correct" という単語なんですよね。

But I corrected them sir. And when my wife tried to prevent me from doing my duty, I "corrected" her.
「私は娘たちをしつけました。妻が私の義務を果たすのを邪魔しようとした時は、妻もしつけました」

いやぁ~、これが怖いのなんの!

correct [ kərékt ]
形容詞: 正しい、間違いのない、正確な
動詞: 直す、正す、修正する、叱る、矯正する

グレイディが言っているのは、動詞のほうですね……(ぞぞぞ)

6|神は細部に宿る

スタンリー・キューブリックという監督が凄いのは、こういうところなのです。

まさに「神は細部に宿る」ですね。


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