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小さな語りシリーズ2024/06/19  Small Story Serie

2024/06/19「筆箱」"Pencil case" 夏の日差しが窓から差し込む部屋で、小学生の少年は机に向かって宿題をしていた。宿題のプリントに集中しようとするが、なかなか進まない。外から聞こえるセミの鳴き声が、何となく彼の気持ちをそわそわさせている。 部屋の隅に置かれた扇風機が静かに回り、心地よい風を送ってくれる。彼は一度手を止めて、机の上に並べられた鉛筆や消しゴムを見つめた。ふと、視線が昔使っていた筆箱に止まる。それは母親から譲り受けた、彼にとってとても大切なもの

    • 小さな語りシリーズ2024/06/18  Small Story Serie

      2024/06/18「プレゼンテーション」"Presentation" 朝のオフィスは忙しさに満ちていた。窓からは夏の強い日差しが差し込み、デスクの上に散らばる書類やパソコンの画面を照らしていた。俺は自分の席に座り、今日のプレゼンテーションの準備を進めていた。プレゼンテーションの内容は、新しいプロジェクトの提案だった。俺は緊張と期待が入り混じった気持ちで資料を確認し、何度もスライドを見直した。 「緊張しているのか? 大丈夫だ、お前ならできるさ」隣の席の同僚が声をかけてきた

      • 小さな語りシリーズ2024/06/17  Small Story Serie

        2024/06/17「ビー玉」"Marble" 夏の夕暮れ、私は古い家の庭で一人佇んでいた。庭の奥にある大きな木の下には、昔遊んだ場所がそのまま残っている。手入れされず荒れ果てたその場所は、今でも子供時代の思い出をしっかりと抱えている。 ある日、私は庭の片隅で何かが光るのを見つけた。そっと手に取ると、それはビー玉だった。透き通った青色のビー玉が、夕日を受けてまるで小さな宇宙のように輝いていた。そのビー玉を見ると、幼い日の記憶が一気に蘇ってきた。 あの頃、私はよく兄と一緒

        • 小さな語りシリーズ2024/06/16  Small Story Serie

          2024/06/16「そば処」"Soba restaurant" 夏の蒸し暑い昼下がり、二人のサラリーマンが汗をぬぐいながら歩いていた。オフィスを離れて少し気分転換をしようということで、何気なく始まった散歩だった。セミの鳴き声が遠くから聞こえ、アスファルトの上を陽炎が揺れていた。 「どこかで涼もうか」と、一人が提案する。 「そうだな」と、もう一人が応じる。 二人は細い路地に入り、見覚えのない通りを進んでいく。ふと、懐かしい看板が目に入った。「そば処」の文字が、淡い緑色

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          小さな語りシリーズ2024/06/15  Small Story Serie

          2024/06/15「灯台」"Lighthouse" 海辺の小さな町には、夏の風が穏やかに吹き、潮の香りが町中に漂っていた。彼と彼女は、毎年この時期になると、この町を訪れることにしていた。今回は、少し特別な日であることをお互いに感じていた。 彼らは静かな海辺の小道を歩きながら、ゆっくりとした時間を楽しんでいた。彼が見つけた小さな漁師の家は、まるで時が止まったかのように、昔ながらの佇まいを保っていた。彼女はその家の前で立ち止まり、懐かしそうに微笑んだ。「こんな場所、昔から知

          小さな語りシリーズ2024/06/15  Small Story Serie

          小さな語りシリーズ2024/06/14  Small Story Serie

          2024/06/14「香水」"Perfume" 夏の午後、蝉の声が響く中、彼と彼女は学校の屋上に座っていた。風が吹くたびに、二人の髪が軽やかに揺れた。彼女はお弁当を広げ、彼はその横で笑顔を見せた。太陽が眩しくて、彼らは目を細めながら、お互いの話に耳を傾けた。 「今日も暑いね」と彼女が言った。 「うん、でも君と一緒だから気にならないよ」と彼は答えた。 二人は笑い合いながら、ふとした瞬間に手が触れ合った。その瞬間、彼女は彼の手から香る香水の匂いに気づいた。甘くて爽やかな香

          小さな語りシリーズ2024/06/14  Small Story Serie

          小さな語りシリーズ2024/06/13  Small Story Serie

          2024/06/13「炭酸飲料」"Carbonated drink" 夏の昼下がり、都会の片隅にある雑居ビルの一角。小さなアパートの一室で、窓からは蝉の声が微かに聞こえてくる。部屋の中にはエアコンの音とともに、二人の男友達が過ごしていた。 一人はソファに座り、もう一人は床に寝そべっている。彼らは幼馴染で、もう何十年も一緒に過ごしてきた。今日もいつものように、特別なことは何もなく、ただのんびりとした時間を共有している。 「夏ってさ、やっぱりいいよな」と、ソファに座る友達が

          小さな語りシリーズ2024/06/13  Small Story Serie

          小さな語りシリーズ2024/06/12  Small Story Serie

          2024/06/12「ペンダント」"Pendant" デパートの装飾品店の窓辺で、夕暮れの光が柔らかく差し込む。彼女は小さなショーケースの前で足を止めた。彼もすぐ後ろに立ち、彼女の肩越しにショーケースの中を覗き込む。二人の間に流れる空気は、特別なものを共有しているような穏やかな緊張感で満たされていた。 彼女は指先でガラスをなぞりながら、ふと微笑んだ。「これ、見て」と彼女が言うと、彼もその視線を追った。そこには、小さなペンダントがあった。シンプルだけれども洗練されたデザイン

