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よりみち通信

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毎月1回発行している『よりみち通信』。 紙媒体でも配布していますが、noteでも読めるように1年分をこちらのマガジンにまとめていきます。
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#読書会

3割が支配する国――小熊英二『日本社会のしくみ 雇用・教育・福祉の歴史社会学』(講談社現代新書、2019)評

3割が支配する国――小熊英二『日本社会のしくみ 雇用・教育・福祉の歴史社会学』(講談社現代新書、2019)評

「いい学校、いい会社、いい人生」という言葉がある。受験競争を勝ち抜いて「いい学校」に通い、そこから「いい会社」に正社員(終身雇用・年功賃金)として就職すること。「いい人生」を送りたければ、〈いま・ここ〉の欲望は封印し、そうした先の目標のためにがんばらねばならない。多くの子ども・若者を加熱するおなじみのスローガンだが、それが該当するのはかつてもいまも人口の3割ていどにすぎない。

日本社会を生きる人

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日本で女性差別がなくならない理由――上野千鶴子『女たちのサバイバル作戦』
(文春新書、2013年)評

日本で女性差別がなくならない理由――上野千鶴子『女たちのサバイバル作戦』 (文春新書、2013年)評

多くの日本人にとって、現代の日本は、1985年成立の男女雇用機会均等法、1999年成立の男女共同参画社会基本法を経て、職場や社会の男女平等が成り立っている国だというのが一般的なイメージであろう。これらは小学校から高校までの社会科系の教科書で繰り返し姿を現し、暗記させられるものであり、それが上記イメージ浸透の理由であろう。だが、それが単なる建前で、実態はまるで異なる男女不平等、女性差別がなお横行する

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勝手にふるえてろ――椹木野衣『震美術論』(美術出版社、2017年)評

勝手にふるえてろ――椹木野衣『震美術論』(美術出版社、2017年)評

著者はかつて『日本・現代・美術』(新潮社、1998年)において、戦後日本美術史の「閉じられた円環」を名指すべく「悪い場所」なる概念を提示した。そこでは、〈歴史〉が垂直に積みあがっていかず、忘却と反復とが永劫に回帰する。各自思い当たるところがあろう。

続編となる本書ではそうした忘却と反復が、戦後日本のねじれではなく、日本列島の大地動乱に由来するものとされ、時間軸を「戦後」以前にさかのぼっていきなが

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よりみち読書会01『震美術論』感想

よりみち読書会01『震美術論』感想

前作(『日本・現代・美術』)を含め、大きなテーマは「悪い場所」である。戦後日本に(のみならず、近代からずっと)続いてきた「反復と忘却」は、日本の美術史という枠組みを成立不可能にしてきた。

そして、災害が繰り返される日本列島という成り立ちもまた、日本美術史の成立を阻んでいる。というか、その「繰り返される災害」という視点でこそ、初めて日本の美術というものをくくれるのではないか。

ヨーロッパ史から地

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