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ちぎれ雲の空隙から零れ落ちる透明な滴は静と動の世界を映し出す。あの小さな白金色の水滴に私の青春の全てが凝縮されている_____

2限目が予定より10分早く終わり、親友の春海と一緒に教室を飛び出して外に面したカフェテリアの椅子に腰掛ける。
他のクラスはまだ授業中なのかグラウンドに人影はなく、雨粒が屋根にはじける音だけがひときわ大きく響いていた。
2人だけで学校の外の世界を占領しているようでなんだかものすごい優越感に満ちてくる。
しばらくの間、儚く宙に散る水滴の一粒一粒を2人で黙ってじっと見つめていた。
「雨ってなんか好きなんだよね」とふいに春海がぽつりと呟く。
そういう彼女の感性が私は大好きだった。
鮮やかな孤独と静かな充足感。
私たちの幽けき青いろの世界に言葉はいらなかった。
お互いの呼気だけで繋がっていられる。

そんな静けさに包まれた時間とは裏腹に
お昼休みは仲良しグループの4人で鬼ごっこをして遊んだ。
無数の雨粒が私たちの髪を、肌を、制服を甘く濡らす。
きゃっきゃっと叫ぶにぎやかな声。
馬のように駆け回り芝生の草まみれになった私たちの身体はまるで翡翠のように輝いていた。
あたりの草木からは腐り落ちた果実のような甘やかな匂いが漂う。
宙に舞い無邪気に笑う4人の少女たちの幻影を今でもたまに夢に見る。

これが私が覚えている雨の日の記憶。

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