          小さな語りシリーズ2024/06/12  Small Story Serie

          小さな語りシリーズ2024/06/11  Small Story Serie

          2024/06/11「背比べ」"Comparing heights" コンクリートと鉄骨のただ広い体育館で、授業を終えて教室へと戻るクラスメイトたちに交じり、フェイスタオルで額の汗をぬぐいながら僕は親友と肩を並べて、出口へと向かっていた。 「こんな蒸し暑い日にバスケの授業とか、まじきついな」と親友が隣で愚痴る。 僕は頷き、「まあね。のどか湧き過ぎて死ぬかと思った」と応えて、はぁ、と一つ息をついた。 体育館を出ると、出入り口のそばにあるベンチへと僕らは腰を掛けた。他のクラ

          小さな語りシリーズ2024/06/11  Small Story Serie

          小さな語りシリーズ2024/06/10  Small Story Serie

          2024/06/10「生け花」"Flower Arrangement" 雨の降る静かな朝だった。窓から見える街並みは、淡い灰色に包まれていた。彼女は部屋の片隅で、花瓶に飾った生け花をじっと見つめていた。その花々は色とりどりで、まるで彼女の心の中の様々な感情を映し出しているかのようだった。 彼は、台所でコーヒーを入れていた。豆を挽く音、湯が沸く音、すべてが心地よいリズムを奏でていた。ふとした瞬間に彼女の視線と交わり、二人の間には言葉にならない温かさが流れた。彼は微笑み、コー

          小さな語りシリーズ2024/06/10  Small Story Serie

          小さな語りシリーズ2024/06/09  Small Story Serie

          2024/06/09「意地っ張り」"Obstinacy" 彼は毎朝、同じ時間に駅のホームに立っていた。コーヒーショップの小さなカウンターでカフェラテを注文し、片手にビジネス新聞を持ちながら、会社へと向かう電車を待つ。30代半ばの彼は、同僚たちから「意地っ張り」と言われていた。それは、いつも自分の意見を曲げず、自分のやり方に固執する姿勢から来ている。しかし、彼自身はその評価を気にしていなかった。 ある日、いつものように電車を待ちながら、ふと中学時代の友人からのメッセージがス

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          小さな語りシリーズ2024/06/08  Small Story Serie

          2024/06/08「母の誕生日」"Mother's Birthday" 静かな午後の光が差し込むリビングで、彼女は母の誕生日のお祝いする準備をしていた。テーブルには、手作りのケーキと紅茶が並び、窓からは涼しい風がカーテンを揺らしていた。日常の喧騒から離れたこの穏やかな時間は、彼女にとって特別なものだった。 母の誕生日を祝うために、家族が集まるのはいつものことだったが、今年は少し特別だった。彼女は、昔から大切にしていた古い箱を取り出し、中にしまわれていた思い出の品々を丁寧

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          小さな語りシリーズ2024/06/07  Small Story Serie

          2024/06/07「君のための肩」"My shoulder for you" 早朝の電車の中は、まだ静かな空気に包まれていた。窓の外には淡い朝の光が差し込み、眠りから覚めたばかりの街をぼんやりと映し出していた。窓の外を過ぎていく建物を目で追いながら、僕と彼女はひんやりとして座席に座って揺られている。 昨夜はいつもより早く寝たけれど、毎日の授業や部活の疲れがまだ体の中に残っている。僕の隣で彼女は真面目にも英語の参考書を開いて、英単語を勉強している。けれど、同様に彼女も普段

          小さな語りシリーズ2024/06/07  Small Story Serie

          小さな語りシリーズ2024/06/06  Small Story Serie

          2024/06/06「カーテン」"Curtain" その日、私の部屋に差し込む午後の光は、特別に柔らかく感じられた。梅雨の季節が近づき、窓の外は薄曇りの空が広がっていた。私はその光を楽しみながら、静かな時間を過ごしていた。部屋の隅にはお気に入りのソファがあり、そこに座ると、一瞬で安心感に包まれた。 部屋にはたくさんの思い出が詰まっている。壁に掛けられた写真、棚に並ぶ本たち、一つひとつが私の人生の一部だ。窓辺に近づき、私はふとカーテンを引いた。その瞬間、胸の奥が温かくなった

          小さな語りシリーズ2024/06/06  Small Story Serie

          小さな語りシリーズ2024/06/05  Small Story Serie

          2024/06/05「独り言」"Speaking to oneself" 毎朝、私は決まった時間に家を出て、少し離れたところにある小さな商店街に向かう。そこには、昔ながらの八百屋やパン屋が並んでいて、温かみのある風景が広がっている。今日もその道を歩いていると、ふと懐かしい香りが漂ってきた。 商店街の一角には、古いが手入れの行き届いた文房具店がある。その店の前を通り過ぎるとき、ガラス越しに見える色とりどりの紙やペンが私の心を和ませた。幼い頃、母と一緒に訪れた記憶が蘇り、自然

          小さな語りシリーズ2024/06/05  Small Story Serie

          小さな語りシリーズ2024/06/04  Small Story Serie

          2024/06/04「味噌汁」"Miso Soup" 六月上旬のとある日、その日は雨がしとしとと降る朝だった。彼女はキッチンの窓から庭を眺めながら、心地よい静けさに包まれていた。薄暗い空と緑の草木が、まるで絵画のように美しかった。 彼はテーブルに座り、新聞を広げながら静かにコーヒーを飲んでいた。私はキッチンで朝食の準備を進めていた。温かい湯気が立つ鍋を見て、ふと思い出したことがあった。 「今日の味噌汁に何を入れようか?」と彼に問いかけた。彼は新聞から目を離して宙を見つめ

          小さな語りシリーズ2024/06/04  Small Story Serie